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国守の愛 第1章      作者: 國生さゆり  
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富士子編  20 西浜総合病院 屋上


 


  シーン20 西浜総合病院  屋上



 西浜は先祖代々が受け継いで来た西浜総合病院の屋上で、徹夜明けの休憩をねて一息入れていた。 大正時代から数えて8代目にあたる西浜の院長就任は、決して平坦な道のりではなかった。太陽に顔をかざし、全身に18時間ぶりの陽光を浴びていると、「西浜先生」宗弥のキリリとする声で名を呼ばれて振り返る。要を先頭に屈強くっきょうな身体つきの男が4人、西浜に向かって歩いてきていた。



 西浜はその姿を見て時間きっかりだと思う。黒のスーツを着た男たちが 静かに発している覇気はき気圧けおされたが、気持ちの切り替えが早い西浜は笑顔で出迎える。



 西浜の前に立った要は「西浜先生、お久しぶりです」と言って柔かく笑い、きっちりと45°意志ある背を折って挨拶した。その顔つきを見て、西浜は変わりがなくてよかったと安堵した。



 西浜は間近で桜が舞い散るような要の近接戦闘を目にした時、その心の奥底に押しとどめている自己破壊衝動のうれいにも似た移ろいがあると気づいた。当の要はその衝動に気づいていないのか、上手うまく隠しているのかまでは、今も西浜は判断できかねているが、医師としての経験にもとづいた西浜の洞察どうさつは、要のあやうさを知っている。



 久しぶりに会った要に対して、西浜の洞察力は何も言ってこない。「元気そうで、安心した」西浜は心からの声を口にする。そして要の隣に立つ宗弥に視線を移して「頑張っているかい?」と声を掛けた。



 宗弥は信頼の眼差しで西浜を見ると「はい」と答え、目線を頭に移して「先生、白髪増えましたね」と言った。毛量は昔のまま減ってはいなかったが、黒一色だった西浜の髪は、ここ半年で銀髪になっていた。「流行に乗ったんだ」西浜は大真面目な顔でこたえる。



 アルファーがパキスタンに派遣されていた時期、西浜はアフガニスタンで国境なき医師として、難民医療にたずさわっていた。キャンプ地で要は民間企業の警備主任として、宗弥は警備員兼、医療助手の立場で西浜と生活を共にし、要と宗弥は紛争地域で西浜がおこう診療や 、医療機器、薬品などの輸送のさいも、同行して警備にあたっていた。要と宗弥には情報収集の目的があった。



 宗弥は限られた設備、医療器具で行う治療に、過酷な環境下で負傷者に対して、命の優先順位を付けねばならぬことに、その全てが終わったあと心に残響ざんきょうする葛藤かっとうに、精神が疲弊ひへいするようになってきた時期に西浜と出会った。



 西浜の医師としての心得こころえに触れた宗弥は、西浜に学びを求め、快諾した西浜を宗弥は見て、真似て、見習って、自己の不協和音する心を、着地させるすべを己のものとした。



 要と宗弥と西浜はアフガニスタンで、共に善行悪行を見た。苦楽を共にして僚友りょうゆうとなった。その時から西浜は、二人の素性に気づいていたが、何も聞かずにいる。



 要は「先生、この病院に入院している盾石グループ会長、盾石国男さんを我々が警備したいと、うちの警備会社の担当者からご連絡があったと思います。チームのものと、改めてご挨拶に上がりました。宜しくお願い致します」ピリリとする声で言い、続けての宗弥が「聞いているとは思いますが、先生、会長の病室の並びにある2、3室あいだを開けた一室も、我々の待機部屋としてお借りしたいです。もちろん費用はウチ持ちです」砕けた口調で付け加えた。



 西浜が「君たちが来るとは、何かあるのかな?」と聞いたが、宗弥は「過保護なだけです」と、どうにでもえられるように返答する。西浜が「規定上きていじょうか」とつぶやいた。



 聞きとった要は、改めて深く頭を下げる。その姿を見た西浜は太陽を見上げ「しょうがないなー」と伸びをしながら言い、視線を男たちに向け「会長が使う予定の階にいる患者さんは2人。他の棟に移っていただくかー」明快な声で男たちに笑い掛ける。



  5人の男たちは意志ある背を折り、最敬礼した。

    



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