富士子編 12 行動 前半
シーン12 行動 前半
要はアルファーチームの拠点にいた。今作戦のために本陣・総務部が急遽、借り受けて用意した元は銀行の支店で、今は喫茶店になっている店だ。この拠点をアルファーは“map“と呼び、mapは盾石家と本社ビルの中間に位置する場所にある。
店内の奥にある貸し金庫室で要が通常解体したガスブローバックハンドガン・グロック26の部品を、テーブルの上に敷いたタオルの上に並べ、インナーバレルの内側を掃除していると、緊急・暗号打電の着信音がけたたましく鳴った。音設定は本陣。
パイプ椅子から素早く立ち上がった要は、PC機器がのる長机の前に立つ。PC前に座っている通信担当のターキーが、打電を素早く解読して読み上げてゆく。
「アメリカ上院・院内総務に近い人物より、情報取得。信憑性高し。20:00時、芝浦竹田株式会社所有、倉庫番号12 付近にて、盾石国男氏がアメリカ軍情報士官と接触する。液体デイバイス情報供与の疑いあり。至急、盾石国男の身柄確保されたし。本陣に連行せよ」
要はiPhone Watchに視線を落とす、19時23分。
即座に動いた要は座っていたパイプ椅子の背から、革ジャンを取り上げて羽織りつつ「ターキー、総員のスマホに本陣からの打電、倉庫12の住所、周辺地図を送れ。僕にはメットのバイザーに頼む」と指示する。
作業に入ったターキーに、テーブルのグロックを組みあげながらの要が続ける。「それから、本社ビル周辺の割り出しておいた建物、ABCDEの監視カメラから映像をぬき、国男の姿と不審を探れ。まずは正面玄関方向のAからだ。僕はバイクで芝浦に向かう」背筋がピシリと立つような声で指示しながらの要はグロッグに弾倉を入れ、弾丸を装填するや、ヒラリと黒のスリムパンツの腰にグロックを差し込んで、足早にガンラック前に移動した。
そこに体内埋め込み式、内耳モニターに通信が入る。[送る。ファイターからイエーガー、国男が運転する車が左折禁止をいきなり左折した。国男は俺達を振り切って芝浦方面に向かってる。イエーガー、LOSTだ!国男をLOSTした!すまない!]チャンスと共に、国男を監視警護していたファイターからだった。
一瞬、絶句した要は[送る。イエーガーからファイター、国男の行動に普段と違う点はなかったか?]と入れ、[送る。ファイターからイエーガー、国男は運転手を使わず、自走で本社ビルを出た。赤いジュラルミンケースを持っていた]、ファイターからの報告を聞きながら、同時に左右の手で1つずつ掴んだ予備弾倉を、黒のストレッチパンツの左右後ろポケットに差し込んで[了]と返した要は、「行ってくる」とターキーに声をかけつつ、走り出す。
店内を走り抜けながら[送る。イエーガーからファイター、今どこだ?]と聞く。[送る。ファイターからイエーガー、高輪駅近く]とファイターから入り、[了。僕もこれから向かう]と言いながら、大きく開けた玄関ドアの留金を左足で蹴り留め、店内にオブジェ風においてあるバイクへと走る。
レーシンググローブをはめ、フルフェイスメットを装着し、バイクを店外に出しながらエンジンを始動させ、公道に出るや、バイクに飛び乗り、ロケットスタートさせた。
エンジンに息つく暇も与えず、ギアを上げてゆく。今はローターの機嫌を伺っている余裕なんてない。車体に身体を密着させて車と車の間を、車線の隙間を、縫うように走行する要は[送る。イエーガーから総員、本陣からの指令を遂行する。ターキーに盾石本社ビル周辺の監視カメラから、不審の痕跡がないか探らせている。ターキー、何か見つかり次第、随時、その情報を総員に流せ。ファイター、チャンス、国男と接触するのは情報士官1人とは限らない。倉庫周辺に目を配れ。ファイター、倉庫を見渡せるFFPを確保。チャンス、国男から赤いジュラルミンケースを受け取った後、何らかの手段で国男を殺害するかもしれない。現場で工作が必要になる恐れがある。あらゆる事態に備えろ。フレミング、トーキー、国男の件は撹乱工作かもしれない、これに乗じて何か仕掛けてくる可能性がある。富士子から絶対に目を離すな]と矢継ぎ早に指示を入れる。
フレミングこと宗弥は瞬時に反応し[わかってる!!暗号打電を読み上げるターキーの声を聞いていた!要、おじさんの行動には、何か理由があるはずだ。富士子はまだ本社ビルにいる。頼んだぞ!!]と返し、助手席から自分を凝視しているトーキーの顔を宗弥が見る。その宗弥に「国男さんは裏切るつもりなんですかね⁈」と聞いたトーキーに、宗弥が顎を固くして「それはない!」と荒れる口調で断言する。その剣幕にトーキーは目を見開き、その目をフロントボックスに移して双眼鏡を取り出し、盾石本社ビルの一階周辺を警戒し始め「ですが、院内総務の側近からの情報ですよ。決定的じゃないですか」と鋭くも澄んだ声でそう言い、かぶせるように「おじさんが会うのも、アメリカ情報士官だ。何かが変だとは思わないか、身内を売るなんて」と言った宗弥は、“国男密会“と知らせて来た情報の出所が気に入らない。
[送る。ターキーからイエーガー、総員の内耳モニター通信をジャミングに備えて、秘匿衛星にリンクさせてメール送信しました。イエーガーのメットにも送信済みです。確認願います]とターキーから入り、[了]と応えた要は離陸かと思えるほどに、バイクをブッ飛ばして首都高速の入り口へ急行していた。
浮き上がりかねない車体に身体を覆い被せ、力でねじ込んで操作する要が「送信者ターキー。最新メール標示」と口にして、ヘルメットのバイザーに分割モニターを呼び出す。映し出された倉庫の周辺地図を記憶し、「メールOUT」と言葉にする。倉庫が密集していて見通しが悪い。身をひそめられる物陰も多い。やはり、こんな場所で密会とは会うだけではすまなそうだ。「クソ!」と毒づいてなおもアクセルを開く。
首都高を走行中の要に、[送る。ターキーからイエーガー、ベーターチームが国男の社用車に、1年前に取り付けた発信器が生きていました。現在国男は、海岸通りを品川方向に向けて走行中]と内耳モニターに入り、続けて[了。送る。ファイターからイエーガー、3分後に倉庫から12時方向、本村ビル屋上にFFPを確保する]、[送る。チャンスから総員。海岸1丁目交差点が見渡せる場所にローバーを停止しました。車内から周辺監視中。異常見当たりません]、[送る。トーキーから総員、盾石本社ビルの敷地内、異常なし]、続々とチーム各員からの報告が入る。
バイクの速度は180kを超え、それでもアクセルを開く要が[了。送る。イエーガーから総員。現在、首都高走行中。約1分後、芝浦出口を通過する。ターキー、不測の事態が起き、救急搬送が必要になった場合、本陣との申し合わせ通り、敵味方問わず、西浜総合病院に搬送する。本陣から西浜医師に一報入れるよう進言してくれ]と入れると、宗弥から[要、俺からも西浜先生に連絡入れとく]と入り、[了]と応えた要は芝浦出口を通過した。
海岸通りに入ると大型ダンプカーがUターンして、バイクの前に割り込んできた。急ブレーキをかけて避け、バイクの後輪が浮く。そのダンプカーの気配に異常を嗅ぎ取った要は、運転席を見ようと速度を上げるが、ダンプカーは左折する。直感に従って追尾すると、二車線の海岸線道路に出た。
一直線の道路前方を確認する。250メートル先の交差点に、国男の運転する車が右折ラインで信号待ちしていた。青信号に変わる。国男の車が動き出す。
前を走るダンプカーがクウンと加速し、信号無視をすると同時に運転席の窓が開きだし、ショットガンの銃口が突き出てきた。
それを見た要が叫ぶ。[ファイター!僕が見えてるか!]、[見えてる]、[ダンプカーの運転手は国男の車に突っ込む気だ。右前輪を狙え!合図と同時に狙撃!]と指示を飛ばし、すでに狙撃態勢を整え、スナイパーモードのファイターは清正な呼吸の元で[了]と返す。
タンクを両太ももで挟んで体を起こし、瞬時に腰に回してグロッグのグリップを掴んだ右手を、一気に正面に据えて左手を添え、構えた要は標的を定め[射っ!]と発す。
ファイターも同時発砲し、先に要が放ったグロッグの弾丸が右後部タイアに着弾し、続けてファイターのNATO弾が右前輪を撃ち抜く。両タイヤが破裂する。ダンプカーの右側が浮き上がり、左に傾いた車両が進路を外れ速度を増幅する。グワシャン!!と轟音を立てて180°横転し、アスファルトに屋根を擦り付けながら、勢いのままに防波堤を目掛けて一直線に進み、ダシャン!!!!!と激突する。
要は国男の車を見た。急ブレーキを踏んだせいで後輪が左に滑べり出し、ダンプカーに突入しだす。咄嗟にバイクの左側面を下にして横滑りさせた。
要の身体が浮く。
それでも要は最後の瞬間までハンドルを離さず、ダンプカーと国男の車の間にバイクを挟み込ませようと、限界まで角度をつける。手を離した瞬間、
要は後方に飛んだ。
反射的に身体を丸めて受け身の体勢を取り、アスファルトに叩きつけられる衝撃に備えた。
ダァン!!と着地した要が「うっ!」と鋭い息を吐く。もう1度バウンドし、ゴロゴロと転がり始めたが、抵抗ぜず、勢いが収まるのを待つ。
身体の回転が止まると即時に起き上がり、メットを取りながら国男の車へと全速力で要は走る。