富士子編 11 会長室
シーン11 会長室
国男は黒のハーマンミラーエンポディチェアに座り、盾石グループの前身である盾石商店創業者、祖父の盾石幹雄が特注し、国男の父・盾石敏夫から自分へと受け継がれた飴色の屋久杉のデスクを、右手の中指でトントンと打ちながら、内線電話を使って樽太郎と話していた。
「そうだ。今夜の中村議員との食事会をキャンセルしてほしいんだ。ああ、わかってる、樽太郎。ああ、それも承知している。それから、今夜は運転手を使いたくない。その手配も頼む。いや、車は私が使う。急な変更ですまない。お願いしたよ」 と言って受話器を置くや、国男は遠い目で考えを走らせる。
“ 会うしかない” そう、そう決めて、スーツの内ポケットから個人スマホを取り出し、覚えている電話番号を入力し始め、相手が出ると国男は「ゼネラル ダイナミックス社、ロバート・ゼロさんですか?」と確認した。
国男はまたデスクを右手の中指で打ち始め、相手の話を聞くうちにリズムは崩れ「用意しました。今夜は20時くらいでどうですか? 前回とは? ああ、そうですか。違う場所ですか、芝浦倉庫の、、ああ、あそこですね。いつも通りにこちらから合図させて頂きます。合図がなければ日を改めさせてください。では」と言ってs電話をOFFにする。
国男は、背中に冷たい汗が ツーっと一筋流れたのを感じた。