9 体調不良
翌日目が覚めると、頭痛はすっかり消えていた。夢も見ずにぐっすり眠ったようだが、なんとなく胃の辺りが気持ち悪い。
体調が悪い自覚があるし、予習復習もサボっているわけではない。
慣れない事を始めたり、……知らなくていい人の知らなくていい性癖を知ったり……ドルマン様がよくわからなくなったり、私も疲れたのだろう。
塩対応返しをする、と決めて3日でこれとは情けない限りだ。が、侍女達が入ってくると私の顔色はよほど悪かったらしい。
「大丈夫ですか……?! 誰か、お医者様を!」
「はいっ!」
言うまでもなく、私は学園を休むことになった。
普段なら侍女が来る前か、ちょうどくらいに起き上がる私だが、今日はだめだ。
体が重くて起き上がれない。喉が乾いたな、と枕元の水差しとコップを見ると、背にたくさんのクッションを挟まれて起き上がって水を飲ませてもらった。
「お姉様……? 大丈夫ですの?」
「ヴェネティス……、大丈夫よ。お父様にサインをもらって、貴女の通学の時に休日届けを持っていってくれるかしら……」
「わかったわ。……あんまり、無理しちゃだめよ」
心配そうな、困ったような顔で言われて、私は少し笑った。なかなか素直で可愛い妹だ。
ヴェネティスが私に『私の方がドルマン様に』と言い出したのも、そういえばいつだったかと考えようとすると頭がまた痛んだ。
私はどうやら、思い出さなければならない事が結構あるようだ。しかし、それは全て気持ちのいい思い出では無いらしい。
(せめて、ヴェネティスの気持ちだけでも……聞かないと)
が、彼女は学園に行くし、私は体が重くて胃が気持ち悪い上に、頭痛もする。
侍女が額に手を当てて熱を測り、少し熱が高いようだ、とも言われた。
お医者様の診断を待って、うつるような病気でなければ、今日帰ってきたヴェネティスに話を聞いてみよう。
「グレース、大丈夫か?!」
「もうすぐお医者様が来るからね」
「お父様、お母様……あの、大丈夫です。休日届けをヴェネティスに持たせてください、先程頼んだので……」
心配性の両親は、私たち姉妹が体調を崩すと心配してすぐに顔を出す。
侍女の裁量で医者を呼んでいいことになっているのもそのせいだ。
私たちは二人とも、小さな頃はよく病気がちだった。体が弱いというよりも、風邪をひきやすいとか、疲れやすいという体力のなさが原因のものだけれど。
だから久しぶりに体調を崩して心配をかけてしまった。ヴェネティスも顔を出したくらいだし、私もヴェネティスが体調が悪いと聞けば顔を出すだろう。
……そう、家族仲は悪くない。二人で風邪をひいた時も、こっそりどちらかの部屋で一緒に眠ったりしていた。
ヴェネティスが、ドルマン様を好きなのかどうか、ちゃんと聞かなければ。
だってあの子は、私に、ドルマン様が好き、とは一度も言ったことがないのだから。