23 私にだけ塩対応の婚約者に塩対応返しをしたところ
剣技大会の優勝者には、学園の学長室前に飾られるトロフィーへ名前を書いたリボンが結ばれ、刃の潰れていない真剣が下賜される。
王侯貴族が集う学園での剣技大会で一番の成績を収めたのだ。叙勲とまではいかないが、騎士見習いとしては扱われるし、今後王城での騎士団への入団を希望すれば通り易くなる。
ドルマン様は侯爵家の長男で領地を継ぐことになるだろう。とはいえ、領地は飛び地で幾つもある。基本は管理官に任せて、王都での生活となることだろう。
騎士になる時間があるとは思えない。だが、万が一……この国は現在、そんな兆候はどこにもないが……戦となれば、戦列の前に立つ方でもある。剣を持ち、兵を率いて国を守る立場の人だ。
だが、彼は剣技大会が終わり、がらんどうになった演習場に私を呼び出すと、夕暮れの中で私に対して剣を差し出し跪いた。
「ドルマン様……」
「グレース。私は、君を守ろうとして、君に守ってもらっていたことを知った。学園での振る舞いも、君を傷つけた。たった数日、君に素っ気なくされただけで、私はどうしようも無い程胸がかき乱された」
彼の言葉を黙って聞く。真摯な声に、私が何か言葉を挟む余地は無い。
「これから一生をかけて、君を幸せにしたい。守る事も含めて……それは剣でだけではなく、あらゆる艱難辛苦から、君を守りたい。どうか、私と結婚して欲しい」
「……ダメです、ドルマン様」
「?!」
私が泣きそうな顔で、震える声でそう告げると、下げていた頭を驚いたように上げた。彼の顔は、絶望に歪んでいたように見える。
「ほら、そんな顔をする。……私は剣はできません。肉体的にも、経済的にも、守ってもらう方が多いと思います。だけど……」
私は泣くのを我慢しない事にした。彼にこれを言うのなら、私も心を開かなければ。
流れて来る涙を拭って、言葉を続ける。
「辛い時は、私に側にいさせてください。できることがあるのなら、私にも手伝わせてください。一緒に、歩いていきませんか」
「グレース……」
ドルマン様が立ち上がる。
学園に入る前はすぐ横にあった顔は、今は見上げる位置にある。綺麗な顔だ。かっこいい顔だ。随分変わった気がする。私が、直視しない間に。
でも瞳だけは、ずっと優しい。
「一緒に、これから、歩いてくれるだろうか」
「喜んで、ドルマン様」
彼が剣を腰に戻して差し出した手を握って、私は泣きながら笑った。
私にだけ塩対応をする婚約者に塩対応返しをしたところ、どうやら私たちは、少しだけ大人になれたらしい。
……その後、何がどうなって、どうしてそうなったのか分からないのだけれど。
ルネスト様がヴェネティスに熱烈なアプローチをし、それに対する塩対応にルネスト様が更に熱を上げ、さらにヴェネティスの態度が冷え切ったものになっていったのに、なぜか二人は結婚した。
今は時々、4人でお茶を飲む。……ルネスト様は、人生で収まるべき所に収まった気分だ、といつも上機嫌なのだが、変な気に入られ方をした私たち3人は、毎回嬉しそうにする彼に、蔑みの視線をどうしても投げかけてしまい、更に喜ばれるという悪循環が発生するのだけれど。
おおむね楽しく、幸せに暮らしているから、いいか、と思うことにした。
最後までありがとうございました!
変態生徒会長の番外編を書きたい気持ちはあるのでそのうちそっと連載中に戻すか、シリーズとして別で書くかもしれません。
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