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22 絶対に負けられない(※ドルマン視点)

 私は昨日、この剣技大会の優勝に婚約の申し込みを賭けた。自らに賭したと言うべきだろうか。


 心配していた、大事にしなければと思って、私はかえって彼女を辛い目に合わせていたようだ。


 不器用で申し訳ない。下手で申し訳ない。足りないものが多い男だ、きっと彼女は恥ずかしかったことだろう。


 その足りないものを補うためにやってきたことで、また彼女を傷つけた。


 本当に、やり方が下手だろうと思う。


 それに対してルネスト殿は、何でもそつなくこなす。グレースともすぐに打ち解けていたし、誰に対しても平等で、それでいて冷たい。


 ルネスト殿がグレースの何を気に入ったのかは知らないが、グレースがルネスト殿を望んだとしても、それは、私が彼女に婚約を申し込むことを諦めることにはつながらない。


 優勝する。必ず、勝つ。


 思えばルネスト殿は私に無い物を何でも持っているように見える。欠点は無いのだろうか、と不思議に思う程だ。


 それだけに、どこか無味乾燥にも思う。けれど、グレースといた時には違った。彼がグレースを求めるのなら……私に勝つのがルネスト殿なら、私も諦めがつくかもしれない。


 だが、絶対に負けたくない。


 私は彼女に守られていたらしい。ずっと守ろうとしてきた。勉学も、剣も、彼女を守るために培ってきたが、貴族が生きている社交界という場ではむしろ彼女の瑕疵になってしまった。


 この学園生活で、彼女に突き放されて身に付けた社交性で、今後は絶対に、どんな場面であろうと、彼女を守りぬく。これからも、その為に視野を広く、学び、鍛え続ける。何もかも。


 それだけの気持ちを乗せた剣だ。ルネスト殿と向き合った途端に、とてつもなく重く感じる。


 彼の剣技はみごとだ。一度先手を喰らえば防戦一方になるよう、的確に剣を繰り出してくる。一手先に踏み込みたいが、隙が無い。


 攻撃を仕掛けると、必ずその動きは受ける側に見られ、受ける側の技量が高ければ隙を突かれる。


 ルネスト殿はその技量がある。だから、こちらから安易に動くことはできない。


(ずっと、私を守ってくれていたグレース。私はいつも後手に回っている)


 距離を置きましょう、と言ったのも、嫌気がさしたのもあるだろうが、私を思ってくれての事だと理解できた。


 私は本当に、いろんなものに守られてきた。今後は、守る男だと示さなければいけない。


 この剣技大会の優勝はその一歩だ。婚約を申し込むのは、二歩目。受けてもらえたら、その先はずっと、私が彼女を守って生きていく。


 だから、ルネスト殿。私は、この試合、絶対に負けられない。


 私が地面を蹴る。同時に、ルネスト殿も距離を詰めて来た。斬り結ぶ気ではない、この一撃、どちらがどこを狙い、何を繰り出すかできまる。


 ルネスト殿は先手を取っているように見えて、相手の攻撃が入る前にその隙を突いている。つまり、常に相手ありきで攻撃を仕掛け、いつの間にか押しているのだ。


 ならば私は、ルネスト殿に後手を使わせない。


 距離を詰める。互いの間合いに入る。まだ剣は動かさない、攻撃のモーションに入らない。


 驚いたようなルネスト殿の目が眼鏡越しに見える。間合いにいるのに剣を振ろうとしない私に、一瞬の隙があった。


 彼がなれない先手を取ろうと剣を振るった動きに合わせて、斜め下から剣を弾き上げるように振り上げた。


 両手で握られていた剣だが、何も両手で全力で握るものではない。片手は補助的に柄を支える事で、自在に剣を操るのが剣技だ。


 だが、彼のその持ち方に対して、私はこの重たい剣を両手で握り締めて、振り下ろされる剣に対して下から上へと振り上げた。


 甲高い音をたてて、ルネスト殿の剣が弾かれた。


 私は、剣技大会で優勝した。一瞬の静寂の後、歓声が沸き上がった。


「これで、礼になったろうか?」


 剣技大会を盛り上げる……それが、ルネスト殿との約束。


 困ったような、嬉しそうな笑いを浮かべた彼は、眼鏡を直すと、年相応の笑顔を見せた。初めて、ちゃんと笑っているのを見た気がする。


「あぁ、私も君も全力で、私は負けた。剣技大会も盛り上がった。最高のフィナーレだ」


 私は剣を鞘に収めると、そう晴れ晴れとした声で告げたルネスト殿と握手した。


 ずっと意識しないようにしていたけれど、最初からどこにいるか分かっていた。彼女だけが、出会った日からずっと光って見える。


 握手をしたまま、グレースの方を見る。ルネスト殿もそちらを向く。


 彼女は感動して泣いていた。感動……だと思う。感動しているよな?


「私たちは今後、兄弟になる予定だから、長い付き合いになる。よろしく、ドルマン殿」


 彼は彼で、すごく嫌そうな顔をしているヴェネティスを見て空いた手を振っている。


 なるほど、と思いながら、私は「こんな卒のない弟がいると油断できないな」と呟いたが、ルネスト殿はその言葉に私の方を向いたので視線を戻す。


「大丈夫。私は、男の中なら君が一番好きだよ」


 背筋に悪寒が走ったのは、許されたい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 全力で……他の誰かの為に……向かってくる相手……ふふ、うふふふふ……。 皆さまおめでとうございます。
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