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2 初日が肝心(朝)

「今日も特別可愛いね、リネージュ嬢」


「おや、髪型を変えたのかい? 似合っているよ、フィナ嬢」


 学園のエントランスで通りすがる女生徒の名前をしっかり全校生徒分暗記しては声をかける人がいた。


 ドルマン様だ。校門からエントランスに向かう途中の中庭の道から見てもわかる程、背が高く、輝いて見え、爽やかで落ち着いたにこやかな声が風に乗って聞こえてくる。


 聞きたくない、耳障り、と私は表情を殺してエントランスに近づいた。


 普段なら足を止めて一礼し、ちゃんとする所だが、今日から塩対応である。家に傷がつくような真似はしないが、それなりに厳しくいかせてもらう。


 これがお前の2年間の集大成だぞ、という気持ちで目の前より少し手前で止まる。


「ごきげんよう、ドルマン様」


「あぁ、ごき……」


「失礼いたします」


 私が来た途端無愛想になっておきながら、私が返事を待たずに話を切って中に入って行くのを、軽く横目で見たら驚いて固まっている。


 いい気味だ。女は婚約してしまえば自分のもの、なんて思わないでほしい。いざとなったら外国にでも嫁いでやる。


 朝の一撃は私の右ストレートが綺麗に決まった形になる。体重の乗ったいい一撃だった、清々しい。


 同じクラスの生徒たちも続々と登校してきているので、実に愛想良く笑って挨拶を交わし、ドルマン様を置いて教室に向かった。


(自分だけ違う対応をされるの、嫌でしょ? 私はもう我慢しませんからね)


 振り向いてもらおうと頑張らなかった訳じゃない。


 これまではどんなにぶっきらぼうに、名前も呼ばれずとも、こちらから笑顔で話しかけて「ごきげんよう」と挨拶もしていたし、春休みの間にも何度か夜会にエスコートして貰ったけれど、どれだけお洒落をして着飾って髪型を工夫してみても、似合っている、の一言もなく無言で馬車に乗りあい、会場に着けば置いてけぼり。


 それでも帰りに送ってもらえば、これまた笑顔でお礼を言って、それにも何も言わずに立ち去っていく馬車を見送り……。


 そして、そんな私を見て1年遅れで入学してきた妹のヴェネティス。


「お姉様、置いていくなんて酷いですわ! どうです? 今日から二年生なのでリボンを新しくしましたの」


 顔立ちと色合いはそっくりでも、緩くウェーブの掛かった髪を可愛らしいリボンで頭の両側に結んでいる。


「エントランスでドルマン様にも褒めてもらいましたの。ふふ、そんなに可愛いかしら」


「よく似合っているわよ、よかったわね」


 私は作り笑いで答えると、さっさとヴェネティスの横を通り過ぎようとした。


 そこにサッとヴェネティスが割り込んでくる。少し屈んで腰の後ろで手を組んで、下から見上げてきた。


「やっぱり、ドルマン様はお姉様より私が好きなんじゃないかしら?」


 あ、隣の友達が引いてる。普通、どう周りから見られていようと、婚約者のいる相手にそんな事を言ってはいけない。


 家ならばとにかく、ここは家ではないのだ。


「ヴェネティス、あまりそういう事は言ってはいけません。失礼ですよ」


「はぁーい。お姉様は頭が固いからだめなのよ」


 くるっと、スカートと長い髪を翻して教室に向かった妹を見送り、隣を歩いていた友人に、ごめんなさいね、と謝って私たちも教室に向かった。


 朝の塩対応は右ストレートを決めた後に、妹のジャブが入ったけど……とりあえず、成功という所かな。

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