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17 優勝賞品と、ドルマン様の宣言

「優勝おめでとう。花束はどちらに渡したらいいかな?」


 ステージ上で、さわやかに笑う生徒会長モードのルネスト様に尋ねられ、私は思わず本性を知っているだけに毛虫を見るような目で見そうになりながら、ヴェネティスを示した。


 と、同時にヴェネティスも私を示している。おかしくて今日は笑ってばかりだ。


 私が、とルネスト様に向って手を差し出し花束を受け取る。そして、私からヴェネティスに渡した。


 花束を抱えたヴェネティスが嬉しそうにそれを両手で抱えると、本当に妖精のように可愛らしい。


 そう思えるようになったのも……ドルマン様に対して、最初は反抗心から、そして、私が忘れてしまっていたこと、省みたこと、今は誰かを交えてならばおしゃべりもできるようになったこと。


 そういうきっかけをくれた一つがヴェネティスで、二人とも本心を打ち明けたからだろう。


「で、副賞のお願いはもう決まっている?」


 その権利はヴェネティスにあるので、私はヴェネティスを見た。


 生徒会長の権限は大きい。身分差にとらわれない学園生活において、学業、人望、運動、何が欠けていても生徒に選ばれることはない。


 だからこそ、選ばれた分かなりの裁量権があるので、ランチ1年間無料、だとか、何か催し物をしたい、とかの大きな願い事でも聞いてもらえる。


「後で、二人でお話できますか?」


「わかった。その時に何が願いかを聞くよ」


 ヴェネティスの提案に生徒会長は鷹揚に頷いて、観客席の生徒たちにもう一度拍手を求めるように片手を挙げてみせた。


 拍手に包まれながら、私とヴェネティスは一礼して袖に捌ける。


 愛好会の子たちにドレスを返すためにカーテンで間仕切りされた場所で制服に着替えて、大切な衣装を返した。


 花束は愛好会の子たちに渡した。あの衣装が讃えられたのだから、と言うと、また泣きながら受けとってくれた。


 この後、ヴェネティスは生徒会長の所に行くらしい。


 私も一緒にステージ袖から降りた所に、ドルマン様がいた。


「私、行くね。――お姉様、ドルマン様にどうしてか、聞いてみてもいいんじゃない?」


「ヴェネティス……」


「もう喋れるようになったじゃない。お姉様が出した条件はクリアしてると思うわ。……でもまだ、結婚を心からお祝いできないけどね」


 少し棘のある言葉を残しつつ、それが私を心配してのことだと思って、その場でヴェネティスは去っていった。


 ドルマン様とはステージで目が合った。昔、私のことをずっと見て会話にならなかった時の顔と同じだったけれど、今目の前にいるドルマン様は何かを決めたような顔をしている。


「グレース、とても……綺麗だった。こういうと、また怒られるかもしれないが……本当に」


「ありがとうございます、ドルマン様」


 何を思ったか、ドルマン様は少しの逡巡の後、私の目をまっすぐに、真剣に見詰めて宣言した。


「明日の剣技大会で必ず優勝してみせる。……未だ私は、君を前に、他の誰かにするように上手に喋る事は難しい。どうしても、難しい顔をして考えて喋る他無い。だが、喋る事はできるようになった。……君以外とも、友人になることもできた」


「……お聞きしたかったんです。どうして、私を前にすると、綺麗としか言わずに会話にならなかったのか。他の誰かを常に牽制するようにしていたのか」


 すると、ドルマン様がほろ苦く笑った。


「くだらない、と笑わないでくれるか?」


「えぇ、私も真剣に聞いています」


「……君と初めて会った時、君が靴擦れをした後、熱を出して寝込んだと聞いた。君は昔から……ヴェネティス嬢もだが、少し体が弱いと」


「……そうですね、今はそんなに体調を崩しませんが、まだあの頃は……崩し気味だったかと」


「私が無闇に歩き回らせたせいで、君が寝込んだことがショックだった。だが、君にそれを言うと君は自分を責めるだろうとも思った。私は、その頃の気持ちのまま……君をガラス細工か何かだと思って、過剰に、そして、言葉ですら無難なものしか選べなくなった。少し考えれば……それが余計に、君を追い詰めることだと分かったのに。――今日の君は堂々としていた。三年生になってからの君はずっと、強かった。体調を崩したのも……私が2年間、あれではな。仕方が無い」


 驚いた。私のことをそんな風に思うあまり、だなんて。それで周りが見えなくなるのは問題だけれど、12歳の時の初めて出会った婚約者という異性に対して、彼が責任を感じるには充分な事件だったのだろう。


 だから、誰かと関わったり、自分が側を離れたりすることで、私が変調を来すのが嫌だったのか。


「ドルマン様は……出会った日から、変わらず、優しい方ですね」


「君は、強くなったね、グレース」


 彼はそうして、私が距離を置きましょうと言って、彼なりに社交性を身に付けて、私との距離も取って、でも心の中ではずっとガラス細工のように思っていたのだろう。


 だけど、私は成長したし、ガラス細工ではない。


「はい、強くなりました。今ならドルマン様と喧嘩もできます」


 何せ、婚約破棄を狙って塩対応返しを始めたくらいだから。……考えすぎて熱を出したのはおいておくとして。


「そんな君に恥ずかしくないように、必ず優勝する。……優勝したら、改めて婚約を申し込みたい。普通の距離感の、普通の婚約者として」


 その言葉に、私は泣きそうになる顔を両手で覆うと、なんとか泣くのを堪えて笑顔を返した。


「……観客席で、応援しています」


「ありがとう」

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