15 学園祭の準備
人を交えてランチを摂るようになって、ドルマン様との会話は飛躍的に多くなった。朝の挨拶も、教室まで送ってもらうのが普通になってきた。
そんな折、俄かに教室が騒がしくなる。そろそろ学園祭が近くなってきた。
女生徒は絵画の展示や声楽の発表会、手芸の愛好会などで作ったドレスのファッションショーがミスコンも兼ねていたりする。学生ならではの、少しはめを外した催しだ。
男子生徒は剣技大会に、公開ディスカッションなど、運動面と勉強面での勝負がメインだ。ドルマン様は、剣技大会一本に絞っているらしい。帰りも遅くまで練習に励んでいるようだった。
(そういえば、ルネスト様が決勝でドルマン様と戦うとかどうとか言っていたっけ……?)
いつの間にそんな会話をする仲になったのだろう、と思ったものの、ドルマン様の変化は私が休んだ次の日から見られたことだ。
私が休んだ間にヴェネティスから聞いたような話を……あの、最悪の日にルネスト様がいたのなら……ドルマン様もある程度事情は聞いたのかもしれない。
それで歩み寄れるのならばいい事だ、と思いながら、特に何か作品を出すわけでもない私がのんびり帰り支度をしていると、ヴェネティスが教室にやってきた。
「どうしたの? 珍しいわね、教室までくるなんて」
「あのー……ね? ちょっと、お願いがあるの」
珍しく歯切れが悪い物言いのヴェネティスに首を傾げながら、何? と尋ねると、ヴェネティスの後ろに下級生の女の子たちが数人いる事に気付いた。
「あ、あの、私たち手芸愛好会の者なんですが……!」
「その、ヴェネティス様と、お姉様のグレース様に……!」
「お揃いのドレスで……ミスコンに出て欲しいのです!」
初めて話す相手だろうに、たぶん願望が先に先にと出てきてしまったのだろう。緊張しきりな様子と、ヴェネティスは押し切られた様子に、熱意はすごく感じる。
確かに、私とヴェネティスは顔立ちも身長や体型も似ている。双子、と言われたら信じる人の方が多いだろう。
私は少し笑って、思いつめていた気分転換にいいかもしれない、と思って女の子たちと一緒に「お願い」という目をしているヴェネティスを見た。
「はじめまして、ヴェネティスの姉のグレースです。ヴェネティスは、出るつもりなのかしら?」
「……そのつもり。でも、お姉様が嫌なら無理にとは……」
「いいわよ。ファッションショーじゃなく、ミスコンの理由は何かしら?」
私が名乗り、ヴェネティスと軽く会話をして視線を投げかけると、彼女たちはきちんと名乗って一礼した。
やはり熱意が先に先にと来ていたらしい。
「その、ミスコンで優勝する方がファッションショーよりとっても人が見てくれるんです」
「貴族に生まれましたから、今後手製のドレスを披露する機会も無いですし……」
「それで、前からヴェネティス様とグレース様はとてもそっくりで……お二人で出たら、とても目立つんじゃないかしらと……、二人ともとてもお綺麗ですし……あの……!」
そんなに情熱的に口説いてくれなくても出るつもりで答えたのだけれど、ヴェネティスはもう少し違う理由がありそうだった。
「……私、学園に入ってからお姉様に対してちょっと嫌な子だったから……、いい思い出を作りたくて」
「ヴェネティス……」
この子たちの前では言えないが、それはヴェネティスなりに私を思ってくれての事だと分かっている。
だから私は、胸に手を当てて、片手はヴェネティスの手を握って、愛好会の子たちに笑いかけた。
「とっても素敵なドレスを期待しているわ。放課後は大抵教室にいるから、必要があればいつでも呼び出してちょうだい」
私の答えに手に手を取り合って喜んだ彼女たちは、嬉しそうに歓声をあげて「ありがとうございます!」と言って去って行った。早速ドレス造りに入るらしい。
「……ところで、ミスコンって優勝したら何かあるのかしら?」
「確か……、生徒会長に何でも一つ願いを聞き届けて貰える、とかだったかな? その権利は優勝したら私にくれるって」
「まぁ……、あの、あのね、ヴェネティス。落ち着いて聞いて欲しいんだけれど」
私は真剣な顔でヴェネティスの肩に両手を置いて顔を見据えた。それに、ヴェネティスの方がたじろいでいる。
「な、なに?」
「生徒会長には、嘘でもいいからとっても愛想よく接するのよ?」
「……?」
さっぱり分からない、という顔をされたけれど、私は強く、それを言い聞かせた。