13 なんでこれが私にだけできないのかな
その日は約束通り、ドルマン様は級友の男子生徒を一人、私もお友達を一人誘って四人で気持ちのいいカフェテラスでのランチにした。
私とお友達の分もランチを持ってきてくれるというので、私たちは二人でテラス席を取って初夏が近づいて来た優しい風の中でお喋りに興じていた。話題は、……ドルマン様のことだったのだけれど。
「ドルマン様って、学園に入るまではあまりいい噂を聞かなかったのですけれど……」
「えぇ、私も実は、先日それを知りまして」
「あら……、ごめんなさい。私ったら無神経なことを言ってしまって」
「いえ、私も怒って『社交性を身に付けるまでは距離を置きましょう』って言ってしまったの。内緒よ」
しかも、それを言ったことを最近まで忘れていたという体たらくだ。ちょっと、いや、かなりそこは申し訳ないと思っている。
けれど、何故忘れてしまったのだろう? と、考えると頭痛がするので学園では考えないようにしなければ。
「でも、ドルマン様は本当はいろんな方と社交ができて、頭もいいですし、剣技の授業でも馬術の授業でもかなり上位にいらっしゃるみたいで。素敵な婚約者でうらやましいですわ」
「ふふ、ありがとうございます」
曖昧に笑ってお礼を言っておく。と、すぐそこにドルマン様が立っていて、なんだかびっくりしたような顔をしている。
びっくりしているのは私なんだけどな、などと思いながらお願いしたランチセットが私とお友達の前に置かれる。
ドルマン様とお友達は私たちの倍はプレートの上に乗せてある。ビュッフェ形式だとはいえ、女の子が好みそうな物を私たちには多めに、デザートもついている。対して、彼らのお皿には肉とパンがメインで緑がちょっとだけだ。
「……お体に悪い偏食具合では?」
思わず私が尋ねると、ドルマン様が目を丸くした。
「午後は通しで運動の授業なんだ。このメニューじゃないと、もたない」
「そうそう、女子は午後は何だっけ?」
「私たちは声楽と刺繍です。男性が身体を鍛えている間に、私たちは教養ですわ」
こんな調子で、うまい事友人を交えた私とドルマン様は何とか会話が成立している。
(あれ……、なんか、泣きそう。いつぶりだろう、ちゃんと会話するの……)
少なくともこの2年は会話は無かった。その前も……引っ張り出した記憶とヴェネティスの話によれば、会話らしいことをしなかったらしい。
一体何がきっかけで、私とドルマン様に会話がなくなったのだろう。せめて会話ができていれば、もう少し違ったのかもしれないのに……頭が痛い。だめだ、今は考えちゃだめだ。
私は頭痛を堪えて談笑に勤しんでいたが、食べ終わった食器を皆で下げると、ドルマン様が「すまないが」と断りを入れて私の腕を引いた。
「ちょっと、救護室に寄ってから授業に向かう。遅れると……グレースは休むと伝えておいてくれ」
「あ、は、はい!」
「おう、あんまり強く引っ張るなよ」
言われて、ドルマン様の腕の力は少し緩んだ。
なんで救護室、と思ったものの、もしかしてあの僅かな頭痛に気付かれた?
私が分かりやすいのか、ドルマン様が鋭いのかは分からないけれど……、黙って手を引かれて歩くのは……歩調を合わせてくれるのは、やっぱりドルマン様だと思った。
これで、ちゃんと解決できればいいのに。
そう思うと、やっぱり私の頭は痛くなるのだった。