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12 変化の朝

「ごきげんよう、ドルマン様」


「あ、あぁ、ごきげんよう……もう、身体は?」


「ご心配をおかけしました。大丈夫です」


 エントランスでソワソワしながら、当たり障りない挨拶を交わすドルマン様を見て、私は少し驚いた。


 変に誰かを褒めそやすこともなくなったし、周りはそもそもドルマン様のそれで態度が軟化しとっくに社交ができていたので、今更止めたとしても不思議はない。


 昨日私が休んだのも皆知っているのだろう。ドルマン様も。


 遠目にどう見ても心配でそわついている彼を見たら、塩対応返しも疲れるし、となんだかやる気が失せてしまった。


 簡単に元に戻れる訳ではないし、戻ってもらっては困るのだけれど……、会話、してみようかとは思えた。昨日ヴェネティスから聞いた話もあるかもしれないし、私自身、ドルマン様のいい所まで見失っていたのを思い出したせいもあるかもしれない。


 笑って返すと、ドルマン様は頰を赤くして何かを堪えるように眉を顰め、視線を逸らして。


「本当に、よかった」


 そう呟いた。


 また泣いたり、笑顔を見て綺麗だと言ったりしないように、自制したのだと丸わかりだ。


「今日は、またランチをご一緒しましょう。友人も含めて」


「そ、そうだな。私も……友人を誘うよ」


「ではまた、お昼に」


 とりあえず2人でお喋りは、朝のこの時間が限度だろう。誰かを交えれば話も広がるし、私とドルマン様の閉じた関係を開いていくように、私も努力しなければいけない。


 同じことを1日されただけで私を離れたところからスト……つきま……尾行するような方だ。もう少し、……学園にいる間位は慣れてもらわないと。


 でも、どうしてドルマン様は私にぴったりくっついて離れないようになったんだったか。ヤキモチから……?


 そこはまだ、ルーツがはっきりしないが、私もルネスト様に話すルーツが思い出せた。


 放課後、生徒会室に寄ろう。


「やはり、教室まで送る」


 不意に後ろから声をかけられ、さりげなく鞄を取り上げられると、私の頭よりずいぶん高い位置に、綺麗な顔があった。


 驚いて見上げても、そこにいるのは確かにドルマン様だし、私が知っているドルマン様とは違う方にも思えた。


 ぶっきらぼうに見えるのは、まだ私とちゃんと会話できないからだろう。


 だけど、靴擦れひとつで自分の靴を差し出し、自らは裸足で土の上を歩く方だ。


 私を心配して、気遣って、歩調を合わせて教室まで送り届けてくれる。優しい人。


(いつか、もう少し普通に話せる日がくるかしら)


 卒業してすぐ結婚という訳でも無いが、その分夜会やお茶会に出て、もっと歳上の方とも、歳下の方ともご一緒することになる。


 その時……前のようにドルマン様が侮辱されるのは、耐えられない。私もショックだし、ドルマン様の変なところを引き出してしまう自分が許せない。


 でも今は……、体調不良で休んだ翌日くらいは、少しだけ距離を詰めてもいいか。


「ありがとうございます」


「いいんだ。……グレース」


「はい」


 何と言おうか、何を言おうか迷っているように見える。


「私は、君に恥じない男になる」


 ちょうど教室の前について、ドルマン様は私に鞄を返すと、そう言い置いて自分の教室に向かった。


 ……一体昨日、彼に何があったのだろう?

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