5話 剣での初戦闘
次の日の朝、教会で言われた場所に向かって二人で歩いていく。
戦うしか知らなかったオレにとって、この世界は割と都合がいい。
何せ向こうではいちいち警察の面倒にならないといけないことでも平気でやっていいからだ。
「ん?お前、それはハーブスティックか?」
「そうそう、元いた世界に似たようなものがあってねぇ。一回キメてみたいと思ったんだけど、こいつはスッキリしてていいな」
紙でハーブを巻いたものに火を付けて吸う。
どうもこの世界では15歳以上で吸えるらしい。
全く、ファンタジー様々だな。
「あんまり吸いすぎるなよ。余計なゴミが出るからな」
「へいへい、そこら辺はちゃんとしてるんでポイ捨てとかはしませんよ。うるせぇ奴もいるからな」
「なっ、それは私のことか!!」
「ほら、うるせぇ」
「この・・言わせておけば・・」
いつかこいつにぶん殴られそうなくらいには短気だな。
そう思いつつ吸い終わったハーブを専用のケースに捨てる。
まだまだ整った街道だが、先に見えているのは森だ。
ここから先はなんか出るかもしれねぇしちゃんとしなければ。
「そういやなんか教会で『加護』とかいって刀になんか魔法をかけてもらったんだけど、これなび?」
「あぁそれか。魔物の中にはスライムといった物理的に攻撃が通らない奴もいる。そういう相手にもちゃんと刃を通せるようにするのが『加護』というものだ。加護のは色んな種類があるが、一般的に言われるのは今説明したようなものだな」
「ふーん、スライムってなんか弱い奴みたいなイメージがあったけどそうでもないのか」
「スライムという種族は人間を殺すのに特化している。数が多く物理も効かない、挙句人間の顔に向かって突進してきてそのまま呼吸ができず死ぬまで離れない。奴らは魔物の中でも厄介な部類だ」
「まるで殺人兵器みたいだ」
「魔物というのは戦闘能力に特化しているものが多い。油断しているとすぐ死ぬぞ」
「こええな、オレも死なねぇように気を引き締めるか」
そんな話をしながら歩いているとガサガサと周りの藪から音がする。
声を聞いてやってきた魔物か。
「アオバ、気を付けろよ」
「分かってる、ハノン」
周りの気配を探る。
強い殺気だ。少なくとも元の世界でこれほど強い殺気を感じたことはない。
藪からオレたちを挟むように緑色の魔物が飛び出てきた。
オレはその攻撃をサッと避けてハノンは持っていた盾で攻撃を受ける。
魔物が二体、こいつらはオレが最初に遭遇した魔物だ。
「ゴブリン二体か」
「へぇ、こいつらがゴブリンか。見覚えがあると思ったぜ」
「気を付けろ、意外と素早いぞ」
「分かった」
ゴブリンたちはジリジリと横に動き続けこちらに攻める機会を窺っている。
こちらも一気に攻めていいものかを悩みつつ警戒する。
飛び込んでもう片方のゴブリンから攻撃されたら元も子もない。
「ハノン、同時に仕掛けるぞ」
「分かった、タイミングは任せる」
「いっせーの・・せっ!」
ハノンは一気に間合いを詰めて持っている槍でゴブリンを突く。
ゴブリンは間一髪のところで避けるが体制を崩し転んでしまう。
一方オレは先にナイフを投げた。
投げたナイフはゴブリンにあっさり弾かれてしまう。
それでいい。
その間にゴブリンに近づき刀を抜いた。
その刀で一刀両断、するつもりだった。
しかし実際は若干動かれて左の方にずれてしまい、ダメージは与えたものの殺すまでには至らなかった。
奴らは思った以上に痛みに関して強いらしい。
そのままゴブリンは持っている棍棒でオレの腹を殴る。
「ぐぅっ!」
「アオバ!!」
一瞬ハノンがこちらを振り向いた、その隙をついて向こうのゴブリンは起き上がってしまう。
「まずい、はぁっ!」
とはいえハノンも戦闘に関してはプロ、そのままゴブリンの足を突き機動力を奪う。
「ギィッ!」
槍を受けよろけたゴブリンにすかさずハノンは槍を胸に向かって突く。
「ガアァッ・・!」
流石のゴブリンもこれには耐えられなく、絶命した。
さて、オレはというと。
「・・ふふ、いい一発だったぜ」
殴られた直後、吹っ飛ばずにそのまま耐えて棍棒を持った腕を掴んでいた。
「いてぇ、と思ったがオレの痛覚はもう快感に変換されちまうらしいな。都合がいいんだか悪いんだか。まぁ、お前にゃ関係ないな」
「ギッ、ギギッ・・」
強い力で腕を掴む。
ゴブリンは動けず、しかも攻撃を入れたはずのオレが笑顔のままだからこそ恐怖を感じ震えている。
「こいつは礼だ。ゆっくりと死んでいきな」
オレは刀を落とし、短剣を抜くとそのままゴブリンの頭に突き刺した。
「ギギギッ!!!!」
頭の中をかき回すように、何度も何度も突き刺して、それから動かなくなったゴブリンを見て安心する。
「・・そこまでする必要なかったな」
オレは魔物ってのはかなり丈夫にできてると思ってたから結構しっかり殺したつもりだったが、どうもオーバーキルだったらしい。
「アオバ・・貴様、正気なのか・・?」
横で見ていたハノンが声を出す。
というより恐怖で動けなかったらしい。
「いや、別に普通に死ぬならそこまでしなかったんだけど。思ってたより脆いな」
「・・ダメージを受けたときの反応といい、今の殺し方といい・・お前、本当にただの人間なのか?」
「人間だよ、ただの人間だ。少し戦い慣れしてて、でも弱い、ただの人間だ」
そう言われてもピンときてないハノンを尻目に死んだゴブリンを見る。
弱ければ死ぬ、弱くなくても、いつか死ぬ。
だからオレは死なないように戦う。
ただそれだけだ。
どうもこの世界にとってもオレの価値観や倫理観ってのは飛躍しているものらしい。
それはそれでいい、オレも強くなって、死ななければ。
「そういう感じだ。これからも一緒に旅をよろしくな、ハノン」
そう言ってオレはにっこり笑う。
返り血がついて顔が所々赤くなっていたことにも気づかずに。