4話 教会にて
「はえ〜、ここが教会ねぇ」
街を歩いていくと見慣れた建物があった。
とはいえその規模はオレの知ってる教会とは違いかなりデカい。
外国の教会はこんな感じだろうな、というイメージがそのまま形になったようだった。
「しかし教会が我々になんの用だろうな」
「セーブとかしてくれんのかな」
「セーブ、とは?」
「いや、なんでもねぇ」
ついオレの知ってるゲーム知識で語ってしまったが・・
そうだよな、セーブなんてねぇよな。
死んだら終わり、そういう世界だ。
元いた世界と何も変わらねぇ。
ギィィッと木でできた扉を開けると奥にいかにもなおっさんが立っていた。
「司祭、王の命令で参りました。勇者とそのお付きの騎士でございます」
「おぉ・・よくいらっしゃった。わざわざこんなところに足を運んでいただき申し訳ない」
意外と姿勢の低いおっさんを見て司祭とはこんな丁寧な人なのかと思う。
なんか神聖なオーラというか、そういうものはオレも確かに感じる。
「実は勇者様方に折り入って頼みがあるのです。パーティに一人ほど加えていただきたい人がいるのです」
「へぇ、こんな何があるか分からない旅に同行したいなんてよっぽどの暇人か自殺志願者だな」
「おいコラ!司祭様に失礼だぞ!」
「良いです・・しかしこれは王殿との約束。勇者様との旅は過酷なものになりますがそれだけ価値のあるものです」
「約束、とは?」
「実は長年孤児院を運営しているエルフのシスターがおりまして、その方はいつも運営資金に困っており度々城下町に降りてきては住人の依頼をこなしてお金を稼いでおります」
「エルフ?なんじゃそりゃ」
「見た目は人間と変わらないが長寿ないわゆる『亜人』というやつだな」
「そんな奴らもいるのか」
「もしかしてそのシスターというのはかの有名な『シックス・ルーセント』様では?」
「その通りです。彼女はいつも大きくてお金のたくさん入る仕事を探しておりました。今回の勇者様の旅を聞きもしやと思い王殿に聞いてみたところ同行と成功した場合の多額な報酬を約束していただいたのです」
「シックスって奴は有名なのか?」
「あぁ、この大陸が連合国家じゃなくて四つの国が独立していた頃、他の国を侵略しようとしたところから始まった『統一戦争』というものがあってな、シックス・ルーセントというシスターはその時前線で戦い生還した方だ」
「じゃあ戦闘のプロって奴だな」
「その通りです、勇者様。このお話は勇者様にとってもシックス殿にとってもいい話だと思い交渉させていただきました」
「いいね、強い奴が味方にいるのは心強い」
「なので皆様方には明日の朝よりシックス殿のいる村に出発していただければと思います」
「ふーん、でもその後どうすりゃいいんだ?」
「今我々ルプス国は物流を担っている国であるリュコス国という国との道が魔物によって分断されてしまっている。その物流ルートの国境付近には強い魔物がいて誰も通れないと聞いている。シックス様と合流したらそこを目指して行くのがいいんじゃないか?」
「はい、司祭として私もそう思います」
「なるほどな、じゃあ今日はこのままどこかに泊まって明日出発するか!」
「あの、すいません勇者様。その手の甲にある星のアザは・・」
そう言われて思い出す。
そういやこっちの世界に来た時から俺の左手の甲にはなんか変なアザが付いていたんだった。
「そのアザには何かの力を感じます。申し訳ないのですが少し見せてもらってもよいでしょうか?」
「あぁいいけど・・分かるのか?そういうの」
「司祭様など聖職者になれるような人には魔力という特別な力があるからな。そういうものも見れるのだろう」
「便利だなぁ」
「・・ふむ、やはり特殊な力を感じます。勇者様はダメージを負った時に何か不思議な感覚に陥ったなどはありませんか?」
「あぁー、そういやこっちに来た時に変な奴らに腹刺された後にめちゃくちゃ力が湧いてきたな」
「あのゴブリン達か」
「あいつらゴブリンっていうのか」
「恐らくそれはこの力によるもの・・ダメージを負えば負うほどステータスが上がる、そういう力が備わっております」
「なんか、ハイリスクハイリターンな能力だな・・」
「あとは薄いリジェネという魔法も宿っております。恐らく傷の治りが早かったりしたりするのでしょう」
「そういえばこいつ、腹に大きな傷を負ってたのにすぐに回復したな」
「恐らく勇者様に与えられた加護、この世界を救う力と言っても過言ではないかと」
「・・じゃあダメージを負ったときのあの快感はまた別の何かなのか・・というか普通に性癖か?」
「どうした?」
「いや・・まぁ力が分かったのはデカいな。サンキューな」
「・・不思議な言葉遣いをされる方だ、やはり異世界から来たというのも本当なのかもしれません」
「そうかなぁ」
「お前の言葉遣いは全くもって汚い!もっと美しい言葉を使え!」
「美しい言葉遣いってなんだよ・・ギャーギャーうるせぇなぁ」
「うるさいとはなんだ!!」
あーだこーだ言い争いをしていると遠目で我々を見ている司祭の眼差しがやたら暖かかった。
「もしかしたらいい組み合わせなのかもしれませんな。神よ、勇者様達の旅路が無事であらんことを祈ります」
出発は明日の朝、それまでは体をゆっくり休めておこう。
この何も知らない世界、何が起きるか分からないからな。