2話 勇者誕生
楽しい楽しい説明回
ふと気がつくと綺麗な天井が見えた。
オレはあの緑色の化け物と戦った後に血の流しすぎで気絶したらしい。
まぁあれだけ深い傷を負っていればそうなるだろうなとは思う。
「気が付いたか」
声がしたのでそちらを振り向く。
そこには碧眼で綺麗な女性が座っていた。
明らかに日本人じゃない。
「・・ここ、日本じゃないの?」
最初に出てきた言葉がそれだった。
もしかしたらトラックで吹っ飛ばされてヨーロッパまで飛んできたのかもしれない。
「どこだそこは?ここは騎士の国、ルプス国であるぞ」
知らねぇ。
オレもバカだし全部の国を知ってるわけじゃねぇが、やっぱり知らねぇ。
「・・分かった、ここはヨーロッパか?それともアメリカか?アジアってことはないだろう」
「お前の言ってることはさっぱり分からん。ここはスリガラ大陸に位置するヴォルフ連合国。その中の一つであるルプス国であることは子供でも知ってることだぞ」
んーーーーーーーー。
どれもこれも聞いたことのない単語ばっかりだ。
いやでもオレもよく分からん生き物に襲撃されたし、もしかしたらここは異世界なのかもしれない。
異世界?そんなバカバカしい話、前のオレに言ったら鼻で笑われるだろうが・・いや説明がつかない。
ここがどこでなんなのか、あの生き物はそもそも生き物なのか。
『ここが異世界で自分の知らない生き物も生息するような世界ですよ』
と言えば説明がつくな。
アホくせーーーーー。
説明がつくというかぶん投げてるだけだわこれ。
そんなこんなで頭がパンクしていると。
「訳の分からん奴だな・・」
「・・というかお前誰?」
「私はこのルプス国の騎士団に属する騎士、ハイン・アースグルという。貴様の名は?」
「なんか偉そうだな・・オレは桐崎青葉、17歳の女子高生だ」
「アオバというのか、そのジョシコウセイというのはよく分からんが、貴様について色々尋ねたいことががある。見たところ着ているものも見たことのないものだし・・もしかしてお前、魔物か?」
「魔物?あぁ、なんかオレを襲ってきたやつか」
「・・あのゴブリンを殺したのはお前なのか?」
「おう、なんか襲ってきたから」
「・・一般人ではないな、貴様。あんな顔面にナイフを突き立てるような猟奇的な奴が一般人に紛れ込むとは思えん。とはいえ我が国に潜り込むようなやつならもうちょっと上手くやる。中途半端なところが特に異常だ、お前は」
「いや一般人だよ、学生だよ学生」
「ガクセイ?さっきもジョシコウセイ聞き知らぬことを言ってたな・・それはどのような職種だ?」
「あ?学校もないのか?ここは・・」
「騎士訓練校ならあるが・・そこに属する者をガクセイと呼ぶことは一度も聞いたことはないな」
そんな話をしているとハノンと言う奴が外に出て行った。
外には他の同じような服を着ているような奴がいるし、恐らく仲間だろう。
「・・ふぅ、よく分からんが貴様を王様が呼んでいらっしゃる。ついてこい」
「おう・・王様!?」
「びっくりするだろうが・・王が貴様に興味があるらしい」
「いや、王様って・・すげぇな」
「・・よく分からんがいくぞ」
そう言われて奴の後ろをついていく。
不思議なことに痛みはもうほとんどない、あれだけの重症なら体が痛いのが当たり前なのに・・
ハノンと共に歩いていくうちになんとなくだがこの世界の異常性に気付く。
オレの思う『ファンタジー世界』のそれとそっくりなのだ。
まるでこの建物は城のようだ。
そして外には鎧を着て槍で交戦している奴らも見える。
オレはあんまりゲームやアニメは知らんが、なんとなく伝聞で聞き覚えのあるような『城』や『騎士』というものがそこら中にいるし、その中にいるようだった。
歩いていくと、そこはとてつもない大広間のようだった。
目線の先には高いところに座っている爺さんがいた。
「・・もしかしてアレが王様?」
と、指差して聞いてみると。
「バカモン!王に失礼であるぞ!!」
ノータイムで頭を殴られた。
この野郎・・、殴ることはねぇだろ。
「・・ふむ、随分と元気になったようじゃ」
王と呼ばれた爺さんはゆっくりと喋りだした。
「ハノンが君を見つけ、助けたのじゃ。彼女に礼を言うといい」
「おぉ、お前が見つけてくれたのか。ありがとな」
「軽いヤツだ・・」
「さて、ハノンが君が倒れていた場所に向かったのは他でもない。君が倒れてた付近で大きな閃光があったからじゃ」
「閃光?」
「うむ、大きな光があった、しかし音はなくただ光ってるのみだったから少数で付近を探索したところで不思議な格好をした君を見つけたということじゃ」
「なるほどな」
「ハノン、彼女はどこから来たか分かったか?」
「いえ、それが話を聞いてもよく分からない話をずっとされまして・・ニホンだとかガクセイだとか・・」
「ふむ・・実を言うとな、君は『この世界ではないどこか』から来たのでは、と検討をつけておった」
「へぇ、オレも一緒だよ一緒」
「コラ!」
「良い、ハノン。して、君がそう思うのはどうしてかな?」
「地名も何も聞いたことないし、よく分からん・・魔物?ってやつにも襲われたし、少なくともこんな古臭い建物で王を名乗る奴が目の前にいるのは非現実的すぎると思ったから」
「ほぉ・・思った以上に『異世界』というのはこことは違う世界なのだな」
「というか、そんな『違う世界から来ました」なんて変な話信じるのか?」
「実はな、この国には古くからの伝承があって、『世界闇に覆われる時、異界からの勇者が現れ闇を晴らすであろう』というのが言い伝えられてるのじゃ」
「ほえー、よくあるやつじゃん。それがオレってこと?」
「左様、君はもしかしたらこの世界を救う異世界から来た勇者なのではないかとワシは思っておる」
勇者、勇者ねぇ。
ドッキリにしては手が混みすぎてるし、ましてやあの時の痛みと快感は確かに本物だったし、夢でもなさそうなんだよなぁ。
「君、名前をなんという?」
「青葉、桐崎青葉だ」
「アオバ、なるほどな」
「そもそもなんで勇者が必要な状況なんだよ・・んなもん魔王でも出ないと要らないんじゃないのか?」
「その魔王が現れたのだよ、アオバ君」
「ひぇ〜」
「我が大陸は4つの国に分かれている。そのうちの1つであるヴァーイ国がある日突然壊滅してな・・それから魔王と呼ばれる何者かが魔物を率いて色んな場所を攻撃し始めたのだよ。我が国は騎士の国、そして連合国の長でもある。我々はすぐ様騎士達を魔王軍討伐に向かわせた。しかし戦況は拮抗、いや・・少し押されていると言ったところか。我々よりも数の多い魔物達に分があるようでこのままではこの国も危ない」
「そええで異世界から来た勇者様であるオレの出番ってわけか」
「君が見つかった場所の惨状は聞いている。戦闘経験はあるのかね?」
「まぁ素手で戦うくらいはやってきたけど・・殺し合いとなるとあんまりねぇな。一般人だし」
「・・いや、そもそも一般人は素手で戦うこともなかろうに・・」
横でボソッとハノンが呟いたのを聞き逃さなかった。
「・・ワシはどうか、君がこの国に来たのが天啓だと思いたい。資金は揃えるだけ揃える、伝令の騎士に支給品も送らせる。どうか我々に協力してもらえないだろうか」
ふむ、と話を聞いて考える。
正直話の半分くらいはどうでもいい。
この世界がどうなろうと知ったことではないしオレはそもそもその『勇者様』なんかじゃない。
だがしかし、このままここで放り出されるとそれはそれで困る。
聞けばとりあえずその魔物をぶっ倒してぶっ倒して、そんで最終的に魔王とかいう奴をぶっ飛ばせばいい。
実に単純明快、至ってシンプル。
こんな上手い話乗らない訳にはいかない。
それに、それにだ。
ダメージを受けた時のあの快感。
アレを合理的に受けられるのは非常に良い。
気持ちいいしな。
「・・よし分かった、その話乗ろう」
「本当か!?」
「お前!事の重大さが分かってるのか!?」
「それじゃあハノンさんがいくらでも代わりの勇者を見つけてくればいいさ、そんな時間と余裕があればな」
「ぐぬぬ・・」
「ハノン、君には彼女と共に戦ってほしい」
「えぇ!?こんな奴と!?」
「失礼な奴だな」
「彼女は異世界人故土地や魔物のことは分からぬだろう。頼む、どうか彼女と協力して魔王を倒してきて欲しい」
「・・しかし・・城や城下町の護衛は・・」
「他の者も頼りになる。しかし勇者と共に行ける騎士は君だけしかおらん。ダメか?」
「・・分かりました、この身は国のため。必ずや魔王を討伐してご覧にいれましょう」
「助かる・・ありがとう、ハノン」
「おー、よろしくな騎士殿。はっは」
「・・不安だ・・」
こうしてなんやかんやでトントントンと話は進んでオレは勇者になった。
別に勇者という存在に理想も何も抱いちゃいないが、肩書きがつくのは悪くない。
そう思いながら思案する、それは今後の戦闘のこと。
後でしっかりと考えなければそう思いながらオレは王がいる広間を後にした。
ここから始まる冒険は一体どんなものなのか。
オレにどんな景色を見せてくれるのか。
あの世界では見つからなかった答えを、オレは出せることを期待してその胸に勇者の肩書をしっかり刻んだのであった。