1話 異世界転送
1話 異世界転送
別に日常に不満があったわけじゃない。
ただなんか、確かに何かが不足している感じがあった。
パズルのピースが1つ足りないような、そんな感覚。
それは日に日に増していった。
増していくが、どうすればいいのか、オレにも分からなかった。
喧嘩しても喧嘩しても、そのピースは埋まらなかったし、やっぱちょっとまともに学校行ったって埋まらなかった。
オレはこのまま空白を抱えたまま生きていくんだな、ずっとそう思っていた。
そんなことを考えていたからかもしれない。
その日オレは、
事故にあった。
ちゃんと青信号だったし、別に横断歩道じゃなかったとかでもない。
ただ暴走したトラックが、オレに突っ込んだ。
全身に激痛が走って、強い『何か』を感じたまま。オレは息を引き取った。
と、思ってた。
「・・うん?」
オレが目を開けると、そこは森だった。
森にオレは寝っ転がっているのだ。
いやいや、さっきまでは確かに普通の街にいたはずだ。
コンクリートの感触が確かに足に残っているから間違いない。
夢か、それともここがあの世なのか。
それにしてはいい風が吹いている、ちゃんとそれを感じるした空気のいい匂いもちゃんと嗅げる。
目に映る映像とそれ以外の感触が上手く繋がってくれないのだ。
「・・あぁ、立てるな」
ちゃんと体を動かせば立てる。
触覚もある、これで生きていなかったらあの世というのはずいぶん再現性に力を入れているのだと感心する。
別に慌てるようなことじゃない、もしかしたらトラックにぶつかった後に100kmくらい吹き飛んで山に突っ込んだのかもしれない。
そんな冗談めいた仮説が立てられるくらいにはオレの頭は冷静だ。
だってなんか面白そうじゃん。
トラックに轢かれて気が付いたら見知らぬ土地。
新しい人生を始められるかもしれないと思うとワクワクするじゃないか。
とりあえず人を探そう、人に会ってここがどこだか聞いてみよう。
もしかしたらここは秘境の山奥なのかもしれない。
そうだとすればこんな非現実的な光景にも想像はつく。
すると、近くの茂みから何かが出てきた。
なんか、というのを見てからも訂正できなかった。
何故かというと、オレは『それ』を見たことがないからだ。
オレ以上に低い身長、緑色の肌、長い耳、言いようの無い悪人ヅラ。
もしオレが名付けていいなら、おそらくこいつは『魔物』呼んだ方が分かりやすいだろう。
少なくとも人間じゃ無いし、見たことある生物でもなかった。
しかもそれが五匹も出てきた日には、いやもうこれヤバいなって思う、出てきたけど。
「ニンゲン、オンナ、クウ!」
食うって言われた、食うって言ったよこいつ。
つーかこいつ喋るのか。
悠長に考えていると、どこからかナイフのようなものを出した。
物を扱える知性はあるのか、というか喋ってたな。
そのままそいつらがオレに向かってくるまで棒立ちをしていた。
いや、この思考が追いつかない状況に体が動かなかったという方が正しい。
そのままそいつらがオレの腹にナイフを突き立てて、やっと思考が戻った。
気持ちいい、
気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいいいいいお気持ち気持ちいいい!!!!!!!!
思い出した、トラックがぶつかる前に感じた『ソレ』を。
『快感』だ。
体が千切れそうな衝撃に、オレの体が鳴いて悦んだのだ。
そうだそうだそうだ、やっと思い出した。
「・・ふふ、あはははは・・ヒィーーーッハハハッハハハハッハハ」
腹から流れる血などお構いなしに悦びのあまり高笑いをしてしまう。
真っ赤な血がクリスマスの装飾のようにオレを祝福してくれているようだった。
「あー・・気持ちいいナァ。気持ちいいよ、ありがとよ」
そう言って腹に刺さったナイフを抜く。
血がさらに出るが気にしない。
むしろその感覚が癖になりそうでまた楽しくなってしまう。
「アァ・・そうだなァ・・『お裾分け』、しないとなァ」
オレはそのまま近場の魔物の心臓にナイフを突き立てる。
「ギィィッ!ガッ!!??」
血だ、肌が緑色なのに血が赤いんだなァ、お前ら。
そのままそいつからナイフをもう一本抜き取る。
「コロセ!コロセ!!」
二匹が同時にこちらに走ってくる。
だが分かりやすい。
攻撃する意思と走っているルート、そしてナイフを掲げている位置を見ればどう攻撃しようとしているか見える。
所詮はヤンキーの浅知恵と一緒だ。
そのまま最初の攻撃を掻い潜り、二匹目の腕を両手で掴んで思いっきり膝で蹴り上げる。
「ングァッ!!」
ナイフを落としたのを確認して顔面に思い切りさっきのナイフを突き立てる。
「ギャアアアアアアアア!!」
叫び声が心地よくオレの体に染み渡る。
だが後ろからもう二匹が近付いてることにギリギリまで気づかなかった。
しょうがないのでそのまま顔面を刺した奴の腕を思いっきり引っ張って、そいつで二匹をぶん殴る。
衝撃がでかいせいか吹っ飛ばされた二匹のうち、一匹を追いかけて馬乗りになる。
「いや色々と世話になったな、こいつはお礼だ」
そのまま喉元にナイフを思いっきり突き立てる。
「ギィィッ、ニゲロニゲロ!!」
死体はそのまま置きっぱなしにして、奴らはあっさり逃げてしまった。
嵐のような戦闘だった。
別にナイフを持った相手は珍しくもなかったし、経験もあったからなんとか戦えた。
だがもしかしたらここはオレの知らない世界なのかもしれない。
ここに来てやっとその疑問が湧いた。
なんかゲームかなんかで見たことあるような姿をしていたな。
こんな奴ら見たこともない、まぁ弱かったけど。
とはいえもう少し多かったらオレもやられていたかもしれない。
ここでふとしたことに気付く。
俺の右手の甲に星のあざのようなものがある。
なんじゃこりゃ、こんな物前にはなかったはずだが。
というか腹から血を流しすぎた、意識がだんだん遠くなっていく。
気持ちいいとはいえ体にはきっちりダメージは入るらしい。
まぁ最早あそこで絶えたはずの命だ、ここで死んでも仕方ない。
そう思い俺も地面に寝転んだ。
薄れいく意識の中、何かがこちらに近付いているような感じはしたが、起きているのも辛いので目を閉じた。
「驚いた・・こんな服は見たことも・・とりあえず街に連れていかなければ・・団長にも報告をしなければいけない」
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