1ヶ月で12キロ痩せたらどうなるか(※販促ではありません)
ほぼほぼあらすじ通りの話。
ただしこの物語はフィクションであり、現実のいかなる食品、ダイエット方法についても保証または否定するものではありません。
「ねえねえ、友達がスゴいダイエットしたんだって、1ヶ月で12キロも痩せたんだよ、スゴくない!?」
目を輝かせて飛び込んできた彼女は、確かにスマートとは言い難い。身長の割に横幅は基準より多め、簡単に言えば太っている。だが病的という程ではないし、身綺麗にしていて不潔感もない。ぽっちゃりだよね、と言われるレベルだ。
「いきなり何の話だよ」
呆れ顔で問いかけたのは、対照的に細身の青年だ。ひょろっとして些か頼りない感じを受けるが、皮肉っぽい表情がよく似合っている。
「だってさあ、12キロだよ?スゴくない!?」
「……スゴいもなにも、例えばおまえが1ヶ月で12キロ痩せたとか言ってきたら、精密検査するぞ」
「えぇー?」
ぽっちゃりの彼女は花菜・23歳、子どもの頃から太めで体を動かすことは大の苦手、痩せたいと言いながらお菓子が止められないし運動も続かない。たまにあやしげなダイエット食品にはまってちょっと体重を落としては見事にリバウンドする。
それを呆れながら叱咤激励するのが従兄弟の和真、医者の端くれなので言っていることはまず正しいが、正しいからと言って受け入れられるかは別と言うものだ。
「だって本当に痩せてたんだよ、乃乃子ちゃん。この前会ったの一月半くらい前だから……春先だったかな、でも今日なんかすっごいミニスカート穿いて、今まで出来なかった可愛いカッコするんだって」
ぷぅ、と花菜はただでさえふっくらした頬を更に膨らませる。太めで丸顔の彼女は、そうすると本当にまん丸だ。
「じゃあ聞くけどな」
つい、と伸ばした指先でそのほっぺたを突いてぶふっとか不細工な声を上げさせた和真は問う。
「その、お友だちとやらは本当に痩せてたか?やつれてたんじゃないのか?」
「うっ」
確かにそれは否定できない。
友達、乃乃子は花菜と歳も同じ、こちらは花菜以上に太めではっきり太っていると言っても概ね同意される。
朝ヨーグルトしか食べなかった、昼もレディースセットで夕飯にダイエットビスケットだけなのに何で太るんだろう、というクチだ。
もちろんこの話にはオチがあって、彼女は日に三度の『食事』より遥かに間食が多い。
朝食の後でデザート代わりにお菓子を食べ、甘いペットボトルをガブガブ飲む。コーヒーショップへ行けば生クリームがごってり乗った極甘のドリンクに焼き菓子を二つ三つ食べて「朝ご飯抜いても全然痩せないんだよー」と宣うレベルだ。流行りものにも弱く、パンケーキだのタピオカドリンクだの毎日何かしらの飲み食いを欠かさない。
さすがに花菜はそこまでではない。だがやはり甘いものは好きだし肉も炭水化物も大好き、我慢が効かない質であることは自覚している。
「……でもぉ……あんなに体重落ちるなんて、すごくない?」
「すごいのは確かだが、安全性は微妙だ。……二十代の女性が一ヶ月半で10キロ以上体重が落ちた、ならそれは何か病気を疑う。胃癌とかエイズとか、そういう命の危険のある疾病だな」
「うえぇ~」
身もふたもない和真の言葉に、花菜は情けない声を上げる。
その彼女の説明によると、12キロ痩せた乃乃子は何やらネットで見つけたダイエット食品が効いたとかで一気に体重を落とした。
だが見た目的に肉は落ちても血色も悪く肌も荒れていて、やつれた、と言う方が相応しかった。膝上15センチのミニスカートも、脚線美とは程遠い足の形にむしろ痛ましく目を反らしてしまう有様。
「大体ダイエットは極端に言えば差し引きの問題だからな?摂取カロリーより、多く消費すればその分痩せるってだけの、当たり前の理屈だ」
「そ、それはわかってるんだけどー。じゃあ何で乃乃子ちゃん痩せたの?」
「……下手したら、内臓痛めてるかもしれないぞ。その手の怪しげな薬剤は、何がどうなってるか知れたもんじゃないから」
「う、ううー」
「花菜の場合は、食べた分動けよ。あと、口淋しいからって何かしら食うな。おばさんもまあ、ボリュームのある料理が得意だから……おまえ、野菜料理でも覚えてみたらどうだ。いろいろレシピ本とか出てるし」
「うーん、料理、かあ……」
「外食が悪いとは言わないけど、外食で痩せるのは料理の選び方とか残し方とかちょっとめんどくさい。それなら、自炊した方が早いし安上がりだろ。おまえの場合、実家だから余計に」
花菜の場合、母親もぽっちゃり太めだ。遺伝というより、その母親が自分好みの食事を作っているので、影響が出ている。
「そうかな、じゃあどんな料理がいいんだろ」
「炭水化物に頼らない、油も控えめ。具体的には芋とかより葉野菜や実野菜だな。蛋白質はOK」
「でも肉とかは、カロリー高くない?」
「だからってその辺抜いたら続かないだろ。油っ気は気にした方がいいけど、蛋白質自体はちゃんととれ。……それとあれだな、腹が減ってないなら食うな」
「うっ」
それは花菜も大いに心当たりがある。ちょっと暇だとスナック菓子をポリポリして、気がついたら空っぽにしてしまう。後悔はするが、なかなか止められない。
「おばさんに買ってこないよう頼んどけよ。おまえが食うと思って買っとくんだろ」
「いやでも、そんなの言うの恥ずかしいよ」
「言わなきゃわからんぞ。そりゃ花菜が、買っておいてあるスナックを空けなきゃいいだけだけど。おまえが我慢できるなら」
「うぐ」
「ダイエットは公言した方が成功するし、それで邪魔する人間とはむしろ距離を見直すべきだと思うな」
「せ、正論~」
花菜のダイエットが成功するより前に、乃乃子が緊急入院する騒ぎが起きた。
倒れた彼女は、精密検査の結果肝臓はじめとする内臓機能に重大な影響が出ていると、当分入院加療になる。彼女お勧めのダイエット食品がその原因だったが、販売元にはとっくに逃げられていた。他にも被害が出ていたらしい。
理屈がわかってるからって実践できるものじゃないよね。
外出自粛でだいぶ肥えました。
ちなみに「輸入の怪しげなダイエットピルで肝臓壊した」のは、以前入院した時
同じ病室のおばさまが言ってた、というか言われてた(医者に)話です……(実話)