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第3話「ソフィア・エクストレール」

 グレンが冒険者の都・エルドラドへ帰還すると、通りの一角に人だかりができていた。


 なんの騒ぎだろうか。

 強力な装備や、新しいダンジョン発見のウワサならば、冒険者として情報収集しておく必要がある。


 グレンは人垣を掻き分け、その中心にいる人物の姿を覗いて確認してみた。


「……なるほど。“彼女”がいたからか」


 新雪のようにきめ細やかで透き通るような白い肌に、ピンクダイヤのように艶やかな輝きを放つ桃色のつぶらな瞳……


 ソフィア・エクストレールという名の冒険者の美女だった。


 端正な顔立ちも去ることながら、冒険者としての実力も飛び抜けており、現役の女性冒険者の中では最強だと云われている。


 強さと美貌を兼ね備えた人物であるため、男女問わず人気があり、ふとしたきっかけでこうしてファンの人々に囲まれてしまうことも珍しくなかった。


 ただ、無愛想であまり人と喋ろうとせず、近寄りがたい高嶺の花という印象であることが、欠点といえば欠点である。


 そして、もう一つ、語るべき重要な点がある。


 ――このソフィア・エクストレールこそが、くだんのストーカー女騎士ソフィアその人であることだ。


「これ、僕の気持ちです! 受け取ってください!」


 そのとき、一人の勇気ある少年が、人垣から抜け出てソフィアの目の前に飛び出し、薔薇の花束を捧げて交際を申し込んでいた。


 ソフィアは冷ややかな視線で少年の顔をチラと見ると、

 

「いりません。先を急いでいます」


 それだけ言って、サッと脇を抜けて歩き出した。


 取り付く島もないとはまさにこのこと。

 完膚無きまでに撃沈した少年が膝をつく。そんな彼の肩を、ポンと優しく叩いて慰める別のファンの男性たち……。

 恐らくこういったことは、今までに何度も繰り返されているのだろう。とんでもない人気振りだった。


 ソフィアが歩き出したことをきっかけに、彼女の進行方向にいたファンたちが示し合わせたように道を開ける。軍隊のように整列して一本道を作った。


「すごい光景だな……」


 その厳粛な雰囲気から、彼女が単純に偶像扱いされているのではなく、一流の冒険者としての尊敬や畏怖の念を集めていることが窺い知れた。


 しかしながら、これらの事態を目の当たりにして、グレンはますます疑問に思う。


 なぜ彼女のような高名で実力もある人物が、俺のストーキングをしているのだろうか?


 思い切ってこの場で問い詰めてみようか?


 周りに大勢の人々がいるのは想定外だが、願ってもないチャンスだった。わざわざ時間を取って町を捜索する手間が省ける。


「ちょっと待ってくれ、ソフィア……さん」


 グレンは人垣を抜け出て、ソフィアの前に飛び出す。さっきの勇気ある少年のように。


 二人の目と目が合った、その瞬間だった。


「ウ、ウソ……!? グレンくんまで……!?」


 ソフィアは目をまん丸に見開き、まるで幽霊でも見たかのようにビックリして尻もちをついたのだった。


 さっきまで気丈に振舞っていたクールビューティの超一流冒険者が、か弱い乙女のようにすってんころりんとコケた……。


 その信じられない光景に、周りのファンたちがどよめく。


 ――何が起こった?


 ――あの男が突然目の前に飛び出してきたからか?


 ――いや、でも、そんなことくらいであそこまで驚くものか?


 ――よく見えなかったが、まさかあの男、ソフィアさんを突き飛ばしたのか?


 パニックに陥ったファンたちは、最後にそう答えを導き出したようだ。


 次の瞬間、グレンはソフィアのファンたちに囲まれていた。

 皆、屈強な冒険者の男たちであり、腰や背中には使い込まれた得物がある。


 そんな彼らが、グレンを取り囲んで鬼の形相で睨みを利かせていた。 


「お、落ち着け……俺は少し話がしたかっただけだ。彼女には指一本触れていない」


 まさに多勢に無勢。

 グレンは冷や汗をかきながら、二度と町中でソフィアに声を掛けるまいと決めたのだった。


「殺されるかと思ったぞ……」


 どうにか難を逃れたグレンは、帰路についていた。

 グレンの自宅は町の外れにある。人通りの少ない農耕地の間を、とぼとぼと歩いていく。


 そして、今回のストーキング女騎士との戦いを反省するのだった。


 やはり、単純に会話を試みるだけではダメかもしれない。

 もっときちんと戦略を練って挑むべきだったのかもしれない。魔物と戦うときのように。

 ましてや、相手は超一流の冒険者だ。簡単に捕まえて話を聞き出せると思うほうがバカだったのではないだろうか。


「……俺は甘かったようだ」


「え? なんの話?」


 気づけばグレンの目の前には、幼馴染のクノイチ風冒険者・アヤメが立っていた。

 その手には、カゴいっぱいに入った野菜がある。


「あ、おいしそうでしょ? 旅団ギルドの仲間からもらったの。グレンにお裾分けしようと思って」


「……そういえば、アヤメはギルド内で戦闘支援役を担当していたな? アタッカーが攻撃しやすいように、素早く動き回る魔物を“捕縛”したりとか……」


「まあ……そういうこともするね。それがどうかしたの?」


「アヤメに相談したいことがある」

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