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回帰のシャングリ・ラ=エデン Ⅰ.港湾都市と≪閃光≫の少女レイ  作者: 端邑よしば
港湾都市と≪閃光≫の少女レイ
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Ⅰ.Ⅺ.やれます


 城壁を望む丘に、エミネ・シェヒラビュユクは立っている。

 風は吹いていないものの、周りにいる兵士の、開戦前特有のそわそわした空気が、彼女の肌を撫でているようでいら立ちを覚える。


 ≪征服者ファーティフ≫の双槌≫に宿る真の力を発揮させるため精神を集中するには、最悪のコンディションだった。とはいえ、それは気分的なもののみで、エミネにとって、コンディションなどはその仕事の制度とは関係なかったが。


 エミネは≪元の世界≫について決して詳しくはなかったが、自らが持つ、母より授かったこの遺物リリックの由来は聞かされていた。

 ≪元の世界≫千年の都コンスタンティノープルーーその都市を囲う三重の城壁を打ち破った、超巨大大砲より打ち出された砲弾の二欠片から生成されたものであると。

 

 ルミア擁する≪遺物の巫女≫より頂いた遺物名は≪征服者ファーティフ≫の双槌≫。コンスタンティノープルを征服した時の支配者の綽名を冠するこの命名よって、遺物かけらは槌を模する武器へと変化した。


 しかし、その武器本来の姿は大砲であった。


 精神を集中させ、マナの働きを操作して≪遺物の左槌ボスフォラス≫、≪遺物の右槌ダーダネルス≫の二つを合わせることによって、その武器は巨大大砲≪征服者ファーティフ≫へと変化する。


 丘の上に現れたその巨砲は、まるでそれ一つが要塞のようであった。


 エミネは心の中で毒づく。

 ったく、あのクソ司令が巫女にこだわらなければ、こんなこともする必要がねえってのに。

 あの総督も、自分で祖国を裏切っておきながら、巫女の件は最後まで粘りやがって。


 エミネが司令に妥協を進言しても聞き入られなかった。

 「——いや、巫女の身柄は絶対だ」


 思い出すだけでも気持ち悪い顔だった。



 それで引き延ばした結果がこれだ。

 クーデターでニューシェフィールド総督は死に、攻城となりゃ味方の被害は避けられない。

 ≪征服者ファーティフ≫で城壁は壊せても、結局市内に突入するのは一兵卒なのだ。


 巫女を攫うために展開は遅れ、真昼前になってようやく準備が整ったところだ。

 巫女、リア・シェフィールドは既に司令の下へ届けた。


 ——あとは開戦の合図を待つだけだ。



 その時、エミネはこの世の物とは思えない、おぞましい感覚に見舞われた。

 極寒の冷気と共に。




 閃光の塔に立つミナト・エモンは、その能力を全開にして叫ぶ。言葉にならない雄たけびだ。

 彼の人生で、今まで一度も発したことのないような声だった。


 同時に、その能力≪不滅の火炕カウストゥム・インモルターレ≫を全開にする。


 辺り一面が極寒に染まった。

 雲はその形を留めず雹として降り注ぎ、草木は萎れ息をひそめる。

 まるで全世界が彼一人に対して平伏しているかのようだった。


 

 塔に立つ男の姿をエミネが発見するまでそう時間はかからなかった。

 「あいつか——クソったれが!」


 そこからエミネの決断は早かった。

 「ぶっ飛ばせ!!!」


 巨砲がうなりを上げる。砲口から放たれた砲弾は、まっすぐ閃光の塔を目指す。

 ——開戦の指示を待っている余裕はなかった。



 迫りくる砲弾を、ミナトは迎撃する。

 今のミナトにとって、その身から放出したマナを具現化させ、向かってくるそれと同じような砲弾にして放つことは造作もなかった。


 お互いの砲弾が打ち消し合う。


 「クソッ——もう一度!」

 エミネがマナの再装填をしようとしたその瞬間には、≪征服者ファーティフ≫の巨砲は打ち砕かれていた——ミナトが放った二弾目によって。


 


 巨砲を打ち壊したミナトは、自分の力を確信した。——勝てる。


 後は、塔から降り立ち、巫女を救うだけだ。——敵をすべて打ち滅ぼすことによって。


 力を開放したミナトは自分が自分でなくなったようだった。


 その、宮殿のバルコニーのようになった淵に立ち、下を見下ろす。

 塔から飛び降りることすら恐怖に感じない。

 敵を一人でも多く、一秒でも早く殺すには、塔から飛び降りてその群れに飛び込むことが一番合理的だ。

 

 風に身を委ねようとしたその瞬間。



 「エモンさん——!」


 声が聞こえる。——レイ・ヘイリの声だ。

 レイが、「上から降って」きた。


 上を見ると、一羽の大鳥が飛んでいる。


 「エモンさん。待ってください——私が、やります!」


 レイ・ヘイリの姿をその目にした時から、彼女が言うことは予想できた。

 「——やれるのか?」


 レイの目を見て、問いかける。


 「やれます! ——力を、貸してください」


 医務室にで話した時とは、随分と違う表情だった。


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