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異世界と巨大ロボット

藤村省吾の場合


1


月曜日の朝、セットした目覚ましより少し早く目を覚ました。

彼は藤村省吾。

私立の高等学校に通う2年生、先日17歳になったばかりだ。

自室から出てリビングに入るとラップされた朝食が用意されている。

昨夜から夜勤だった看護師の母親が帰宅後に作って置いておいてくれたのだ。

藤村家は母子家庭である。

省吾が5歳の時に父は他界した。

それから母は女手一つで省吾をこれまで育ててくれた。

幸い省吾は大きな怪我や病気に見舞われることもなくすくすくと育ち、平凡ながらも平和な男子高校生として過ごしている。

朝食を食べ、寝ている母に挨拶すると省吾は学校に向かった。

父の形見でもあるロードレーサーにまたがり、大通りに出て、しばらく行くとトンネルに入る。

トンネルに入った時、省吾は微妙な違和感を覚えた。

だが、特に立ち止まることもなくトンネルを進む。

進むが、おかしい、出口に辿りつかない。

遠くに明かりは見えているのに全く近づいてこない。

次第に出口の明かりが強くなってくる。

近付いているわけではなく、明かり自体が強くなり、眩しさに目を開けていられなくなった。

目を閉じた省吾が目を開くと、そこはトンネルの出口ではなかった。


目を開くとそこは屋外ですらない、煉瓦の壁と石畳に不思議な模様が描かれた大きな部屋の中らしい。

らしい、というのは部屋の壁まで見渡すことが出来なかったからだ。

省吾は盾と剣とを構えた十数人の男たちに囲まれていた。

当然だが、省吾は混乱した。

ここはどこなのか?

何故自分は取り囲まれているのか?

そもそも自分は学校に向けて自転車を漕いでいたはずでは?

この取り囲んでいる男達も見慣れない姿をしている。

軽鎧?とでも言うのだろうか?

比較的軽装な男達がおそらくは鉄で出来ているであろう盾を構えて自分を取り囲んでる。

これで混乱するなと言う方が無理だろう。


「え、と?ここどこですか?」


となんとも間の抜けたことを口走ってしまった。

男達が何か話しているが、聞き慣れない言語だったので、何を話してるかはわからない。

と、その時男達の壁に隙間が出来てそこから歩み出てきた人物がいた。


(お、おんなのひと?)


盾を構えた男達の間から出て来たのはこれなまた見慣れない模様の刺繍の縫い込まれた服を着込んだ女性であった。

が、省吾はその見慣れない服よりも、女性の顔に目がいってしまう。

有り体に言って美人だった。

青味がかった銀色の長髪、綺麗に通った鼻筋に整った顔立ち。

自分と同い年か少し上くらいだろうか?

少し幼さが残るものの、美人と言って良いレベルだった。

その女性は何も喋らずあるものを渡してきた。

細くてさほど長くもない、ベルトのようなもの。

革のような質感のそれにはこれまた見たこともないような紋様が彫り込まれている。


「あの?これは?」


すると女性は自分の首元を指差した。

見ると同じようなベルト、いやチョーカーというのだろうか?それが彼女の首にも巻かれていた。

(とりあえずこれを首に巻けってことかな?)

チョーカーを自分の首に巻いてみる。

途端一瞬耳に大量のノイズが流れ込んできた。


「うわあ!!!!!」


と、動揺したものの、ノイズは一瞬で収まった。

そして


「これで、話しが通じるようになったかな?少年?」


女の言葉が耳に入る。

そして、遅ればせながら女の言う言葉を聞き取って理解出来ていることに気付く省吾?


「あ、はい。なんておっしゃってるのかはわかります。」


「それは良かった。稀にだけど、体質的にこのチョーカー、まぁ要するに言語翻訳機能の付与されたマジックアイテムなんだけど、身体が受け付けない人もいるの。君は大丈夫みたいね。」


なるほど。と理解する省吾。

そうなると聞きたいことは山ほどある。

が、その前に女に機先を制されてしまった。


「私の名前はリーメルージュ・アルマシー。長いからリーメで良い。君の名前を聞きたいところだけど、まぁとりあえず服を着ようか。」


そう言われて省吾は自分が全裸だということに今更気づく。屋内だから寒くはないが、これはなかなか恥ずかしい。

言葉が通じたことで警戒が少し取れたのか、取り囲んでいる男達の雰囲気が少し弛緩する。


「付いてきなさい。とりあえずの服を用意してあげるから」

とリーメは部屋の扉の方へと歩いていく。

省吾も恥ずかしい部分を手でなんとか隠しながらそれに続く。

鎧の男達は特に邪魔することもなく道を開けてくれた。


リーメに連れてこられた部屋には何種類かの服がハンガーラック?木製のそれにかけられていた。


「どれでも良いわ。サイズの合ってるものの中から好きな服を選んでちょうだい。」


そう言われても、と思ってしまうが、実際全裸のままはまずかろうと思い服を見てみる。

素材は詳しくないのでわからないが、どの服も手触りが良く高級なものな感じがした。

その中から一番無難そうな白い貫頭衣と茶色のズボンを履く。

靴も置いてある。

ここは室内でも靴で過ごす文化の場所なのだと、そんなことを考えながら靴を選ぶ。

革製のスニーカーとローファーの中間のようなよくわからない靴を履いた。

服も靴も普段自分が身につけていたものより幾分着心地が良く、(やはりこれは高級なものなのかな?)

と省吾は思う。

リーメは


「服を着たらそこの椅子に座って。色々説明しなきゃならないから。」


と、着席を促された。

反発しても良さそうなものだが、比較的自分は臆病であると自覚している省吾は、促されるままに席につく。


「改めてはじめまして。私はリーメルージュ・アルマシー。この国、ナザルランド王国の宮廷付き召喚師です。貴方をこの世界に呼んだのは私。」


と、さらっと重大な情報を織り交ぜてリーメは自己紹介を済ませた。

省吾も大分落ち着いてきたので、とりあえずこの場の会話の主導権は相手に渡しておいて良いだろうと思い名乗る。


「え、と、あの僕は藤村省吾です。」


「フジムラ・ショーゴ、どちらが名前で、どちらが性なのかしから?」


「あ、省吾です。苗字が藤村です。」


「そう、ではこの世界ではショーゴ・フジムラね。ショーゴ、で良いかしら?

私のこともリーメで良いわ。」


「あ、はい、リーメさんですね。わかりました。」


「呼び捨てでも構わないけれど、まぁ貴方にお任せするわ。それで、貴方がここにいる理由なんだけど。」


いきなり核心に触れる話題だ。

省吾は若干緊張する。

果たしてどういった事情でこんなところにいるのか?何かさせられるのか?あるいはされるのか?元の場所に戻るにはどうすれば良いのか?そもそもここは自分の知る地球の日本とは違うのか?

彼女は「この世界」と言った。それは果たして?


「まず最初に謝っておきます。勝手に貴方をこの世界に呼び寄せてしまって、何の心の準備もさせられないまま貴方の世界とは違う世界に連れてきてしまってごめんなさい。」


「あ、てことはやっぱりここは僕のいた日本じゃないんですね?」


「ええ、ここは貴方が元いた世界とは違う世界です。ここはマルトー大陸の中央に位置するナザルランド王国という国です。」


「あの、聞きたいことは山ほどあるんですけど、僕はこのあとどうなるんですか?元の世界には帰れるんですか?」


「元の世界には戻れるわ。今すぐには無理だけれど、でもその前に私の、というか私たちのお願いを聞いて欲しいの。とりあえず私の話を聞いて。」


「あ、はい。」


元の世界に戻ることも出来るという情報は省吾を大分落ち着かせた。黙って話を聞くことにする。


「まずこの世界、というかこの大陸のことなんだけど、大陸から西が人類の領域。東側が魔族や魔物の領域になっていて、このナザルランド王国は、その境目の緩衝地帯にあるの。

人類と魔族の国境線に位置する人類防衛の要となっているのがこのナザルランド王国なの。ここまではいい?」


「はい、この世界には人類と魔族と魔物?がいて、今いるここはそのそれぞれの領域の境目にある国ってことですね。」


「そう、だからこの国は人類の砦として長く魔族達と戦い続けてきた。それ自体は昔から変わってないんだけれど、最近少し魔族側の動きが活発化している傾向があるの。

具体的にはナザルランド西端の城砦都市に攻撃を加えてくる頻度が増えている。

それに緩衝地帯を越えて人類の領域にまで潜り込んでくる魔物も増えてる。

国境地帯と言っても国境線全部に壁を作って防備しているわけではないから魔物が東側に入ってくること自体はそこまで珍しくはないのだけれど、これもちょっと最近は頻度が増えているの。」


「なるほど、国境線できな臭い感じになってるってことですね?」


「そう。元々ナザルランドの兵隊は国境を守備してきただけあって大抵の兵卒が実戦経験のある精強な軍隊なの。でもナザルランドの国力そのものはそこまで大きくない。だから平時でギリギリ魔族の侵攻を押し留めるくらいまでがやっとだったの。

でも魔族側が活発化したことで、ナザルランド軍の手が回らなくなってきた。

そこで、まぁ本来は軍事転用は禁じられてるけど異世界人の召喚を行おうってことになったの。

これは西方の国家群の承諾も得てるわ。

ナザルランドという壁がなくなったら今度は西方の国家群が戦の矢面に立たないといけないからね。

だから、、、」


ここで省吾はうろたえる。


「ちょっと待ってください!それだとなんかその魔族軍?を撃退するために僕を、その召喚?したってことですか?

僕、至って普通の17歳の高校生ですよ!?

そんな国家の命運をどうこう出来るような力はありませんよ!」


そう。省吾はごく普通の高校生だ。

実戦経験はおろか、まともな武術の指導も高校で必修の柔道を少し習っただけで、それ以外の剣道や空手と言った武術の心得もない。

うろたえるのも無理のないことである。


「うん。ごめんね。とりあえず少し落ち着いて続きを話させて。」


リーメは少し困ったような、それでも微笑んでいるような微妙な表情で省吾を落ち着かせようとする。

省吾も美人のそんな仕草につい見惚れて少し動揺から立ち直り話の続きを聞くことにした。


「まず、貴方は『国家をどうこう出来るようなはないい』と言っていたけど、この場合はそれは少し違っているの。」


「と、いうと?」


「召喚術は召喚に際してある程度条件を定めることが出来るの。それは、技能や体力、性格、精神性、成長性とか結構絞れるの。その上で今の私たちに必要な能力を持った人を呼べるの。」


「その条件に当てはまるのが僕なんですか?ちょっとピンと来ませんけど。」


「それともう一つ、異世界から誰かを呼ぶとその誰かは世界を渡る際に特殊な技能を身につけているの。これは今のところ召喚に於いて例外はない。貴方は自覚はなくても特殊な能力を既に手に入れているはずなの。」


「特殊な能力?ですか?」


そう言われて省吾も悪い気はしない。

元々臆病な割にあまり深く考えることをしない性格なこともあり、おだてられると素直に嬉しいのだ。


「そもそも突然、貴方からすれば異世界に呼ばれてしまったのに、貴方はもうかなり落ち着いて対応しているわ。

召喚された人の中にはパニックを起こす人も少なくないのに、貴方は冷静に受け止めている。これだけでも結構なことなのよ。」


「な、なるほど」


(たしかに)と省吾は思う。

おそらくはそういうアニメや漫画に幼い頃から慣れ親しんできたという下地があるからなのだろうが、それを説明するのは面倒くさそうなので話の続きを聞くことにした。


「早速で悪いんだけど、これをはめてもらえるかな?利き腕と逆の腕の方が使い勝手が良いと思うわ。」


と、リーメから渡されたのは首のチョーカーと似たような紋様の彫られた金属製のバングルだった。


「これをはめれば良いんですか?」


と省吾は左腕にバングルをはめる。


「そう、それで『解析鑑定、装着者』って言ってみて。」


「え?えっと、解析鑑定、装着者。」


すると左腕にはめたバングルから半透明な板状のディスプレイが自分の前に浮かんだ。

そこにはこう記されている。


個体名・ショウゴ・フジムラ

Lv1

HP230

MP160

攻撃力25

防御力24

速力26

敏捷性25

魔力36

魔法抵抗力45


スキル

操機Lv6

整備Lv1

解析眼Lv1


「え、と?これは?」


ゲームで言うとRPGのステータス画面のようなそれを見て何となく自分の身体能力的な部分は理解できる。

ただ、スキルという項目にあるものはどれもいまいちわからない。


「ちょっと見せてもらえる?」


リーメが省吾の隣に座る。

長い銀髪が頬に触れ、少し良い匂いがした。

省吾が場違いな感想を抱いていると、リーメは一通りステータス画面を見て、パッと顔を明るくする。


「操機Lv6!やっぱり召喚は成功だわ!」


と嬉しそうなリーメ。

美人が嬉しそうにしてると絵になるなぁと思いながらも疑問を口にする。


「そうそう、そのソーキ?それってなんなんですか?ていうかそもそもなんで日本語表記なんですか?」


「ニホンゴ?あぁ君の母国語ね。君にはそう見えるの。これもそのチョーカーの力よ」


「あ、そうなんですか。これ言語だけかと思ってました。」


「正確に言うとチョーカーと同期したバングルの力なんだけど、先に作られたのがチョーカーだからそのバングルは付属品みたいな扱いになってるわ。」


「なるほど。ごめんなさい。話の腰を折って。」


「別に謝らなくても良いわよ。さっきも言ったけど君は召喚に関してなかなか対応力が高いみたいだし、話が通じるだけこちらからしてもやりやすいもの。」


「で、その操機なんですが、どういうスキルなんですか?」


「それはね、書いて字の如く機械を操る力よ。具体的に言えばこの国の軍事力の根幹である魔導大甲冑『ヒュージナイト』を操る力ね。」


「ひゅ、ひゅーじないと?、、、」


「見てもらった方が早いかな。ちょっとついてきて。」


と、リーメは立ち上がり歩き出してしまう。

慌てて後に続く省吾。

2人は今いた部屋を出て長い回廊を歩いている。

たまに見回りの兵士らしき人達とすれ違うが、リーメが挨拶をすると兵士たちも挨拶を返し、それで終わりで去っていく。


「ここよ」


リーメは一際大きな扉の前で立ち止まる。

扉の横のスイッチのようなものを押して


「宮廷召喚師 登録No15 リーメルージュ・アルマシー」


すると扉が音をたてて開いていく。

(おー!声紋認証とかそういうのなのかな?)などと少しワクワクしてしまう省吾。

扉の中に歩き出したリーメについて中に入る。

そこは大きな倉庫のような部屋だった。

多くの人たちが何かの部品のようなものを運んだり、話し合ったり、忙しそうにしている。

その中で一際目を引くもの、それは金属で出来た巨大な10メートルはあるかと思われる人型の機械。

ここはその機械の格納庫のようだ。


「ロ、ロボットぉお!?」


思わず声を上げてしまった省吾を幾人かの者が振り返り見るが、リーメの姿を確認するとまたそれぞれの作業に戻っていく。


「君の世界ではロボットっていうのね。これはこの国の対魔族用決戦兵器、魔導大甲冑『ヒュージナイト』よ。」


「これが、ヒュージナイト!」


「そう、そして貴方はヒュージナイトの操縦に関して必須のスキル、操機を持っている。しかもレベルは6。この国でもっとも操機レベルの高い魔導戦士団の団長ヒュー・ブロッケン将軍でも操機のレベルは8。

その麾下で任務に付いてる戦士長でも操機のレベルは5〜7くらい。

つまり貴方はいきなり戦士長レベルの操機技能を持ってるってことなのよ。」


「ほう?それって結構すごいんですか?」


「ハッキリ言ってかなり凄いわ。しかも素のレベルが1ってことは伸び代もかなりのものなはずよ。」


「おおーーーー!!!」


あまり深く考えていないので単純にテンションを上げる省吾。

そこに男が近づいてきてリーメに声をかける。


「リーメ殿。彼がその、異世界から召喚されたというヒュージナイトの操士ですか?」


省吾より頭一つ分高い背丈、軍服の上からでも伺える引き締まった筋肉、彫りの深い西洋風の顔立ちの男が省吾に視線を移す。


「あ、えっと!僕はショウゴ・フジムラと言います。

よろしくお願いします!」


何も考えずに挨拶してしまう。


「なかなか元気が良いな。私はブロッケン将軍の元でヒュージナイト部隊の中隊長をしている、マルクス・モローだ。よろしく頼む。」


「モロー中隊長、召喚は成功です。彼、操機のレベルが6なんです。」


とリーメ。


「なんと、いきなり私と同じレベルか。それは凄いな、、、だが!」


モロー中隊長の姿が消えた!

と思った瞬間、省吾は背後から腕を捻りあげられてしまう。


「え!?いや!いたい!痛いです!」


腕を捻りあげたのは消えたかと見えたモロー中隊長だった。


「操機のレベルだけ高くても武術の心得がなくては実戦では使い物になりませんぞ、リーメ殿。」


捻りあげた腕を解放しながら言うモロー中隊長。


「そ、それはこれから訓練して身に付けてもらうと言うことで!」


「なるほど、確かにきちんとした技術を身につければ操機のスキルも活かせるでしょう。彼のレベルはいくつなんですか?」


「それがなんと、素のレベルは1なんですよ!これから訓練次第でどんどん伸びますよ!」


「なんと!それはなかなか鍛え甲斐がありますな。」


自分抜きでどんどん話が進んでいく状況にたまりかねて省吾が声を上げる。


「いやいやいやいや!勝手に決めないでください!大体操士?パイロットのことなんでしょうけど、そんなのになるなんて言った覚えないですよ!おまけに実戦?それってあのロボットに乗って戦うってことですよね?そんなこといきなり言われても、はいそうですかって訳には行きませんよ!」


モロー中隊長がいささか驚いた様子で答える。


「リーメ殿、まさか本人の承諾も得ずに彼を操士にするつもりだったんですか?」


リーメが慌てて答える。


「いえ!まだそこまで話は進んでなくて、ヒュージナイトに関しては実際に見てもらった方がわかりやすいかと思って連れて来たんです。なのでまだ操士になってもらえるのかどうかとかそういう話はしてません。」


「そうですよ!そんなロボットに乗って戦争とかそんなの僕には」


言いかけたところで轟音がなる。次いで壁の一部が内側に爆ぜた。

そして壁の亀裂から現れたのは、黒い8メートル程の巨体を持つ四つ目の怪人。


「ま、魔族だ!」

「魔族!魔族だとなんでこんなところに!?」


格納庫は一転阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。

何しろ今ここにいるのは整備や補給を担当している非戦闘員ばかりなのだ。


「何故こんなところまで魔族の侵入をゆるしてしまったのかはわからないが、とにかく倒さねば!」


モロー中隊長が自分の乗機へ向かおうとした時だった。

巨大な魔族が振り回した腕に当たった壁の破片が省吾とリーメの方に飛んできた。

咄嗟のことにリーメを庇う省吾。

目を閉じ痛みを覚悟する。

だが、ぶつかってきたのは破片ではなくモロー中隊長だった。

リーメを庇った省吾と飛んできた破片の間にモロー中隊長が割り込んだのだ。


「モロー中隊長!」


リーメが叫ぶ。

破片の直撃を受けくず折れるモロー中隊長。

省吾は唖然としながらもモローに話しかける。


「な、なんで僕を庇ったんですか!?中隊長さんが戦わないとアイツをやっつけられないんですよね?それなのになんで!?」


モローは息も絶え絶えに答える。


「み、民間人の非戦闘員を戦いに巻き込んで死なせるわけにはいかない、そもそも君はこの国の人間ですらない巻き込まれただけの若者だ。」


「そ、そんな。そんな理由で?」


「私には十分な理由だ。だが、今君に矛盾した頼みをしたい。あれに、私のヒュージナイトに乗ってあの魔族と戦ってはもらえないか?」


「え!?」


「今だけで良い。今だけ君のその力を貸してくれ。」


「そ、そんなこと、言われても」


「頼む。」


ふ、と省吾の頭に母から何度も言われた言葉が過ぎる。

『助けを求めてる人がいたら出来る範囲で構わないから助けてあげなさい。それがいずれ貴方を助けることにも繋がるの。』


「わ、わかりました。どうすれば良いんですか?」


「済まないな。あの緑のラインの入ったヒュージナイトが私の乗機『アルビオン』だ。今遠隔で起動信号を送った。あとは操機宮に乗り込めばナイトの方で起動してくれる。敵を倒せなくとも構わない。時間さえ稼げれば他の操士達がこの騒ぎを聞きつけて駆けつけてくれるはずだ。頼んだぞ。」


モローの言葉を受けて省吾はモローの機体アルビオンに向かって駆け出した。

幸い四つ目の魔族は別の無人のヒュージナイトを標的に定めたようで、こちらには向いていない。

片膝をついて座り込んだ機体の下に来ると脚部の装甲に手を掛けて腹部に空いた穴に向かう。

おそらくはそこがモローの言っていた操機宮、要するにコックピットなのだろうと当たりをつけて。

操機宮にどうにか潜り込むと空いていた前面装甲が重たい音を立てて自動で閉じる。

操機宮の中にはシートのようなものがあったので、とにかくそこに座ってみた。

すると、内壁の各部に穿たれた穴から触手のようなものが伸びてきて省吾の身体を絡めとる。


「な!なんだこれ!」


身体中を触手のようなもので覆われた省吾の頭にバケツのようなものが省吾の頭に被さる。

直後被さったバケツ(省吾は便宜上ヘルメットと呼ぶことにした)の内側が明るく光りアルビオンの周りの光景を映し出す。


四つ目の魔族が暴れたせいで何人かの人たちが倒れている。

火の手が上がっている場所もある。

慌ててリーメとモローの様子を見る。

リーメがモローに肩を貸して退避行動に移っていた。


「よし!これならなんとかなる!のかぁ!?」


迷いはあるが今は躊躇っている時ではない省吾は覚悟を決めて脚を踏み込んでみる。

するとアルビオンが立ち上がった。


「武術の心得がないと使い物にならないってことは多分身体の動きに追従して操縦するみたいな感じだろきっと!」


勘でそう考え、右手を動かしてみる。

やはりアルビオンの右手が同じように動いた、


「よし!これなら!」


省吾の動きに合わせてアルビオンが四つ目の魔族に向き直る。

四つ目の魔族もアルビオンの起動に気付き振り向く。

目があった!気がした。


「時間稼げば良いって言ってたな。倒せなくてもって。よし!」


アルビオンが四つ目に向けて駆け出す。

四つ目もアルビオンに対して身構えた。

アルビオンはそのまま速度を落とさずに両腕を交差させたまま四つ目にぶち当たる。

四つ目はたまらずたたらを踏む。

そこにアルビオンの右拳が四つ目の頭部を捉えた。

頭部にまともに拳を受けてたまらず後退る四つ目。


「なんかこれいけそうだぞ!」


省吾は勢い込んで左拳をつきだす。

がその拳は四つ目の右手で受けられてしまう。

そのまま掴まれた右手を引き込まれたところに四つ目の左拳が叩きつけられ、アルビオンは姿勢を崩す。


「なるほど。武術の心得がないとこうなるってことか!でも今はそんなこと言ってられないんだ!」


なんとか下半身に踏ん張りを効かせて立て直そうとするアルビオンに更に四つ目の拳が迫る。

そこで省吾はこのまま喰らうくらいならいっそとばかりに真後ろに倒れ込み、そのまま後転の要領で立ち上がる。

攻撃が空振りに終わった四つ目が追撃に入ろうと向かってくるが、省吾もアルビオンも既に体勢を整えていた。

四つ目の右フックを左腕で受ける。

適切な防御が可能ならばサイズにやや勝るアルビオンの方に分がるように思えるが敵もさるもの、流れるような動きで左拳を突き出してくる。

必死で回避する省吾。

それに追従するアルビオン。


「さっきのお返しだ!」


突き出された左拳を掴み、引き込むようにしてアルビオンの左拳が唸りをあげて四つ目の頭部に叩き込まれる。

たまらずたたらを踏む四つ目。

だが、ここで異変が起こった。

それまで怪しく緑色に輝いていた四つ目の瞳の色が変わっていく。

激しい怒りを表すかのような深紅の瞳へと。

それに呼応するかのように四つ目の動きがより激しく力強いものに変わった。


「なんだアイツ!目の色が変わったら強くなった!?」


激しい四つ目の攻撃に晒されて一転守勢にまわり、防戦一方となる省吾とアルビオン。

アルビオンの装甲は四つ目の攻撃にも必死に耐えていたが、少しずつ、だが確実に削られ割られ破られていく。


「このままじゃやられる!」


省吾に危機感が募る。

だが、四つ目の攻撃は激しく反撃の切っ掛けが掴めない。

各部の装甲がひしゃげ弾け飛びボロボロになっていくアルビオン。


「これは!流石に無理か!?」


省吾は死を意識し、戦慄した。


(僕はここで死ぬのか?、、、)


その時だった。


「モロー中隊長!随分なやられっぷりですね!」


四つ目の後ろに銀色の装甲に青いラインの入ったヒュージナイトが立っていた。

その声は省吾の乗る操機宮に直接響いてくる。

無線のようなものだろうか?


「ち、違います!僕はモローさんじゃないです!モローさんが僕を庇って怪我をして、アルビオンに乗れって、時間を稼げって」


と声をあげた省吾の操機宮に声が帰ってくる。


「なんだぁ?中隊長じゃないのか?

よしわかった!時間稼ぎは成功だ!

後は俺に任せとけ!」


言うが早いが青いラインのヒュージナイトは右手に握った剣を目にも止まらぬ速さで振り抜く。

四つ目の右腕がぼとりと落ちる。

切り口から黒い霧のようなものが吹き出してくる。

その勢いのまま青いヒュージナイトが四つ目の左腕と頭部を一気に叩き斬る。

両腕と頭部を失った巨人の切り口から大量の黒い霧が吹き出し、格納庫内を埋め尽くした。


「くそ!やられた!逃げる気だ!」


青いヒュージナイトの操士の声がする。

黒い霧が晴れた時、果たしてそこには四つ目の巨人の影も形も、切り落とされた腕と頭すら残っていなかった。


「なんとかなった、のか?」


敵の姿が消えたことで省吾の気が緩む。

するとこれまでの疲労や緊張が一気に押し寄せてきた。

暗転する意識。


「おい!お前大丈夫か?おい、、、


そのまま省吾は意識を手放した。


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