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よんなな会ー全国47都道府県のやる気の高い公務員の全国規模の交流イベントー

知るカフェ。


大学によっては設置されている、学生と企業の方が大学構内で交流できるようになっているカフェ。


もし自身の大学に知るカフェが設置されていれば、知るカフェの公式HPに行って、交流会情報という場所を確認してみるといいかもしれない。


いつどんな企業の担当者の方と交流できるかが明確になった状態で公開されている。


ただ、名大の知るカフェはほかの地域に比べて活発なイメージはあまりない。


昔、交流会情報のページを見に行ってみたら、掲載イベントの数が同志社大学のような関西の主要私立大学や、九州大学という同じ旧帝大よりも少なかった。


就活でも名古屋飛ばしは存在するのか……世の無常を実感するぜ……。


あ、あらかじめ説明しておくと名古屋走りの亜種じゃないからね?


名古屋の人の運転の荒さを表した言葉が名古屋走りで、名古屋飛ばしは逆に三河や尾張のあたりの人の運転の荒さを表現した言い回しじゃないからね?


愛知県全地域的に運転が荒いってことじゃないからね?


確かに毎年のように交通事故発生数とかのランキングで1位につけちゃうぐらいだけど決して全地域で運転が荒い訳じゃないからね? 説得力なさすぎだな。


名古屋飛ばしは芸能人のライブなど、なんかいろいろなものにおいて名古屋をすっ飛ばして関東や関西ばっかりで開かれる謎現象です。


三大都市圏ってなんだっけ?


俺が名古屋の不遇をただただ憂えていると、いつの間にか知るカフェに到着していた。


ここは学生ならいっぱい目のドリンクを無料にできる素敵サービスがついているので、俺はコーヒーを注文する。


時間帯が時間帯ということもあり、店内は少し閑散としていた。


ただ、このカフェにまさか戦場ヶ原先輩といっしょにこれることになるとは……。


「戦場ヶ原先輩、ありがとうございます」


「え、いきなりどうしたの?」


「もう戦場ヶ原先輩といっしょにカフェに来たことがあるなんて、もはやステータスですよ。俺の周り戦場ヶ原先輩と話したことがあるって言ったら英雄としてジュース一本おごってもらえる文化あるぐらいですもん」


「なんという悪習……! 個人的には今すぐ取り払ってほしい……!」


「すみません、言っておきますね」


「私と話せたなら焼肉食べ放題一発ぐらいおごってあげなさい!」


「予想以上に低い対価に憤ってるだけだった!?」


「ふふ、冗談冗談。まあでも、ツチノコ見たよー、みたいな希少度で私との会話を語られるのはこそばゆいところがあるね……」


「まあ、それぐらい学校のヒロイン状態になっているっていうことだと思います」


ちなみに、戦場ヶ原先輩といっしょにカフェに来たことがある俺としてはどうなんだろう?


もうこれだったら家賃1ヶ月分ぐらい負担してもらってもいいんじゃないだろうか。


今度言ってみるか。


……ただ、言うと逆に戦場ヶ原先輩を独占した罪として締め上げられる可能性も微レ存。


言うのやめとこ……。


「学校のヒロインはないでしょー」


「いやいや、それぐらいはいってますよ?」


「地球のヒロインだよ!」


「また予想以上に低い評価に憤っておられるッ!」


これからは予想以上に低い評価をしないように気を付けていこうと思いました。まる。


「言い方が若干ジョジョっぽくて笑える」


ぷくくと口元を押さえながら上品に笑う戦場ヶ原先輩。ふう、服装が大学生らしいカジュアルな感じでなければ上流貴族の令嬢と見間違えるところだぜ……そしてなんというかかわいい。


「いやー、でも名大の知るカフェ、あんまり活発なイメージないよねー」


「ですよねえ、ぶっちゃけ自分も興味本位で一回来て以来あんまり使ってないです」


「だよねえ、ほかの地域の方が活発なイメージあるなー。名古屋飛ばしだわー」


「それは俺も思ってました。まあ、名古屋飛ばしでそもそも知るカフェが名古屋にはできてない、とかよりはましなんじゃないですか?」


「ん、その通りだね……! プラス思考大事……!」


戦場ヶ原先輩はそう言って頼んだコーヒーを一杯すすると、思い出したように口を開いた。


「そういえば、知るカフェって海外展開もしてるんだよね。知ってる?」


「海外展開ですか??」


「うん」


「いや、全然聞いたことないです。日本の大学ばっかりじゃないんですか?」


「海外の一号店がさ、インド工科大学にできてるんだよ」


「インド工科大学?」


どこ? インドの三流大学?


「あ、その怪訝な顔……インドの三流大学かなんかかなって思ってるでしょ?」


「あ、バレました?」


「愛知工科大学と同類だと思わないでもらっていい?」


「先輩、Fラン大学だからってそれは愛知工科大学にとても失礼です」


「名前が似ててわかりづらいのは分かる。工科大学という表現がなぜか日本ではポテンシャルを低く見積もられるのもわかるよ? でもね、インド工科大学はね、インドの東大ぐらいの感覚の場所だから」


「マジですか、ちょっと名前のわりに驚きですね……」


「MITって聞いたことある?」


「あ、ありますよ。なんかあの、すごい系の大学ですよね?」


「語彙力……! まあ、その抽象度の高さでうまく伝わるかわからないけど、インド工科大学はその大学よりワンチャン凄いんじゃねって言われてる大学だから」


「え、マジですか? ちょっと全然知らない世界すぎて信じられないです」


「そう? じゃあLINEに後で読んでみてほしい記事送るから、もしその世界を知りたい思ったら読んでみてよ」


「わかりました、気が向いたら見てみます」


「ん、それぐらいでよろしい。興味なかったらスルーしてもらってオッケー」


そういって戦場ヶ原先輩はスマホをいじりだす。


すぐにポンポンと通知が飛んできて何個か記事が送られてくる。


『インド工科大がマサチューセッツ工科大を超えた理由』


『インド工科大学(IIT)はなぜすごい? グーグルCEOら輩出の名門を完全ガイド』


『「ミッションがビジネスを加速させる」なぜ『知るカフェ』柿本は、設立3年でグローバル展開できたのか?』


「なんかすごい気になる記事がありますね」


「え? どれ?」


「グーグルのCEOの方ってインド工科大学出身なんですね……」


「ああ、そうだよ。最近インド人の活躍が目覚ましいからね。マイクロソフトのCEOとかもそうだよ。アドビもそうだし」


「おお……アドビってフォトショップとかのですか?」


「うん」


「そうなんだ……。全然知らなかったわ……というか、あまりその分野は興味を持って調べてなかったので。今知ると結構意外ですね」


「やっぱり? 私もこういうこと興味を持つ前までは全然調べたりしなかったんだけど、知れば知るほど面白いよ」


戦場ヶ原先輩は絹がほどけていくような柔らかな笑顔を浮かべる。結婚したい。


「あ、そういえばごめんね、私ばっかり色々話したいことを話しちゃって。さっきの公務員の話、聞かせてほしいな」


あ、そういえば、俺公務員の相談しに来てたんだっけ?


あっぶねー、今にもLINEから記事開いて先輩ガン無視で読み始めるところだったわ。


「あ、そうですよね、いや、本当にお時間いただいちゃって申し訳ありません、大したことじゃないんですけど」


「大したことがないうちに解決できれば、ダメージも小さく済むからいいよね。さっさと解消しちゃおう!」


戦場ヶ原先輩はにかっと笑い、ぐっとこぶしを握って俺の方に突き出してくる。


力強く頼りがいがあってかわいいって何このオーバースペック、天は何物この人に与えるつもりですか?


男は全員イチモツしかもらってないですよ?


女の子だから与えるものの個数は関係ないんですね、分かります。


くそしょうもないこと考えてないで早く相談します。


「俺、さっきも先輩も見たと思うんですけど、公務員を目指してて」


俺はゆっくりと自身の想いを語り始めた。


「ただ、目指しているって言っても具体的な理由は特に何もなくて。安泰だからっていうのが一番大きいです」


戦場ヶ原先輩は否定などはすることがなく、ただじっくりと話を聞きながら、適切なタイミングで相槌を打ってくれていた。


「ただ、最近それでいいのかなって思い始めてるところがあって。このまま何も考えずに公務員になると考えたときに、俺はそれに向かって頑張れるのだろうか、というか。採用試験に向けて、俺は頑張れるのだろうか、みたいな」


「それは、頑張るためのモチベーションがないっていうのが不安、っていうことなのかな?」


「そうですね、そういうことです。ただ、それだけじゃなくて、そもそも公務員に対して魅力を感じているわけじゃないっていう不安もあって」


俺は考えていることを整理しながら一つ一つのことを口にしていく。


決して目指すのは嫌ではないが、目指すための特別の理由がないという表現がやはりぴったりだ。


もちろん、人生そんなもんだと思って割り切ってしまうことはできる。


なんだかんだで採用試験が近づいてくれば俺は動くだろうし、なんだかんだで人生そういう感じで進んでしまうんじゃないかと思うところはある。


ただ、そうやって流されるだけで生きていく人生を、肯定的にとらえられない俺がいる。


「なんていうんでしょう、戦場ヶ原先輩が誰かのために相談にのるのって、自分自身が、その行動に


本当に価値があると思ってやっていることなのかなと思っています。違いますかね?」


「私が相談に乗るのは、その通りだね」


「そうですよね、でも、俺は公務員を目指すことに対して、価値を感じてやってないんですよね。悲しいことに」


戦場ヶ原先輩はこくりとうなずきながら、「そうだよね、そういう子、前にもいたよ」とぼそりとつぶやいた。


俺はその言葉を聞いたので、少し尋ねてみる。


「そういう子、前にも相談に来たことがあるんですか?」


「うん、ある。結構多くの子がそれに悩んでてさ」


戦場ヶ原先輩は困り顔を浮かべながら話す。


「だいたい公務員を志望する子は、その壁にぶち当たっている印象はあるね」


「やっぱり、みんなそうなんですかね」


「国家公務員志望の子とかは結構モチベーションあったりするけどね。平家君は国家公務員志望なの? 地方公務員志望なの?」


「いやいや、俺は国家公務員なんてとてもそんな……。地方志望ですかね」


「そっか。そうなんだね……」


戦場ヶ原先輩はふむと顎に手を当てて考えている様子だった。


そして、一瞬黙考した後でまた口を開く。


「そういう壁を感じている子にはだいたい言ってみているのはね、よんなな会についてしっかりと調べてみてはどうだろう、ということなんだよ」


「よんなな会……?」


「うん」


そういって戦場ヶ原先輩はスマホをまたポチポチといじり、俺のLINEにまた何件かサイトを送ってきてくれた。


『よんなな会ホームページ』


『【神奈川県庁 脇雅昭氏:第1話】官僚と地方公務員の壁を壊す総務省官僚』


の2つが送られてくる。


「あ、あとで送ったサイトはHeros of Local Governmentっていう、地方自治体で頑張ってる人たちを紹介していくメディアだから、気になる人のインタビューがあればガンガン読むといいと思うよ」


「戦場ヶ原先輩、情報提供のカバー範囲広いですね……」


「まあ、それに魂かけてる学生団体作ったぐらいだしね」


戦場ヶ原先輩は、全国規模で存在する「くすぶってる若者を覚醒させる」ことをミッションとした学生団体、「ジャッキーズ」の創設者でもある。


ちなみに、ちょうど同時期に創設された東京大学の「アウトリーチ」という学生団体も、同じようなミッションを掲げていて、最近ジャッキーズと統合されたらしい。


なるほど、確かに人の気持ちの高ぶりを惹起するのを生業としている人として、情報提供を惜しまないわけだ。


ちなみに、創業当初は惹起が否定的な物事が起こる際に主に使われるのを知らなかったため、そのまま団体の名前になってしまっているらしい。


自分も何か変えられるのだろうかと思いながら、今送られてきたページをスマホで開いてみる。


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