ミザリーハンティング(2)
「おい、ちょっと待て」
逃げようにも、このバカ力には敵わない
MPもそろそろ危ない。ピタゴラス無念の失速です
「それ、自分の獲物だったんだが?」
ぎぎぎ、と油ささってないみたいに振り返れば
俺を捕まえたのは亀に乗った中性的な顔の人だった
というか釣竿持ってるしほぼ浦島やん!
「申し訳ない」
俺氏、即座に土下座。浦島には勝てない
そしてもっていたミザリーの鉢巻きを三つ掲げた
「……足りない。持ってる分すべて寄越しな」
「いや、それはですね難しいといいますか
……許していただきたい!」
顔を上げてなるべくかわいそうに見えるようにする
くっ、なんとか死守したい。ゆるして
「ケジメだ」
ケジメかぁ……痛いところを突かれた
致し方ない。懐から鉢巻きを出す
なに、また集めれば良い話さ
俺は自分で自分を励ました
「七……八か。なかなかやるじゃないか」
浦島氏はカメの背で器用に座り、丁寧に一本一本数えてニヒルに笑う
褒めてもなにも出ないですぅ。顔を伏せて変顔で応戦した
そのままキープしてると浦島氏はよし、と立ち上がる
まずい。変顔がばれたか。殴られる!
「……自分たちはもう行く。じゃな。進め、カメトキ」
ゆるされた
……いやまてよ。この人、なんで終始カメに乗ってるんだ
カメなついてるし、名前付けてるし……えぇ?
そういや、ミザリーの扱いもぞんざいだったような
俺はのしのしと進む浦島一向を走って追いかけた
遅くて助かった。なんとか追い付けそうだ
「まっ、待ってくれ!」
俺の叫びにうん? と振り返る浦島氏
眉間に皺寄せるな。恐いから
「それ、君のセイクリッドじゃないか?」
俺はカメトキを指差す
浦島氏は首を捻っていた
「……魔物使いなら、モンスターを使役できるという
自分はそれかもしれんが?」
浦島氏の反論に納得してしまう
なるほど。そういうのもあるのか
いやいや、そうじゃなくて!
「と、とにかく! 今回のミザリーを習得してしまうと、セイクリッドがミザリーになってしまうらしいんだ
君は……それでいいの?」
浦島氏はその事実に目を見開いた
やはり初耳か。まぁ罠だよな
「……確認する。見落としがあったかも」
浦島氏は端末を浴衣の胸元からだして操作した
一連の動きになんだか品を感じたが今は目を凝らしてらっしゃるので台無しである。もったいない!
しばらく観察しているとちっちゃ、との独り言を頂いた
「……腕を伸ばせ。ああ、片方で良い」
俺は素直に片腕を浦島氏の方へ伸ばす
そして二つの意味でふぁっ、とした
「合計で七十二本ある。預かっといてくれ」
浦島氏はカメトキと共にのしのしとこちらに背を向ける
えぇ。いや、えぇ?
「あのー、これ貴方がもってた方が」
歩みがピタリと止まった。頭だけこちらに向いて浦島氏は口を開く
「そうだ、言い忘れてた。君こそ道中気を付けろ
それを狙う連中もいない訳じゃない」
なるほど。その手もあったか
浦島氏の言葉にどこか納得してしまった
「そんなことすりゃヘイト貯まるから戦闘狂でもなきゃ狙わんだろうけど……念のためフレ登録しとくか」
浦島氏、ここで始めてカメから降りる。端末操作してフレ登録する
俺は浦島氏改め、メイ氏をフレ登録した
これで自由に連絡出来るわけだ
まぁカナンにさえ使ってないから使うか怪しいが
「くたばりそうだったら鉢巻きを捨てるといい
あと離れてろピタゴラス。危ないから」
そういい残すとメイ氏はカメにのしかかる形で乗る
顔を覚えるのは難しいかなぁ。あえて答えないけど
危ないとのことなので急いで走って逃げた
「ーーウォーターシュート!」
しばらくすると、カメの頭を逆に向けて水流を発射する
メイ氏は飛んでいった。やはりスゴいコンビネーションだ
しかしこの鉢巻きはどうしたものか
とっととカナンにゴールしたいなぁ
「どうかされました?」
そんなこと思ってると天からリーダー氏が舞い降りた
片手には鉢巻きの束をもってらっしゃった
「おう、リーダー。元気?」
リーダー氏、俺の力ない挨拶に無言で返す
謎の圧力を感じる
「……俺、日頃の行いが悪いのかもしれん」
それを聞いてリーダー氏は目が細くなっていく
俺の顔になんかついてますかね
「固めておいておいた方も問題だったと思いますけど」
「見てたのかい!」
しかも結構最初の方から見られてましたねぇ!
恥ずかしい!
「まぁ遠まきからだったのでよく聞こえませんでしたが
それでもおよその予想はつくものです」
そういうことかと俺は頷く
こうなるとリーダー氏に相談した方が良いかもな
「いや、聞いてくださいよリーダー
これ預かっていてくれって言われちゃいました」
そういって片手を占領している鉢巻きを見せた
「全部でいくつあります?」
「七十二本」
それを聞いてふーむ、と唸るリーダー氏
後方確認してらっしゃる。そうそう、浦島氏がくる様子ないんだよね
「最後の方、なんておっしゃってました?」
「……死にそうだったら捨てて良いってさ」
リーダー氏の質問に思い起こす
冷静じゃなかったからか記憶が薄い
「それは貰っちゃって構わないともとれませんかね」
リーダー氏の言葉に俺も頷く
これはリーダー氏が正しいと思う。まぁ、尤もな話だ
「まぁそうは思うんだけどなにか問題があると大変なことになりそうでな。正直恐かったしさ。あの浦島」
「うらしま?」
リーダー氏は目を丸くして独り言のように聞き返してきた
そこなんだ。まぁ、うらしまだよ。俺は頷いた
「フフ、た、確かに……似てますがね!」
リーダー氏がぷるぷる震えてらっしゃる
ややウケた。やったぁ
「……おほんおほん、失礼
わたしの意見は変わりません。貰っちゃいなさい」
リーダー氏が威厳を取り戻した顔でそう言った
ふーむそっかあ。じゃあカナンと合流しようかな
「すまんな、リーダー。自分も鉢巻き取らなきゃならんのに時間とらせた」
「いえ、わたしは既に終わってますから
九十九本きっかり頂きました」
「九十九本が上限なのか!?」
リーダー氏は常識ですよとの顔をしてらっしゃった
またどっかで聞いたような仕様だな!
「尚更カナンと連絡とらんと!」
カナンと連絡を取るため俺は端末を操作した
しばらく呼び出し音をならしカナンが出る
「あぁ、ピタゴラス。どうしたの?
もしかして死んじゃった? 大丈夫?」
聞きなれた声が聞こえる。まるで顔が浮かぶようだ
……ほっこりしてる場合か!
「いや、逆だ。今手元に七十二本ある!
カナンはどのくらい取った!?」
リーダー氏が小さな声であまり大声で言わない方がよろしいかと、との助言をしてくれた
今後は気を付けます
「ええっそんなに!? すごいじゃんピタゴラス!」
嬉しい。とても嬉しいけどそこじゃないんだカナン!
俺は無言の圧力を発動した
「……んーと。ちょっとまってね
いち、にー、さん……」
あああ。無防備で数えてるのが目に浮かぶ
これはダメだ。呼び出そう
「カナン。一旦入り口で集合しよう!
リーダーもいっしょだから!」
そーなんだ、わかった! とカナンから言われあちらから通話を切られた
まぁ、いつものって感じだ。やれやれ。何とかなった
「……相変わらず仲がよろしいようで」
「まぁ、家族みたいなもんだしなぁ」
リーダー氏の一言につい思っていたことが口に出てしまった
リーダー氏は一歩引いて顔が青くなる。いやそういう意味じゃないかなぁ、うん!
「それほどまでとは驚きました。今度からは空気を読みます」
「ご、誤解だって! ほら俺が勝手にそう思ってるだけだから!」
ふーん、と唸って俺の目を覗きこむリーダー氏
やめて! ピタゴラスのライフはゼロよ!
「おまたせー!」
そして来る待ち人である
おお、ブッダよ! 寝ておられるのですか!
「どうしたのピタゴラス! 顔真っ赤だよ?」
聞こえてなかったかぁ……
ピタゴラス、今一番カナンが天然系で良かったと感じてます
「だ、大丈夫!
鉢巻きだ。それより鉢巻き出そうかカナン!」
噛んだわ
あー、もうむちゃくちゃだよ
カナンはうん、と良い笑顔を浮かべ持っていた鉢巻きを広げる
おう、あれから結構頑張りましたね……
「若さとは尊いものですね……」
リーダー氏は手を動かしながらしみじみ告げた
こういう時、反応しないといけないんだろうけど正直反応しずらい。大体何歳だよリーダー氏!
いや、やっぱり聞けねえな!
カナンは頭に疑問符浮かべた顔してたが、それはそれとする
彼女の美点はそこにある
三人で黙々と数えていくと、俺とカナンでピッタリ九十九になって運命を感じた
サンキュー、浦島