ミザリーハンティング
酒場にて目標の褐色体育会系少女をあっさり発見する
ほほ杖ついてたそがれていらっしゃった。絵になるわね
「カナーン!」
大声をあげてついでに大きく片手を振る
目標は片手で小さく振り返してくれた。いいぞ
「や。ピタゴラス。大変だったね。隣……来てたか」
俺は言われる前に空いているカナンの隣の席に座った
これは実家かもしれない安心感
「あ、あたしの手挟んでるよピタゴラスのお兄さん。ちょっと腰浮かして」
カナンの方をみると青い顔をしている
む。挟んでいたかね。言われた通り腰を浮かす
席に誘った時に片手を置いたらしい
「あはは、ごめんごめん。あたしもうっかりだね」
ヒリヒリしているのか挟んだ方をぱたぱたするカナンを眺める
よし揺れた。いいねをあげます
「しかし本当に待っててくれたとは。すまんな」
「約束だからね」
カナンさんはすました顔であっさり言った。さてはイケメンか?
実際相当待ってたと思うのだが。リアルとか危なくないです?
会話はそこで途切れてしまったがまぁカナン相手ならそこまで気にならない
今はこの余韻に浸ろう
「……訓練はどうだった?」
突然聞かれてぎくりとする
訓練は主にリーダー氏が頑張ってくれていたし流石に格好が付かないよな
「レベルが六から十に上がったぞ
MPは二増えたな」
俺は確かに質問に答えた
これでうまいこと誤魔化そう
実際、レベル六、HP五、MP二、Atk四、Def四だったのが
レベル十、HP七、MP四、Atk四、Def四に上がったのだ
結局、自分で倒したゴブリンが一番経験値高かったと思う
寄生してレベルを上げることは難しいということだろう
リーダー氏が死の縁から助けてくれた時も経験値あった気がするが、あれは狙ってできるものじゃないし色々な意味でもうやりたくない
「楽しかった?」
そうかなとは思ったけどそっちか
「それなりに」
俺の答えを聞くとあー、と机に突っ伏すカナン
それなりって言い方は俺にとって上から二番目くらいの表現なんだけどまぁ面白いから黙っておこう
「そうだ!
今イベントしてるの! イベント!」
カナンはしばらくして顔を上げる
ほほん。いべんととな。お知らせとか見ないからわからんかったや
どうりで周りが騒がしくないわけだ
「ミザリーハンティングっていうらしいんだけど
一緒にこない?」
「……喜んで」
椅子から降り畏まって劇的に返事してみた
こういうときの返事はあってないようなものだし、代わり映えしないのもよくない
「じゃ、じゃあゴー!
ゴーゴー!」
せやな
俺はカナンに強く引かれた手を離さなかった
数いる受付嬢の中で眼鏡の委員長ねーちゃん (他はツンデレ受付嬢、クーデレ受付嬢もいた)に俺達は話しかけた
ミザリーハンティングとはイベントステージにセイクリッドのミザリーが大量出現するのでそれを狩っていけという実にシンプルなものであることがわかった
報酬はミザリーからドロップするセイクリッドのミザリーだ
しかしここでプレイヤーが抱えられるセイクリッドは一体という仕様があることが発覚する
さてはクソゲーか!
カナンも知らなかったほど衝撃的な常識だった
うっかりセイレーンとお別れなんて笑えん。笑えんぞぉ!
心から眼鏡委員長に話しかけてよかったと思った
彼女に握手を求めたがそれはきっぱり断られた。ですよね
まぁそんなわけで俺には超絶いらないことが発覚するのだが
ミザリーをセイクリッドにしてるプレイヤーがミザリーを手に入れると強くなるという昔どこかで聞いたような仕様により、カナンの助けになると発覚した
今はそういうことならとことんやってやると返ってやる気が出たところである
「狩るっていうから攻撃せんといかんのかと思うっとったが、頭についてる鉢巻き取るだけとはな」
戦闘ではないとなると話は別だ。俺は脚に水を得た
これでスゴく滑ることができる。初狩りの草原から木々抜いたまるで手抜きのようなステージだったので、滑りすぎても安心だ
「よいしょー!」
ーーにゃああ!
ミザリーと格闘しているカナンを追い越してしまったがフレ登録してるし自由に行動して良いとのことだから安心だ
ーーイヤー! や、やめっちょっ!
滑っていると目標を発見
桃色の長髪、先にハートが付いた尻尾とえっちそうな娘だ
おのれ無駄にかわいいじゃねぇか!
「冥府に還れサキュバス」
ボルテージが最高潮に達した俺は様々な思いをのせ、キメ顔でそういった
ミザリーはすばしっこい娘だが、俺は今変態である
カナンの役に立ちたいしボルテージはマックス。敵う筈がなかった
ーーにゃああ!
むんずと鉢巻きを片手で掴みとると良い声で鳴いてくれた。鉢巻きを取られたミザリーはそのまま光に包まれ、消える
おまえもまた強敵だった。この調子で二人目いくぞぉ!
「楽しそうだね。ピタゴラス」
ふとカナンが隣に出現した
手元には鉢巻きを二本。む。流石に速いな!
というか普通に並走しておるわこの娘
「まぁ色々と摩擦がないからな!」
「……なんかすごい説得力」
カナンは一言いって微笑を浮かべると俺を追い抜く
追い抜かれて役に立てるか少し心配になった。あと揺れた
立てるかじゃない。立つんだよぉ!
俺は己を奮い立たせ、改めてミザリーを探した
まぁ、探すまでもなく沢山いるんだが
桃源卿かな?
ーーイヤー!
ーーにゃああ!
ーーイヤー!
ーーにゃああ!
「ほれあめ玉だぞ~」
ーーおいしい!
水なんだけど。さてはチョロいな
ーーにゃああ!
慈悲は無い
ふむ四本か。少し休憩しよう
ふいー、と一息
特に汗はかいてないが額を拭い草にぺたんと座る
「はぁあ……ウィンドレイジ!」
ーーにゃあああ!
遠くで一気に三人くらい持ってった人がいた
多分他人だろう。知らないフリしよう
あっ、駄目だ目があった。逃げなきゃ
「うおおお! ウォーターボール!」
即座に立ち上がり脚に水を纏うと全力で滑った
ちょっと休んだのでボルテージは下がったがここは気合いだ
ーーにゃああ!
勿論、片手間で鉢巻きを取るのも忘れない
なんかコツ掴んだ気がする。鉢巻きオイテケ
「おやおや? もしやと思いきやピタゴラスではありませんか
どうしてここへ?」
げぇーっ! エルフ!
うぐいす色の髪を波立たせ、幼女が俺の前に出現する
お体が風で包まれてた
飛んでるんですねリーダー氏。そりゃ勝てんわ
「カナンの手伝いだよ」
「ふむ。では仕様はご存じですね」
うんうんと頷くリーダー氏
なんだ心配してくれただけか。逃げて損したぜ
「勿論、セイクリッドを変えるつもりはないさ」
リーダー氏はそうですよね、と一言いってこちらに飛んでくる
距離はそれなりにあるし、ぶつかることはないがなんだろう
「がんばって下さい」
すれ違うところでリーダー氏から激励を頂いた
訓練でのことで文句の一つでも言われると思って身構えたが拍子抜けである
そういえば礼を言おうとしたんだったが言いそびれてしまったな
ーー助けてぇええ!
む。最早聞きなれた声だが、ただならぬ悲鳴だな
行ってみよう
スイスイとそっちの方へ向かっていると目標を発見した
なるほど、ミザリーの溜まり場だ
ーー動けないの
ーー助けてお兄さん
ーーな、なんでも……します
なんか草原にボロボロのミザリー達が固まって簀巻きにされてるのはなんとも言いがたい
明らかに人為的なものだが目に毒だし、助けたろ
ーーにゃああ!
ーーにゃああ!
ーーにゃああ!
成仏しろよ
俺は鉢巻きを三本手に入れた
固めて置いておくとこういうことになるんだな。覚えておこう
思いを新たに滑り出したつもりだった
「おい、ちょっとまて」
背後にどすん、との音が聞こえたのでもしやとは思った。肩に手を置かれる