始めての死亡
実績
始めての死亡
ピコーンと鳴っていつもの
死んだと確信したがやはり死んだな
呆気のないものだ
リーダー氏によればフィールド上のゴブリンやスライム等の魔物はプレイヤーが操る奴らしいのだが
今回のお相手はそこまで強くないとのことで安心したのと、自分自身大きくなった気がして調子に乗った
敗因はやはり一人になってしまったことだろう
強くないとの評価はリーダー氏基準の話で、レベルが高いのはリーダー氏だ
冷静になれば思い至ったであろう事実を忘れてしまっては死んでもおかしくない
そういうゲームだったわこれ
本当に忘れかけていた。気を付けよう
俺は思いを新たに目を覚ました
どこまでも白い空間だ。なんか見覚えある
頭だけ動かすと玉座のみが見えた
……そうか。ここは最初にセイレーンと会った場所だ
「セイレーン?」
謎空間にて俺はセイレーンを呼びつつ、起き上がった
しかし、セイレーンが座っている筈の玉座はもぬけの空だ
今回はそれなりに時間ありそうだし遊んでやろうと思ったのだが
「セイレーン。ああ、こんなところに」
空色服装巨乳おねーさん発見
彼女は玉座の後ろで体育座りをしていた
セイレーンは呼ばれて顔を上げる。涙目だった
唇が尖っている。拗ねてるのか。さてはかわいいな?
「ピタゴラス……!」
セイレーン氏、わしを見て花が咲いたように笑う
尊い。尊みが深い
「……ちょっと待って。どうしてここに」
セイレーンは立ち上がると俺の回りをぐるりと一周する
確かにこうやってまじまじと見るのも見られるのも初めてかも
腕を組みつつ、考えているフリをする
なるべく彼女の姿を目に焼き付けておきたい
というか髪のボリュームスゴいな
自立型なのかゆらゆらしてるけど毛並みはとても綺麗だ
「最後の記憶はゴブリンに囲まれたところだな」
そろそろ怪しまれると思ったのでセイレーンに答えた
まぁ一々一体ずつ相手取るような戦法では限界があるというのが身に染みた結果であった
あんな中でもよく俺を護ってくようとしていたリーダー氏に感謝だ。あとでお礼言わなくてはな
「死んじゃったの……?」
死んだといえば死んだな。俺はまぁな、の一言で返した
「……見てなければならなかった
ごめんなさい、ピタゴラス」
すくっと立ち上がるとセイレーンは俺に向かって一礼する
俺はのけぞった。主に彼女の谷間が見えて俺の純情が危ない
露出度高すぎてどこみても犯罪なんですがそれは
まぁ髪みとけ髪。しかし、この髪もなんか透けてるような……よしもう気にしないことにしよう。綺麗なお背中でも眺めよう
「ま、まぁええんやで?」
このくらいしか言えんかった
もっとつよくなりたい
「ピタゴラス……」
セイレーンは頭を上げると黄金の双眼で顔を覗きこんでくる
というか近いよ! 近い近い!
吐息がかかるよ! 甘い甘い!
「せめて償わせて」
セイレーンはそういっておいらの胸辺りに片手を広げて置いただ
ん? まさか蘇生とかできちゃう感じですかね
「覚醒を早める」
「あっ、ちょっとまってくれセイレーン!」
セイレーンが何やら本気のようだったのでとっさに片手でそのしなやかな腕を取った
セイレーンはあっ、と一言はき批難するような目をする
「その、なんかごめん。止めたかっただけなんだ」
セイレーンは目を伏せてしまった
うーん、まずい。嫌われとうない
「あの、ですね。えーと」
よく考えたけど、俺と遊ばないかなんて言えなくないですかね
止めたはいいが、何をして良いやら分からない。言葉にもならない。汗でそう
先に謝ればよかったばい
「……実はな、ピタゴラス。我にはおおよそ君の考えてることが予想がつく」
セイレーン、突然の衝撃告白
えぇっ。なにそれ以心伝心じゃないですか!
心が繋がっちゃってるじゃないですか!
「我はおおよそと言ったぞ。ピタゴラス
喜んでるなら喜んでる、悲しいなら悲しい、焦っているなら焦っている……遊びたいというのは特に見えちゃうね」
なるほど、内容まではわからんでも全容はわかると
……それって変わらないのでは。寧ろ普通に心読むよりもっと深く繋がっちゃうのでは?
さては神ゲーか!
「先の能力は恐らく我独自のものだから覚えておくと良い
きっと役に立つはずだ」
セイレーンがかわいいってことだね。うんわかった!
「……ありがとう。ピタゴラス
しかし、どうか気を遣わないでほしい。我はあくまで君のセイクリッド。後回しでいいんだよ?」
セイレーンは小首を傾げてくる
ところで、そういうとこだぞって感情は伝わるのかな
「……どうかしたの?」
今度は目を合わせてきた。あかんて。それはあかん
しかし、一つわかったぞ。なるほど。今ので質問してるってことはわかるわけだ
「べ、別段気は遣ってないんだかんね?」
俺は誤魔化しついでにそういって笑いかける
ほら、二人でもしりとりとか出来ると思うのですがどう思います?
「……ピタゴラスはやさしいんだね」
セイレーンが純粋なだけなんだよなぁ
セイレーンは顔を伏せているが、俺の胸に置いた手はそのままだった
「わかった。また今度にするよ。セイレーン」
俺はそういってセイレーンの腕からそっと手を離した
名残惜しいが、これでは遊ぶ所ではないだろう
「……感謝します。愛しき盟友、ピタゴラスよ
“汝の旅路に祝福があらんことを”」
詠唱にも聞こえるセイレーンの一声
胸の辺りがなにやら痺れた。電気? そんなこともできたんですね
「また今度遊ぼうね」
浮かべた笑顔は幼さの残るものであった
俺は覚醒しつつある意識の中これなら死んでも安心だなとか思っていた
「ピタゴラスさん。お目覚めになりましたか?
ここは街の修道院です」
目が覚めたら女性の声。黒い丘。そして俺は上の空
完全にトリップしていた
失礼との自覚はしてはいるが、先のセイレーンショックで麻痺してしまった
うーん。いけない。カナンに会ったらなおるかなん
しょーもない力が働き、謎の修道女の言葉をはんば無視する形で俺は起き上がる
多分、膝枕だったなぁ。そんな感想だった
「……ここは?」
「……街の修道院ですね」
呆けた質問に困り顔浮かべつつ、答えてくれる
うん、やさしい
修道女さんは実際豊満だった
まぁ下から見たら修道女さんの顔分からないくらいありましたものね
俺はすっ、とベッドから立ち上がりもう一度座る
なぜベッドなんだ
寝室?
なんか香水の臭いがするような気がする
さっきからふわふわするのはこの所為か?
まぁなんにせよ些細なことよな
「はの、手を離してふれるとありがたいふぉのですが」
いかん。考え事してたらうっかり修道女さんの頬をむにむに掴んでしまった
如何に柔らかそうでもセクハラだぞ!
俺は急いで立ち上がった
「す、すみま。あだっ!」
謝りつつ離れようとたたら踏んでいると後ろの扉に頭が激突した
うーん、いたい。さすりさすり
「だ、大丈夫ですか?」
俺はベッドから立っておろおろとしている修道女さんに親指を上に立てて見せた
まぁしかしそうか、助けてくれたわけだ。苦しゅうない
多分性懲りもなく来るかもしれないけれどその時はよろしくね
俺は一室を出る際の会釈に様々な思いを乗せた
「あ、あの!」
ん? と一言つき、俺は閉めようとした扉を半開きにした
シスターさんはにこにことしていたが、翠色の双眼にはどこか心配そうなもの浮かべていた
「気をつけていってらっしゃいませ。ピタゴラスさんにセイクリッドのご加護があらんことを」
そういって修道女さんは指を組んでくれた
本当に祈ってくれるなんて有り難いなぁ。しっかりせんと
俺はそう思いつつ、静かに扉を閉めた