リーダー氏との特訓
リーダー氏が訓練の邪魔だからということでカナンとは別行動になってしまった
酒場で、待ってる。とのカナン氏の言葉に俺は涙した
俺を引きずるように連れ去ることに成功したリーダー氏だが、道中為になる話を話してくれた
ステータスの伸びはプレイヤー個人の力とセイクリッドによって変わる
それにより伸び方は一人一人違いがでるのだが、そのままだと所謂極振りのようなステータスになってしまうのがほとんどらしい
しかし、師事をうけることでその傾向をある程度矯正することができるという
こういう機会でもない限り教官ガチャなる闇鍋に挑戦しなければならなかったのだから、とにかく感謝して欲しいとのことだった。早口だった
「おおう……」
初狩りの草原にてリーダー氏にウォーターボールを見せれば頭を抱えてこの反応である
見せてくれって話でしょうが!
出来ることはウォーターボールくらいしかないから仕方がないのかもしれないが
鍛えるといっていきなり頭を抱えられるとは。いやまてそういうことか
「もしかすると俺根本的に魔法使いに向いてないとかじゃないですよね?」
何故か敬語になった
「……宜しいですか。ここはゲームの世界です
我々がプレイヤーである限り、ある程度の補正がつきます」
それはまたメタな
「俺でも魔法使いになれると?」
俺がそう問うとリーダー氏は目を細めて沈黙してしまった
「俺でも魔法使いになれると?」
言った内容が内容だけに恥ずかしいんだが
二回いってしまったんだが
「聞こえてますよ」
固かったリーダー氏の表情が柔らかくなった気がする
そういうとこだぞ
「……極論ですが、時間か金を費やせばなんにでもなれます
大丈夫です付き合います付き合いますよ。そうなるまで、ね」
リーダー氏の目はとても怖かった
「そういうわけでかかってきなさい
殺す気で来るのです」
「なんだって!?」
そんな唐突な。バトルジャンキーじゃあるまいし
大体レベル差が雲泥だと思うのだが手加減とかは……
「はやく……殺す気で……きなさい」
あっはい
「……ウォーターボール」
俺は半身に構えるとウォーターボールを両手に纏った
そして手のひらを相手に見せるように開く
「容赦はせんぞ」
大きく円を描くようにゆっくりと動かして
微笑を浮かべた
「……。ウィンドレイジ」
リーダー氏は無表情で返した。なんかあるだろ!
詠唱と共に杖でこつんと地面に突くがなにも起こらない
「隙あ……なっなんだ。浮いてっ」
近付こうとリーダー氏に走り寄ると地面から足が離れた
リーダー氏はふむ、と一息しその様子を観察していた
「これでピタゴラスはわたしの機嫌ひとつで死ぬようになりました」
「なっなんだって」
言いながら、俺は体をぐるぐると囲う風に気がついた
地上を離れてしまったおかげかリーダー氏の体が更に小さくなった様に錯覚する
「試してみましょう」
「うおおっ!?」
リーダー氏の淡い碧色の目が光る
地面を指差すと地面ギリギリのところまで落ちた
「わああ!」
「ねっ?」
リーダー氏が上を指差すと、空中に逆戻りだ
ねっじゃないよリーダー氏! ちょっと舌出すな!
「今のように叩きつけ、殺すだなんて思っていませんのでそこはご安心を」
なるほど安心した……なんてなるかぁ!
「それってリーダーのMPが尽きるまでこのままってことじゃねぇか!」
「この魔法を維持するのは簡単です。おすすめはしません」
なんだその大魔法!
対人最強か!
「じゃーどうしろと!
このままフワフワ踊ってろと!」
「MPが尽きるのを待つより、自力で脱出してみましょうか
ピタゴラス。貴方ならば出来るはずです」
出来るたってなぁ。俺は拳大のウォーターボールくらいしか出せんのだぞ
そんなんでどうしてこの拘束がとけようか
この拘束だとセイレーンを呼ぶのは力業すぎてできない
呼べたとしてもあとに繋がらないのは頂けないし
リーダー氏に干渉するのもやはりこの拘束では難しい
つまり俺はリーダー氏に干渉せず、かつこの拘束をとかなければならないわけだ
リーダー氏に干渉せずかつ拘束をとく妙案ね
……浮かんでるには浮かんでるんだ。やりたくはないがまぁ、やるしかないわね
「……ウォーター、ボー」
小さく詠唱しウォーターボールを飲みます
このときゲロする気持ちで口のところから生成するのが望ましいでしょう
次に、これをとどめます
苦しいです。はいおわり
「む。バカなことをしてないで、早く吐きなさい」
バカじゃないもん
「まっ、まさか本気? 解除……ウィンドレイジ解除!」
地面に軟着陸する俺
この慌てようをみるにどうやらリーダー氏の思惑とは違ったようだ
なんにせよ判断が遅かったな。ボクの勝ちだ、リーダー氏
意識が朦朧としてきたから
「……おのれ。そうはいきません」
そういうとなにやら決死の覚悟で顔を近付けてくるリーダー氏
ま、まて。まさか。アッー!
実績
ファーストキス
ピコーンと鳴ってこれである
煽ってるだろてめぇ!
「ゲホッげほげほっ!」
すごい吸いつきだった
うぐいす色の髪がくすぐってきて腹立つ。良い臭いだったのも腹立つ。柔らかかったのが腹立つ。はじめてはカナンがよかった
俺は地面に向かって咳き込みながら心に不満を重ねた
リーダー氏は腕で軽く口を抜いつつ立ち上がる
セイレーン見たかったんですが、とのお叱りを受けた
なんもいえねぇ
「ピタゴラス。そっちにゴブ一いきました」
「お、おう」
俺達は草原のすこし奥に進み魔物を狩っていた
リスクが増えますが正攻法でいきましょうとのリーダー氏の提案に乗ったはいいが、今になって俺は少し後悔している
ーーキギッ
ゴブリンにはいやなイメージしかない
一体であればなんとかなるだろうと心に言い聞かせて俺は片手を前に翳した
「ウォーターボール!」
手から打ち出した水は制御が足りずゴブリンの目の前辺りで落ちてしまう
「ウィンドスロー」
しかし、そこはリーダー氏がいるから問題ない
リーダー氏の魔法の助けを借りて落ちた水が僅かずつ溢れながら浮く。そのままゴブリンの頭に水がジャストフィットした
ーーギッ。キギ
「やはり制御むずい。慣れぬ」
こう、丸みを帯びつつ包むのがなんとも言えん感覚なんだ
ひとつ間違えると水が落ちちゃいそう
「ウィンドカッター。ウィンドカッター。ウィンドカッター」
俺が一体にかまけている間に、リーダー氏はその四倍は狩っていた
水を制御している間は無防備なのでリーダー氏が真っ二つにしてくれることに有り難いと思う。思う存分切り裂いてほしい
しかし地力が違うとここまで違うか
わざわざ付き合ってくれていることも含めてとても尊敬した。あんなことがなかったらときめいていてもおかしくない
ーーギッ
水によって溺死したゴブリン一匹は光に包まれる
「思ったのですが、水の制御とはなんです?」
リーダー氏もそれを見送りながら問うてきた
問われて困った。なにって言われても自然すぎてわからん
「素でやっているのであればそれは基礎通りこして応用にいってしまっていることを教えておきましょう」
「基礎通りこしてる?」
ちょっと引っ掛かった
うん、とリーダー氏はあっさり肯定したが
「まぁその点においての問題は見られません
この調子で伸ばしてみて下さい」
とのことだった
む。実はこれは褒められていたのでは?
ちょっと嬉しい
「しかし今回の相手は対したものではありませんでしたね
今日のは弱いです」
腕を組みつつふふん、と如何にも得意気なこいつ
かわいいとは思っちゃいけない。あくまで素敵な人なのだ
「しかし日にちによって敵の強さが変わるとは……」
深刻そうな俺に対してリーダー氏は常識ですよとの顔していた
妙なリアルだな。なんなんだそのゲーム
「善は急げです。この調子で大元まで倒してしまいましょう」
ゑ?