タイタン
運営からのたちの悪い激励をもらい三人はイベントステージに進んだ
簡単なルール説明があったが、要するには向かってくる敵を五回倒せばいいという単純なものだったのはひとまず安心した
ルール説明を終え、門をくぐるとそこは開けた広場で周りをみると客席も用意されている
なんとも分かりやすく闘技場であった
「アリスさん頑張ってー」
「アリスさーん俺だー! 胡蝶の夢☆に入れてくれー!」
「ようじょーー!」
歓声の殆どはそんな感じだ
本人はというとほとんど迷惑そうな顔をみせず手を振っていた
「流石アリスさんは有名人だ」
メイはそんな対応をするリーダーに苦笑を浮かべていた
「無駄に規模だけが大きくなってしまいましたからこれでも困っているのです。どうしてこうなった」
ははは、とメイはおおいに笑った
リーダーはそれに素早く反応すると不機嫌な顔を浮かべメイの脛あたりを蹴った。いたいいたい地味にいたい、待ちなさいとじゃれあっている二人を俺は見ていた
この戦いは、俺にとってはカナンを助け出すという重いものだ。二人は運営というものがどれだけの手札を持っているか予測できず、それは俺やカナンでしかできないことでもあると思う
その予測というのも今となっては意味もなさない
あのほとんど何もない空間での運営との関わりなんてそんなものである
ひとつ確かなことがあるとすれば運営の考えていることはろくなことではないということだった
このままでいいのだろうか、という思いつきに似た考えがあった
二人にとってはこうして楽しむということも勘定に入っているのではないか。だとすると自分もそうあるべきなのだろうか。答えのない答えを探した
「ピタゴラスさん! ほら円陣しましょう円陣!」
「ああ。今いく」
なるべく二人には心配はかけないように立ち回ろう、そう思いながらリーダーの元へ駆け出し、円陣に加わった
「ふぁいとー……」
掛け声はリーダーの役割らしいそんなことを思い円陣をしているとその目先で光の粒子が集まり、それがどんどん大きくなってくる
「なぁ、アリスさん。これヤバいんじゃ」
「……オーって言いましょう。言い終わるまで離しませんから。ほらご一緒に」
円陣の状態で光の粒子に取り込まれてしまった
メイの助言も最もだが、ここまでくるとオーって言いたい気持ちは痛いほどわかるのでこれには黙る
「おおおわあああ!?」
その時、光の粒子が質量をもった
最早、誰ともわからない声ととともに三人は散開するようにバラバラになる
「ぐっ……」
軽く頭を打ち付け、何事かと辺りを見回すと先程まで円陣していたところには巨大な脚があった
陽が陰る。恐る恐る見上げてみると唖然としてしまった
巨人だ。正確には石造りの巨大な人の像だろうか
首がないのが特徴的だ
「タイタンです! ピタゴラスさん。ラッキーですね!」
リーダー氏の言葉にこの圧倒的な存在のどのあたりが幸運なんだろうとか思っていた
「うおおおっ!?」
砂ぼこりと衝撃が襲う。思わず尻餅をついてしまった
ただ地面に手をついただけの行為だけでこれである。情けない
「どうしたピタゴラス! そんなんじゃこの先生き残れないぞ!」
メイ氏の言葉に震い立つがこれといって打開策が浮かばない
この状況をどうにかできるとするとセイクリッドコールだが、かといって今セイレーンを呼ぶとMP切れになる恐れがある
なるべくなら、セイレーンという切り札は後に残したい
そんな思惑があった
タイタンはその巨大な手で地面を削るように握る
これを指と指の間に跳び退き回避して冷や汗をかいた
そうもいってられないかと思い、セイレーンを呼ぼうと口を開くと上空から落ちてきて綺麗にリーダー氏が着地した
「ヘイトはもらいました。そういえばタイタンは初めてでしたねピタゴラスさん。ちょっとみててください!」
タイタンの肩にでも乗っていたのだろうか。わからないが駆け出すリーダー氏に合わせてタイタンは体を屈ませていく
子供が蟻にするような行為である
巨大な体な上に石造りなのでその行為事態は鈍く、その間にリーダー氏とメイ氏はタイタンの脚まで到達した
なるほど。脚までいけば屈むのか
そう思い、リーダー氏とメイ氏の二人を監察しているとそのままタイタンの脚の小指をこれでもかと拳で殴った。本当に拳で殴った
タイタンはこれを許さないようで、片手で拳を作ってかかげ先程とは比べ物にならない早さと勢いで降り下ろす
その拳は最早、一つの隕石だ
「危ない!」
思わず叫んだが二人は跳び退き離脱していた
離れていたはずだが俺も地震に見舞われフラフラした。これだけで衝撃がどれほどのものかわかろうというものだった
あんなものをくらっては一溜まりもない
タイタンの拳を降り下ろした先には片脚の残骸があった。自分で自分を壊したということらしい
タイタンも自分で自分を攻撃したことが信じられないのか、降り下ろしたまま固まっている
その姿はなんとも間抜けであった
「とまぁこんな感じです」
「料理の仕方はわかったかピタゴラス」
二人がすごい速さでこちらまで戻ってきたことに苦笑したが、色々と観念して俺は頷いた
とんでもない人達を味方につけてしまったらしいと今更ながらにそう思った。がんばろう
「ほら来ますよ。また拳を上に掲げました」
「今度は一緒に行ってみよう、ピタゴラス!」
俺はメイ氏の手を取り、駆け出す
あっずるいです、とのリーダー氏の非難の声からは余裕が窺える
「絶対に離すな。転びそうになってもアリスさんが助けてくれるはずだ
まぁ、転びそうって言ってくれればこっちとしても助かるけどね」
「ああ。努力する」
メイ氏にぐいぐいと引っ張られるが痛いほどではない
以前の自分とは違うのだというところを見せなくてはと本気で走った
その甲斐あってか、タイタンとの距離はみるみる縮んだ
その息だ、との激励を貰いやる気を回復しつつなんとかタイタンの脚までたどり着いた
「よし。ピタゴラス。ここを殴るんだ」
小さくても大人一人分の高さがあるようなタイタンの脚の指の一番端をメイ氏は指差した
指差した先はタイタンの小指の部分にあたる。つまりはここが弱点らしい。とりあえずメイ氏に頷いた
「ふっ!」
堅そうに見えたので掌低にしてみたが、案外そこは脆かった
これなら確かに拳でもいけそうだ。元にオラオラオラといって殴ってるお侍さんがいた。日頃のストレスが貯まっていそうだった
「やや? 様子がおかしいですよ?」
「チッ、懸念した通りちーとばかり賢くなってやがる
イベント仕様って奴か。多分ここを離れないと拳を下ろさない気だなあれは」
リーダー氏とも合流し三人で小指を拳で殴っているが、タイタンの拳はとんでこない
どうやら予想外の行動であるようだったが、黙々と小指を殴った。なんか楽しい
「そうだ。それだよ。ピタゴラス」
「えっ?」
メイ氏の言葉に思わず手を止めて振り返る
制止するタイタンと自分を比べるようにみるとメイ氏のその顔はいつかみたような悪い顔を浮かべていた
「このまま小指を殴り続けてHPをゼロにしてやろう」
「それしかなさそうです、ねっ!」
はからずしてサンドバッグとかしたタイタンにリーダー氏は致命の一撃を浴びせ続けた
「そうと決まればどんどんいこう! ピタゴラス! 日頃の恨みをぶつけてけ!」
オラオラオラとメイ氏はタイタンの小指を殴った
ただただひたすらに殴った
「う、うあああっ!」
メイ氏に続くように半場やけくそ気味に殴った。殴って殴って殴り続けた
殴った先から石がボロボロと崩れる。これがなかなか爽快で確かにストレス解消にはもってこいだった




