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セイレーン

「セイクリッドフォースはVRになったことでクラスが増えたのだ! 知ってた?」


 酒場で喋ろうとのカナンの提案に乗ったのはいささか間違いだったようだ


 俺はほう、といいつつ何食わぬ顔をする

 トイレを済まし、スマホをチェックしつつ、ついでに今日の晩御飯まで仕度してこれなのだから相当繋いでいたに違いない


「あっ、聞いてなかったなぁ」


「……髪は別にきってない。今回のドロップ素材は全部そっち持ちで全然かまわないし、ここの茶は渋い」


 勿論、ログも完備。相槌AIは非常に有用なシステムなのだ

 惜しむらくは、俺が退出している時どういう風に相槌を入れていたかわからないところか


「……セイクリッドによって得意不得意があるんだけど、プレイヤーの個人差にもよって変わってるみたいなんだよね。わかるかな?」


「ああ、クラスの話ね。剣使い、魔法使い、拳闘使い、銃……あっ増えたのは知らんな、うん」


 カナンさんの悩殺無垢な瞳攻撃

 話しながらログを下の方にスクロールして目当ての会話を発見したは良いが、これは取り繕ったのがばれたな


「魔物使い。魔物使いが追加されたんだよ

 モンスター倒してるとたまにカード落とすけどそれ使えるの」


 胸をはるカナンにほぉん、と頷く

 分かっててゆるされた感。これは堂々と胸を見れない


「……うん? ちょっとまて。それって何度も使えるってこと?」


 カナンはうんと頷き、エールをあおる


「……ズルじゃん」


 カナンをみる余裕すらなかった

 嫌な予感しかしない


「ぐぅむ飲み過ぎたぁ」


 机の上に倒れ伏しているカナン氏

 バーチャルで飲み過ぎるとはなんだろう


「ねぇね。ぶっちゃけさぁ、飽きてきたりしてない?

 大丈夫?」


「……まぁまぁかな」


 その答えにあー、と顔を机に押し付けてしまうカナン

 テレビに繋いでゲームクリアした無印と比べると似ても似つかない。期待を込めてもこの評価が妥当だろう


「そうだ。二人じゃつまらなくても三人なら面白いよね!?」


 三人揃って文殊の知恵ともいうしなと俺は適当ながら答えた




 そいつは目が死んでいた

 カナンとは端末で楽しそうな会話をしていたと思うのだが


「そんなわけでこちらリーダーちゃんでぇす

 リーダーちゃんはわたしが入ってるクランのリーダーなのだ! やったーっ!」


 カナンの隣にリーダーと呼ばれるエルフ顔の幼女が座った

 万歳しつつ楽しそうなカナンとは対照的に顔に影があるエルフ氏。お通夜かな?

 なんかごめんね?


「話が違いますよ、カナンさん」


 そういえば、会話の中で女かもよ? というカナンの言葉を耳にした

 口を開いたエルフはまるで三回くらい変身を残していそうだった


「ほ、ほら! アバターが男でも中身が女の可能性が……!」


「よろしいですか、カナンさん。人は中身ではないのです

 表面が女でなければ協力はできかねますね」


 なるほど清々しいなリーダーちゃん

 カナンの胸部を凝視することも含めて


「じ、じゃあフレ登録だけでも!」


「わたしのフレは全員女です。許しませんよ」


「そ、そんなぁ~」


 カナンはリーダー氏に寄りかかった

 ダメだ、どんどんカナンがダメな人に見えてくる

 早くなんとか糸口見つけないと


「ま、まぁ……彼の芸風には少々興味が。ちょっと外出ましょうね」


 リーダー氏、色仕掛けによわい説




 どんな狙いかわからんが、三人で初狩りの草原へ来た


「ピタゴラスくん。例のものを見せてみて」


 リーダー氏との会話は全面的にカナンが担当し、少しリーダー氏の機嫌が戻ってるようにも感じた


「……例のものとは?」


 リーダー氏はやれやれと発した


 小さい頭をふりふりと左右に振るとうぐいす色の髪が浮く

 リーダー氏と喋る時は目線を下げなければならない。そのくらい小さな体なのだ


 まぁ……なるほど。拘りを窺える

 まんざらではなかった


「セイクリッドコールです!

 さぁ、やりなさい」


 セイクリッドコール……つまり、セイレーンを呼び出せと?


「いやそれは少し手の内を晒すことになるというか……」


 俺はそういってカナンに目をやる

 目をぎゅっと瞑り何度もごめんとの口の形。手を合わせてすらいる


 そういや俺、カナンに貸しがあったよなぁ

 返せないほどの貸しが


「そうです。見せなさい」


 淡い碧の眼を見つつ、貸しを返す時かと頷いた

 まぁ呼び出し方くらいは直感的にわかるもんだ


「随分素直ですね」


「……いくぞ?」


 そもそも拒否権はないからな

 俺の言葉を確認するとリーダーさんは二、三歩後ずさる


「こいっ! 人魚姫……“セイレーン”!」


 呪文とも言えぬそれに従い、足元から水が渦のように発生した

 ひっ、やらきゃあやら声が上がる


ーーフフ、フ


 セイレーン氏ちょっと張り切りすぎです

 溺れる。草原なのに溺れちゃう


ーー少々お仕置きがすぎたか。ごめんね


 渦が俺の目の前でそのまま人の形を成した

 空色服装の巨乳お姉さんである。はえー、すっごい。なんもいえねぇ


「お呼びかな、ピタゴラス」


 仕上げとばかりに右手からの泡をだし指揮棒になった

 あっそれ得物なんですねぇ


 実績

 セイクリッドコール


 脳内でピコーンと音がして実績開放

 今回は癒された。その調子で頼む


「呼んだというか……呼ばされたというか……

 ちょっと待っててほしいんですが」


「むぅ」


 俺の言葉がおきに召さなかったようで黄金色の双眼で威圧された。つよそう


 実際にガリガリとMPがとける音がした

 尻餅ついてないでなんとか言ってくれリーダー氏

 これだけの胸の存在だ、維持が難しい


 リーダー氏ははたと我に戻るとすくっと立った

 とことここちらに近付く。はよせんか


 水で色々透けていたが、お構い無しに左手を差し出すリーダー氏

 いや、なんで無言なんだ。


「んっ!」


 リーダー氏、差し出した左手を揺らす

 何となくわかるけどなんか面白いから無視した


「採用」


 ぱしりと無理矢理右手を握られてそう一言言われた

 やったーっ! と言いながら突進してきたカナンを避けられず、俺はそのまま倒れ伏した


「しょうがない人……遊んでもらえるってちょっぴり思ったのに」


 俺のMPが尽きたのを確認するとセイレーンはそう言い残し泡となって蒸発した

 セイレーンには申し訳ないことをした。今度気絶したら遊んでやろう


「良かったね、ピタゴラス!」


 良かったのだろうか

 俺はカナンに抱き付かれながらそう思った


「離れなさいカナン。ウィンドスロー」


 リーダー氏の詠唱にあれぇ~と吹き飛ばされ俺の隣に仰向けに倒れた

 柔らかかっただけに名残惜しい


「立て。ピタゴラス」


 リーダー氏の言葉に殺気すら覚えた

 殺気を覚えたわりに手を差し伸べてくれたのでツンホモ……いや、ヤンホモなのだろう。嬉しくないが甘えることにした


「……君は、君には特訓が必要なようだ

 二度とあのセイクリッドを泣かせないために」


 そういえば彼女はセイレーンの嘆きを俺よりもはっきりみたはずだ。口調を忘れている事実に深く納得した


「ガリガリMP吸われるんですよねぇ」


 俺は頭の後ろに片手を置いた


「貴方のステータスは? 数値だけで結構」


 リーダー氏の鼻息が荒い

 真剣に向き合ってくれそうなので最後に見たレベルアップ画面を思い起こす


「六、五、二、四、四……でいいのかな」


 レベル、HP、MP、ATK、DEFの順で述べていく

 返事のかわりにふんふん、とリーダー氏は頷いた


「傾向的にはクラスは剣使いが適任ですね」


「おお。じゃあ剣使いに師事されれば……」


 カナンは剣が得意だ

 もしかすると剣使いなのかもしれない


「わたしは傾向的にはといいました。貴方の最重要課題はMPを限界まであげること。魔法使いか、魔物使いに師事を仰ぎなさい」


「魔法使いか魔物使い……?」


 魔法使い。ウォーターボール以上の魔法を撃ちたい欲はある。無難に成長するならこちらだろう

 しかし、魔物使いが明らかに強そうで興味があるのも事実だった


「ちなみにわたしは魔法使いです」


 リーダー氏それ選択肢あってないようなものじゃないですか!

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