ようこそピタゴラスさん
青い空、白い曇。小さくなった石造りの建物群。そこに行き交う人々
展望台からの眺めは嫌いじゃないが、俺は端末に目を落とした
掲示板を見るためである
セイクリッドフォースオンラインVR。このゲームは前作セイクリッドフォースオンラインのリメイクだ
俺はセイクリッドフォースがオンラインですらない頃にやったきり知らなかったが結構シリーズが続いたらしい
プレイヤーはゲーム初めてすぐに聖霊から加護を得る
そしてそれがそのままゲーム内のプレイヤーの性能になる
プレイヤーは一人ひとつしか加護をもてず、セーブデータも消し、もう一度作り直す所謂リセマラも出来ない。非常にシビアだ
なんの陰謀か媒体ごと買い直せばリセマラできるらしいが
わざわざ十万単位の最新機器を買い直しをするのはバカしかいないと思っている。少なくとも俺は出来ない
セイクリッドフォースオンラインVRpart14
セフオVRリセマラpart4
人生リセマラ隔離板
【ただしミザリー】セフオ嫁自慢【てめーはだめだ】
ミザリー率高すぎワロリンwww
最近運営より使えない加護も救済するとの発表があり一旦騒ぎは収まっているらしいが、この様である
民度が知れるというものだ
「や。ピタゴラス! フレンド登録よろしくー!」
友人からの頭はたく攻撃。首おれそうだった
カナン。俺がこの世界に存在するのは大体こいつのせいだ
褐色体育会系美少女キャラ決め込んでるがネカマに違いない
「どうよこの世界。どうよ?」
「……悪くない」
楽しみは取っておきたいがちらりとみた前評判の通りだ
まさかここまで早く触れるとは思わなかったけどね
「そっか。それなら金払った価値はあったかなぁ」
「おっけーわかった。絶対に返してやるからな」
「いや素直にそう思っただけなんですけどぉ。うけるー」
目が笑ってないんだよなぁ
「して、君のすてぃたすは?」
「こんなん」
ほうほうと俺の端末を覗き見るカナン氏
密着しすぎと教えた方がよろしいだろうかと悩んだが、彼女の場合天然なので伝わらない可能性も否めない。難儀だ
ギルドにて登録を終えるとステータスが表示される。ステータスはLV、HP、MP、ATK、DEF。下の方に加護とシンプルだ
俺のステータスはオール一だったが一応初心者ならそんなもん、とのことで安心した
「人魚かぁ……それ言わない方がいいよ」
なんだその顔は。おいまて
俺の思いとは裏腹にカナンの体が離れていってしまった
柔らかかっただけに一抹の寂しさを覚えるが仕方ない
「して、ピタゴラスくんの初任務はなにかな?」
「近くのフィールド散策が一番手っ取り早いのかなって」
ふーむと唸るカナン
まぁ、街からでるだけならクエスト受けないでもできるのだ
付いてくる訳じゃなかろうし
「まっ別に邪魔はしないから安心してよ」
彼女の笑顔はとても眩しいものだった
始まりの草原。始まりとはいっても生息する敵はスライムやら、ゴブリンやらで結構手強い魔物が揃っているので初狩りの草原と揶揄されることが多いらしい
そんなところで魔法練習しようと言い出すのだからこの人に付き合うのは面白い
「ウォーター……」
片手で水を作り出し、両手で丸めつつ
「ボール」
片手で押し出すように前へ
ポチャン。水塊は目の前に落ちた
実績
はじめての魔法
頭の中で控えめな音がなり、表示される実績
カナンによると戦闘には意味ないらしい。まぁトロフィーみたいなもんか
「うーん、トロい!」
俺は頷いてカナンに同意した
「これこーして殴った方が速い説あるな」
俺はウォーターボールになる直前に拳を突っ込むことで水を纏うことに成功した。カナンの方を見るとまぁ、やってみたらというように微笑んでいた
言われんでもそうする
「はっはー! 待て待てぇー!」
俺は近くのゴブリンを追い回すことにした
ゴブリンはぎゃーすと鳴きながら去っていく
「ふん、逃げ足の速い奴め」
遠くであんぎゃーすという鳴き声が聞こえるが
あえて気にせず俺は帰路についた
カナンはその様子を黙ってみている
もっとあるだろ。なんか
「あっ」
ゴブリンAに回り込まれた! BCDE……が現れた!
ピタゴラスはこの状況になるのを知ってた!
仲間を呼ぶとか懐かしいなぁ
俺は目の前が真っ暗になった
実績
始めての敗走
「ピタゴラス。起きよ」
俺は椅子に座っているところを揺らされる
うるさい。今俺は寝るのに忙しい
「起きよ」
うるさい
「起きなさいっ」
頬に冷たい水が。それは効くぜ
実績
聖霊様ご乱心
実績なんだか知らんがぴこーんと頭で音がなったぞ
あまりのしょーもなさに俺は目をカッぴらいた
「ようこそ。我が領域へ」
目の前には露出度の高い上に透けている空色服装の巨乳が青を基調とした玉座に座っていた
さては神ゲーか?
「えーと……俺、死んだんじゃあ……」
「気絶してるだけ」
ほうほうと俺は頷いた
「我が名はセイレーン
積もる話もあるけど……しょうがないか」
たまに言葉が砕けるな
「うおおっなんかひび割れとる」
視界が阻害される。くっ、目に焼き付けねば
脚を組むな脚を!
「焦らずとも我はここに在る
また喋ろう? ピタゴラス」
心臓辺りちょんってされました
指きれいですね
「あ。カナン」
覚醒すると褐色美少女がでこちらを覗きこんでいた
蒼色アイいいよね。シンプルイズベスト
「起きたね、ピタゴラス」
カナンがほれと手を差し伸べて来たのでそれに甘えて立ち上がる
まだ草原の中なのね
脳内でデレレッという謎ファンファーレ
いつの間にレベルアップしておるわ。もしや貴様倒したな
「剣でバッサリと。貸し一つね」
「ゆるして」
ただでさえ貸しを作っているのだからここは土下座でもなんでもしてやる
俺は覚悟を決め、その考えを実行しようと土に手を置いた
「なにもそこまで……」
カナンの言葉に重なる太股に目がいく
はたと気がついた。気がついてしまった
際どいスカートの奥が見えるぞ、と
「えいっ」
俺は感謝を込めつつカナンの蹴りをくらい、仰向けに倒れた
明滅したが、加減したのか気絶には至らない
「その、見たの?」
「ギリギリ見えなかった」
控え目な問い掛けに俺は首を横に振る
「そっ、そっか……ごめん」
恥じらっている風だがこれを見てしまうといよいよ首がとびかねない
俺はうつぶせになってから立ち上がった
こうすることで俺はカナンに背中を見せることができるのだ
「白、なんだな」
俺はそういってダッシュした
ところで、ここは初狩りの草原のど真ん中だ
エンカウントしないのは難しい
ーーギギッ
やはりか。ゴブリン
いやまて。普通のゴブリンよりでかくないですかね
「ファットゴブリン……! 気を付けてピタゴラス」
後ろからカナンの声。はえーもう追い付いてたか
さては血祭りにあげたいな?
ーーギっ!
ファットゴブリンがこちらに体当たりしてくる
腕力で止めるのは得策じゃなさそうだな
避けるのも論外だ。カナンに当たる
先程のレベルアップでどの程度マシになったかわからんがここはこれに賭けるしかない
オーケー。轢かれる覚悟をしましょうね
俺は徐に左手を翳した
「ウォーターボール!」
まともに発射された水球はファットゴブリンの鼻辺りに命中すると途端に広がり、顔全体を包み込む
先程とは感覚が違った
ファットゴブリンが暴れる度に体が持ってかれる感覚がする
つまり、制御せんといかんのか
物は試しと意識を集中させた
ファットゴブリンの猛進が止まった
ぶくぶくと球体の中で苦しみだして膝を付く
ーーゴ、ホッ
ぬぬぅ。制御がなかなか難しい。疲れてきた
そんなに長くはやってられない予感がある
「隙ありっ!」
脇から、剣が煌めいた
ファットゴブリンは首の辺りを押さえると、倒れる前に消えていった
「……やったな」
俺の言葉にカナンはやっちゃったよと笑った
うるさいファンファーレに釣られただけでなく、顔が緩んだ
「あの、さ」
カナンは言い淀んでスカートの裾の部分を押さえた
なんだか神妙な顔をしているが、もしかしなくても俺のせいだろう。ゆるして
「楽しい?」
そうきたか
「……いやまぁそうだな。反省はしている」
そう答えるとカナンは目を丸くしていた
「まっ、いいや。それでも」
カナンはにこやかにそう言うと片手で頭を触りながら、俺を追い越した
街へと戻るようだ
ゆるされたと思いつつ、俺もその後ろを付いていった