歌姫
ショッピングモールの片隅のステージ。
私はバンド演奏のコーラス担当で、ステージにスタンバイしていました。
メインボーカルは外国人の年配の女性です。
演奏が始まったのに、いつまでたっても歌声が聞こえてきません。
「歌えない。」
ボーカルの彼女は泣き崩れました。
彼女には何か歌えなくなるような出来事があったらしく、今まで歌えませんでした。今日はようやく歌えるようになって初めてのステージだったのです。
私がそっと、彼女に寄り添い「大丈夫、落ち着いて。歌えるよ。」と励まし続けていると、観客の人たちも次々に「がんばれー!」と声をあげて励ましてくれました。
ようやく笑顔になり、勇気を出して歌おうとしたその時。
「だからいっただろう!!恥ずかしい!!歌えるもんか!!今すぐやめろ!!」
男の怒鳴り声が。
その瞬間、女性は小さな女の子になり、知らない村での小さなお祭りの風景に変わっていました。
女の子は涙をこらえ、何かに耐えてるような感じで、じっと立ったまま動けないでいます。
空は夕暮れになろうとしていました。
優しい風が、女の子の頬を撫でていきます。
「いつまでも待っているから、いつでも歌っていいよ。」
誰かがそっとささやきました。
ここで目が覚めました。