黒焦げ牛蒡の仕返し
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『それ』は突然やってきた。
いつもは聞こえないはずのエレベーターの動作音。そして、停止音。あり得ないほどゆっくり扉が開く音。一瞬の静寂の後…。
カツン。
靴音と共にけたたましい音楽と、マイクで何かを叫ぶ声が響き渡る。『それ』は派手な電飾で着飾り、ピカピカ光りながらマンションの廊下を歩きだした。
『私』の部屋の前を『それ』が通りすぎ、音と光は遠ざかっていった。しかし、『私』がホッとしたのも束の間、『それ』は途中で歩みを止めた。
スーッ
『私』の部屋の小窓がひとりでに開くと同時に、『それ』はゆっくりと後ろ歩きを始めた。そして、『私』の部屋まで来るとピタッと止まり、『それ』は笑いながら小窓の中を覗きこんだ。
「ヒッ!」
恐怖で隅に隠れたが、余りにもまぶしい光と鳴り止まない音に『私』は覚悟を決めた。
ダンッ!
勢い良く窓を開けると『それ』は消え、マンションの至るところから、柵を飛び越え逃げていく沢山の人影が。
『私』は脱力し、つぶやく。「のぞき…たくさん…」と。
消えた『それ』は笑う。「素揚げに失敗して黒焦げになった牛蒡の仕返しだ」と。
ここで目が覚めました。
ええ、確かにその日、牛蒡の素揚げに失敗しましたとも。
評価してくださった方に感謝です。




