第四話 名前
卓也と少女が居間に入ると、すでに樹が一席に陣取っていた。
「こいつの名前は、二海道 樹。俺の相棒だ」
卓也は樹を指差して、少女に言った。
「とりあえず、食べよう」
そう言うと卓也はテーブルの一席に少女を誘った。
卓也も空いている所に座った。
「んじゃ、いただきます」
「戴きます」
「……イタダキマス」
卓也の次に樹、その後、二人をみて少女が続いた。
食事は、あまり会話が無かったが和やかに過ぎていった。
食事が終わり、片付けも終わると卓也は先ほどまで読んでいた『子どもの名前の付け方』を取り出した。
「これは、昔この家に住んでいた人が置いていった物だ」
卓也は少女に本を差し出して言った。
「俺、一から考えられないから、これ見て決めようと思うんだがお前も見てみてくれ…ん?」
本に紙が挟まっていた。
「これ、お前の字だな…口は挿まないんじゃなかったのか?」
その紙を取り出すと幾つかの名前が書いてあった。
「口は挿まない、手を出した」
「…へりくつだな」
「・・・・・・」
「まあいいや、俺、考えられ無かったからな」
卓也は本と樹の書いたメモを少女に見せた。
「まあ、一から全部見ろとは言わないけどな、どうも幅広くてな…」
「・・・・・・」
少女は本、メモ、卓也それに樹の顔を順繰りと見ていった。
「…無理そうだぞ…お前が決めてやれ」
悩んでいる卓也に樹が言った。
卓也は本の表紙とメモを見比べた。
「よし、ある程度絞れてるから樹の選んでくれたやつから決めるぞ!いやなら今言え」
卓也は少女と顔を突き合わせて言った。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「よし、樹のやつから選ぶぞ」
卓也は本を脇に寄せメモを改めて見た。
「椿、楓、響、友子、愛子、康子、かおり、ゆみ、あゆ…お前どんな脈絡で選んだんだ?」
「適当」
「…そうか…この中でいいなって思うものはあったか?
卓也は少女に問いかけた。
「…分からない」
「そうか…ん〜どうすっかな〜」
卓也は腕を組み考え込んだ。
「お前の直感でいけば?」
「それが難しいんだって…ん〜」
卓也はメモと顔を突き合わせて唸りだした。
樹が台所へ消えていった。
少女はただ卓也を見つめていた。
何を考えているのかその表情からは読み取れない。
樹が三人分のお茶を持って台所から戻ってきた。
「休憩」
そう言うとお茶を一人ひとりの前に置いていった。
「熱いから気をつけな」
樹がそう言った直後卓也はお茶を一気に飲み干した。
「熱い」
「そう言っただろう」
卓也はまた、メモと向き合った。
「なあ、俺がお前の名前決めていいのか?」
卓也は、しばらく唸ると少女に聞いた。
「お前それ今さらだぞ…で、どうなんだ?」
二人から話を向けられた少女は、二人の顔を見回すと頷いた。
「…決めて」
か細い声で少女が言った。
「よし、分かった。もし気に入らなかったら素直に言ったくれ」
少女は小さく頷いた。
「んじゃ『かおり』だ。どうだ」
「何でだ?」
「俺の名前になってたかも知れないんだ」
「は?」
卓也は分からないと顔で言っている樹と表情の変わらない少女に話した。
「俺の親、子どもが生まれるまで性別知らなくていいって感じだったらしいんだ。
そんで、男用の名前と、女用の名前を決めておいたんだって。
それが『卓也』と『かおり』なんだ。
ちょうど候補に『かおり』ってあるしどうかな〜って思ったんでけど…」
「まあ、シンプルでいいんじゃないかな?決定権はそっちにあるけど」
「んじゃ、どうかな?」
不安顔の卓也とそろそろ飽きてきた顔の樹が少女を伺った。
「…はい、かおりの名前使います」
少女は無表情な顔から少し柔らかい感じが出てきた。
卓也は、少女…かおりの返事を聞くと満面の笑みになった。
「これからよろしく、かおり」
やっと名前を付けることが出来ました。長かった…名前付けるだけでこんなに長くなるとは・・・