第二話 家
『科学者』のいる『研究所』から出て、私は少年の運転する車に乗り込んだ。
「自己紹介がまだだったな。俺の名前は宮神 卓也だ。よろしくな」
ちょうど赤信号で止まった卓也は私に微笑みかけた。
「…卓也…」
「うん、それでいい、そう呼んでくれ。そんで、君の名前なんだけど『科学者』から聞いたら数字と記号しか言わないんだけど、なんて呼ばれていたんだ?」
「名前…」
「うん、なんて呼ばれていたんだ?」
卓也は運転しながら、私に聞いてきた。
私は今までなんと呼ばれていたのか考え、それを口にした。
「…K−28」
「は?」
「K−28」
「そう呼ばれていたのか?」
「はい」
卓也はなぜか難しい顔をした。
「…じゃあさ、俺が幾つか候補を決めるからさ、そん中から自分で選ぶか?名前そんなんじゃ不便だからな」
「はい」
私に拒む理由が無かったので、そう答えた。
卓也は、しばらく車を走らせると大きな日本家屋の前で止まった。
「さあ、着いたよ」
卓也はそう言うと車から出て、私の方のドアを開けてくれた。
「ここが俺の家。そして、今日から君の家だよ」
卓也は、家を指差しながらいった。
私は、その意味がしばらくの間理解できずにいた。
「・・・」
卓也は私の言葉を待っているのか、何も言わず、ただ私のことを見ていた。
「・・・家?」
「そうだよ、君は今日から俺達とここで暮らすんだ」
卓也はそう言うと、私の手を引き家の敷地手内に入っていった。
「あ、そうだ車」
卓也はそう言うとポケットから出した『札』を車の方へ投げた。
『札』は車にたどり着くと人の形になった。
だだ白く、人の形をしているだけだった。
「車を車庫に入れておいてくれ。出来るな?」
人の形をしたものは頷くと、車に乗り込んだ。
「んじゃ、入ろっか」
卓也は玄関の扉を開けて私がついて来るのを待っていた。
私は、なぜか足が動かなくその場に留まっていた。
卓也は私が動けずにいるのを見ると、突然不安そうな顔になった。
「あそこのほうがいい?」
卓也は、私の顔をのぞき込んで言った。
卓也の言う『あそこ』とは恐らく『科学者』達のいる所。
私は、『あそこ』には行きたくなかった。
でも、なんと言っていいか分からず私は、卓也の服の裾をつかんだ。
卓也はそれを見ると笑ってくれた。
「さて、入ろうか」
卓也は、私の手を引いて歩き出した。
家の中へ・・・
私は、今まで『科学者』達のいる『研究所』の外に出たことがほとんどなかったから、家の中には初めて見るものばかり有った。
知識として知っていた物や、部屋が有った。
卓也は、私に家の中を案内してくれた。
台所・トイレ・居間・茶室・・・多くの部屋があった。
最後に卓也は、私の部屋に案内してくれた。
「部屋はここを使ってくれ。何も無いけど今度買い物に行こうな」
卓也は私にゆっくりするように言って一階へと降りていった。
私は与えられた部屋を見回した。
卓也は『何も無い』と言っていたが家具は全て真新しい物でそろえられていた。
机・椅子・ベット・本棚…
私はその一つ一つを『見て』『触って』いった。
部屋で一部分だけ古い物があった。
本棚に並べてある本だ。
様々な分野の本が、場所が無いからとりあえず置いてある、そんな感じだ。
私は、読みたいと思う本が無かったため、本棚をただ眺めた。
コン、コン、コン
日が完全に落ちるとドアがノックされた。
「…どうぞ」
私の声に反応してドアが開いた。
卓也がその隙間から顔を出した。
「ご飯が出来たから、下に来てくれ。んで、食べた後名前を決めよう」
卓也は、笑顔で手招きしていた。
「…はい」
私は、その笑顔に答えたいと思ったが、どうしていいか分からず、ただ返事をした。
「よし、じゃ行こう」
卓也の手招きに誘われて、私は部屋を出た。
初めての一人称です。限界です。次から二人称に戻します。