閑話3 北原和樹
和樹がゆりかと再会をしてから、またしばらくの時間が流れた。和樹がレベル10に上がり、金魔術を取得してから少したった日の夜、和樹達は2度目の合コンを開いていた。
何度か機会はあったのだが、ゆりかと再会して以来なんとなく参加する気にはならなかった和樹を周りの友人達も無理に誘う事がなかったのだが、今回はどうしても参加してほしいと頼まれたのだった。
しかし参加して5分もしないうちに和樹は参加した事に後悔していた。
「そんな硬い事言わないでよ和樹君、ちょっとだけでいいから、小さいのでいいから金を出してほしいなー」
そう言って、一人の女性が北原の腕に抱き着く。他の女性達も、その女性を批難しながら狙いは同じだった
金魔術は金属を操る魔術である、戦闘で使う時は小さなナイフを生み出して飛ばしたり、鉄製の壁を生み出して敵の勢いを受け止めたり、木の棒に鉄の刃をつける事で扱いやすい剣を生み出す等して使うのがメインだが、普段使っている剣に火の魔術を纏わせた方が使いやすい為に、普段はあまり使う事はない。
だが、戦闘以外の面で見れば金魔術は優・秀・に・見・え・る・金属を生み出すという事は、金や銀等も生み出せるという事だからだ。
鎖国状態の為、金や銀等も大きく値上がりしており、気軽に買えるものではない。そんな中で有限とは言え、和樹が金銀を生み出せると知れば、当然、それを求めて人が寄ってくる。
(なるほど、雄一さんが言っていた事ってこの事か……)と和樹は思い出す、キララ嬢の為に魔法を覚えたいと言った時、何度も止められた中で、朧げにだがこういう事も起きかねないと止められたのを思い出した。
あの時は完全に舞い上がっていて、雄一が止めているのを和樹がキララ嬢と仲良くなるのを羨んでの事だと聞き流していた。
雄一の言葉を聞き流していた事を後悔したが、後の祭りだ。どうやってこの事態を解決するか悩んでいると友人達が和樹と女性の間に割って入り、まぁまぁと言って宥める。
「こいつはダンジョンの外で魔法を使わない様にって偉い人から命令されてるんだって、あまり無茶な事言わないでやってくれよ、それに、金魔術で作った金属は一定時間たったら消えるんだろ?そんなのもらっても仕方ないって、なぁ!」
そう言って和樹に近づこうとする女性陣を阻む友人達、そんな事より俺の筋肉美を見るがいい!と言って脱ぎだす友人、張り倒されて倒れる友人、和樹に襲い掛かろうとする女性陣と、場は混沌とする。
その後店の店員から全員まとめて追い出されるまで女性陣は諦める事はなかった。
「すまねえな、和樹」
店から追い出された後、強引にお開きにした和樹達は、友人の一人の家に集まっていた。
謝ったのは今回の合コンを計画した友人であり、和樹に参加を願った人物でもあった。
「いや、まぁ、正直勘弁してくれって感じだけど、あんだけ熱心に頼んできたんだから何か理由があったんだろう?」
友人とは長い付き合いだ、和樹が嫌がっている事を無理やり理由もなくさせる人間ではないと理解している。そんな友人が今回ばかりは!と頼み込んできたのだかきっと何かがあるはずだ。
「あの女のリーダー的な女が、俺の義兄の姉なんだよ、俺の姉ちゃんの旦那さんな、で義兄はその姉ちゃんに頭が上がらないんだ……」
もし断れば、友人の姉の立場が悪くなるという事らしい。なるほど……
すまない和樹、という友人に和樹は、無言で近づくと
「そんな事より自慢の筋肉とやらを見せて見ろ、おらぁ!」と服を脱がしにかかる
確かにしんどい出来事だった、だけど友人の事情も理解できる、だからうやむやにするのだ。こんな事は大事な友人との絆を傷つけるに値しない。
気づけば全員上半身裸になり、筋肉自慢大会を繰り広げていたが、皆笑って今日の嫌な出来事を忘れる事が出来たと思う。
「なんて事があってな、本当に大変だったぜ」
そう言って対面に座るゆりかの言葉を待つ、あの日再開してからはなんだかんだで一緒に夕飯を食べたりすることが増えたのだ。
「それは大変だったね、そんな事よりも本当に怪我とかしてないんだよね?ダンジョンの5階は適正レベル?っていうのかな、レベル差で押し切れないんだよね?」
そう言ってゆりかは和樹を心配そうに見る、それが和樹には嬉しかった。きっとこんな風に自分を心配してくれるのが嬉しくてゆりかに合っているのかもしれない。
「そういえば、お弁当どうだった?なるべく和樹君が昔好きだったって言ってた物を詰めたんだけど」
「ああ。うまかったよありがとう!」
以前に夕飯を一緒に食べた時に昼飯をコンビニ弁当で済ませているという事を話したら、今回お弁当を作ってくれたのだ、今日の夕飯はそのお礼として和樹が誘ったものである。
「そういえばよく俺が好きだった物なんて覚えてたな、そりゃ小学校の頃はよく話はしたけど」
「それはそうだよ、好きな人の事だもん、なんだって覚えてるよ」
そう言ってゆりかはテーブルの上に体重を預ける、大きなそれが柔らかく形を変えるのに目を奪われていた和樹の脳が一泊遅れて言葉の意味を理解する。
「は?いや、は?」
混乱した和樹の前でテーブルにもたれかかっていたゆりかを見るとすーすーと静かに寝息を立てて寝ていた。そういえばウーロンハイを頼んでいたなと和樹は思い出す。
「勘弁してくれよまじで……」
そうぼやいた後に、和樹はゆりかの実家に連絡をするのだった。
大原ゆりかは頭痛でずきずきと響く頭を抑えながら家の玄関近くに座っていた。
昨晩の記憶があやふやなのだ、確か和樹に誘われて夕飯を一緒に食べていたはずだ、そして和樹が不本意な女性に迫られるようになったと聞いて、不快な感情を感情を抱いて何かを言った様な気がするのだが、何を言ったのか覚えていない、ただ思い出そうとすると酷く恥ずかしくなるのだ。
思わず頭を抱えて振ると、頭痛が酷くなってうぅっと呻く
「何してるんだゆりか、風邪でも引いたか?」
頭を抱えていると玄関が開き和樹の声が聞こえる。今日もお弁当を取りにきてくれたのだろう。
「あ、いや、その昨日は色々とありがとう!それでね、昨日私、変な事言わなかったかな!?」
そう言って慌てるゆりかに和樹はきょとんとした顔をした後に、特に何も?と返す。
その返事にゆりかがほっとしていると、そういえばと言って和樹が振り返り
「俺も多分、ゆりかの事は好きだわ、ただ、もうしばらくこの関係で居させてくれ居心地がいいんだよ」
と言って、玄関を開けて出ていく、その言葉を聞いて、ゆりかはその場で感情が限界を超えてゴロゴロと転がった。
ゆりかの家から出た和樹はゆりかの家の玄関をゆっくりと音を立てずに閉めた後、少しでも家から離れる為に全力でダッシュした、真っ赤に染まった顔を見られたら死にたくなるだろうからだ。
この日から和樹の雰囲気は柔らかくなり、雄一と太郎との仲も改善されるのだが、その裏に一人の女性がいたという事は、(知られたら和樹が恥ずか死するので)誰も知らない