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閑話2 北原和樹

「和樹のダンジョンからの無事の帰還を祝って、かんぱーい」

「「「かんぱーい」」」

「縁起でもないこと言うなよ!」

和樹が初めてダンジョンに潜った日の夜、彼は農場で一緒に働いていた友人達と集まっていた。

メンバーのほとんどが未成年の為、コップに注がれているのは炭酸やお茶である。


「それでどうだったよ、生アイドルは?やっぱり可愛かったか?」

和樹に友人の一人が話しかける、普段アイドル等を見る機会がない彼等にとってアイドルは気になる物だ。


「いやー、やっぱアイドルになるだけあって可愛いわ、後すげえいい匂いがするわ」

和樹の発言に、変態か!と言いながら距離を取る振りをする友人や、羨ましいと言いながら彼の軽く首絞める友人、それを見て笑う友人等、そんな彼等を見ていると、ああ、彼は生きて帰ってきたんだなと安心すると同時に視界が滲み、目元をぬぐう。


「おい、どうしたんだよ和樹、なんか辛い事でもあったのか?」

和樹が涙をぬぐっているのを見て、それまで笑いあっていた友人達がこちらに近づいてきて、次々に話しかけてくる。

「なぁ、もし俺が死んだらお前等は悲しんでくれるのか?」

和樹はダンジョン内で横たわっていた骨を思い出す。彼等も元は自分と同じように人間だったのだ、友人がいて、もしかしたら家族がいたのかもしれない。だがそんな彼等の末路は悲惨だ。


ほとんどの骨には身元を特定するものがなかった、その為、一括で政府が用意した墓に埋葬されるのだ。

誰にも死を悼まれる事なく、死んだことすら気づかれずに一括で遺体として処理される。一瞬そんな自分の未来が見えたのだ、ダンジョン内では何も思う事はなかった、だがダンジョンから出て時間が立って、安心したらそんな恐怖が彼を襲った。


そんな和樹を見て友人達は顔を見合わせた後に「誰かが死んだら俺等が泣いてやる、その代わりちゃんとお前よりも先に俺等が死んだらお前も泣くんだぞ?」と言い、口々に誰が最初に死ぬだろうか?とだとか、お前の死因は多分女に刺されてだな!等と笑い合う。


そんな友人達に和樹は、自分を除け者にするなよ!と言い笑うのだった。



和樹が初めてスキルを手に入れた日の夜、彼等はレストランに集まっていた。理由は合コンである。

探索者は謎の多い仕事であり、現状気軽にダンジョンの様子を聞ける人間である。その希少性を利用し、女の子を集めるのに成功したのだ。


また最近は和樹の機嫌が悪いので気分転換の意味もある、魔術を使う様になって、肉体だけではなく精神的にも疲れるようになった和樹は、最近ダンジョンから帰ってくると今まで見たことがない程に疲労して帰ってくるのだ、そんな友人が少しでも元気になれればと、友人達が和樹の許可を取って開催した合コンである。


そんな友人の心遣いに感謝をしながら、和樹は女の子との会話を楽しんでいた。普段アイドルのキララを見ているからが、それはそれ、これはこれである、正直に言えば、最初はあわよくばキララと恋人関係になれるのではないか?と淡い期待をしていたのだ。


しかし、最近和樹のキララに対する感情は少しずつだが悪化していた、自分は頑張っているのに、キララからは何の見返りもないのだ、確かにダンジョン内で腕に抱き着いてくれたりするが、お互いに厚めの服装をしているせいもあって、一切感触が伝わらないのだ。


和樹は19歳である、良くも悪くも欲望に従順なのだ、女の子に囲まれて、キャーキャー言われて嬉しくないはずがない。

ダンジョン内での話を面白可笑しく、ちょっとだけ、自分の活躍を盛って話し、いい気分で食事会を終えて、家に帰る、何人かの女性から、付き合わないか?とか、この後二人で過ごさないか?と聞かれたが、初めてあった女性とそういう関係になるのはあまりにも軟派である、そういう関係になるのは、やはりゆっくりお互いの信頼関係を気付いてからじゃないとだめだと、断り帰ってきた。


正直に言えば惜しい気もしたが、漢北原和樹、一時の欲望に流されてはいけないのだ、つい最近キララの色気に流されて痛い目を見たばかりなのだから!


「あれ?和樹君?久しぶりだね」

欲望と理性の間で揺れ動く和樹は後ろから女性に声をかけられて振りかえる。

そこに立っていたのはおっぱいさんだった、いや違う、眼鏡をかけた一人の女性だった、決して誰もが振り返る美人というわけではないが、ほっとする雰囲気を持った女性に不思議な懐かしさを感じていると女性は和樹に近づき


「ゆりか。大原ゆりかだよ、覚えてる?」

そう言われ、和樹は思い出す、大原ゆりか、所謂幼馴染だ、小さな個人経営の商店である、大原商店と言う店の娘で、よく一緒に遊んだ子だった、彼女の家で遊んでると店の商品のお菓子を食べさせてくれると言うのが遊んでいた理由の一つだが。


「お父さんが言ってたよ、和樹君、今は公務員なんだってね、すごいね、この就職難の時代に公務員になれるなんて」

「大したもんじゃねえよ、コネだよコネ、叔父さんのコネでもらった職みたいなもんだ」

そういう和樹にゆりかは大げさに否定すると、その動きに合わせてボインボインする。


「そんな事ないよ?和馬さんに和樹君なら大丈夫だって認められたからなれたんでしょ?それはすごい事だと思うよ?」

「そんなもんかねぇ、所でゆりかの家は大丈夫なのか?輸入がなくなって商品無くなったりしなかったのか?」

和樹はレベルアップとスキル火魔術によって得た精神力を使って、バインバインから目をそらす。


「うん、うちはお得意様が地元の人だから、ほら港で買ってきた魚とか、あっ……ごめんね」

そう言ってゆりかは俯く、きっと現在連・絡・の・取・れ・な・|い和樹の父親を思ってだろう


「気にすんなって、子供じゃないんだ、自分で新しい生き方を見つけたんだろうよ」

そう言ってちょうどいい所にあるゆりかの頭を撫でる、身長が170に満たない和樹でも撫でやすい所にある頭の高さに、優しい所も小さな所も変わらないな等と考えて、一部だけ随分大きくなって、と酷くおっさん臭い事を考える


「もう、大人の女性の頭を撫でるなんてよくないんだよ、セクハラだよ、セクハラ、訴えるよ?」

「勘弁してくれ、公務員なのにセクハラで捕まるなんて職を失っちまう」

そう言って二人は笑い合った後に別れる、家に向かう和樹の足取りはさっきよりも随分と軽くなっていた

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