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日鉄編②谷中ミズホ…埼玉県加須市

幼かった頃、まだJRとか私鉄とかもわからず俺にとって線路を走るものはすべて“でんしゃ”だった。


今なら何線の何系だとか何鉄道の何形だなんて語る位になったが、その始まりは今でも住んでるちょっとくたびれたアパート裏の線路だった。


青い線のふつうでんしゃ、赤い線のかいそくでんしゃ、そして丸い形でオレンジ線のとっきゅうでんしゃ…


「うおお!」

アパートのベランダから時間が有ればそれらを眺め、俺はいつも歓喜の大声を上げていた。


「ちょっとうるさいわよ!ソウヤ!」


そんな俺に注意をしてくるお隣さん、それがミズホだった。

これが漫画あたりならテンプレキターとなるとこだが、人気者で活発なミズホと、ウチにこもって電車ばかり見ている俺では話すこともあまり無く、声をかけられる時はいつも怒鳴られる時だった。


(線路脇なんだから僕が居なくてもうるさいじゃん)

と内心は思っていたが、いつも

「ごめんなさい」

とゴニョゴニョ小声で謝って、そのまま部屋に戻る。


しかし小一時間もすると又ベランダで同じ事を繰り返す。

記憶してる限りでは最高で1日13回このやり取りが有った。


しかし、そんなやり取りも毎日というわけでは無かった。

ミズホはピアノや英語など通い事も多く、顔を合わさない日も多かったからだ。


逆に考えて見れば、ゆっくり休める時間に隣で騒がれてばかりでミズホにとってはさぞかし頭の痛かった事だろう。


…と、まあ本人同士からみればけして仲のいいというものでは無かったが、隣同士のせいか親同士の仲が良く、そちら絡みの交流は色々とあった。


小学校に上がってろくに勉強しない俺に業を煮やし、無理矢理ミズホに勉強を監視させたりとか、子供会の旅行で本人達の意思を考えず一緒に弁当を広げたりとか…ちょうど女の子と一緒な事に恥ずかしさを覚える様になっていた俺にとって、これらの事はある意味拷問に近かった。


それはミズホも同じ様だったらしく、いつも恥ずかしそうにしていて、大抵は仲のいい友達の所へ逃げるようにしていた。


更に、俺とミズホでたまたま一緒になった外出先から帰宅が遅れてしまい、学区内で大騒ぎを起こすちょっとした事件を起こした事があって、これがきっかけで同級生に色々からかわれる様になってしまい、二人のお互いに対する気まずさは加速して、段々と顔を合わせても挨拶すらしなくなって通学の登校班でも少し離れて歩く様になっていった。


そんな幼なじみというには微妙な関係が突然終わったのが7年前、東日本を襲った大地震がきっかけだった。


今まで経験したことの無い大きな揺れに、俺たちのアパートはダメージを受けた。

ウチは幸いにも家財や本が落ちる位で済んだが、ミズホ達の部屋は窓側が歪み開かなくなったり、入り口のドアの鍵がかからなくなったりと色々大変だった。

応急措置はしたものの、色々と不都合もあり住み続けるよりは、という訳で、このタイミングで家を買う事となり、引っ越しとなった。


引っ越し先は同じ市内ではあるが、一駅向こうの新興住宅地で学区も違う。

俺は内心、同級生達からの冷やかしが無くなることに喜んでいた為、テンションが上がってしまい。

ついミズホ母の前では

「ミズホちゃんに会えないのは寂しいです」

などと本心では無い適当な事を言っていた。


一方、ミズホはそんな俺に特に話しかける事も無く、今まで通りの沈黙を続けていた。


それから約3ヶ月後、ミズホが引っ越す日の数日前。

俺の殊勲に見える態度のせいなのか、突如お別れ会と言うことで両家で鬼怒川温泉へ行くことになった。


本来なら前出の事もあり、躊躇するところなんだがこの日の俺はテンションMAXだった。

いつもベランダから見てた憧れの丸型オレンジラインの特急への初乗車。

それもなんとミズホ母が、子連れだと騒がしくなるからという理由から個室を用意してくれたのだ。


広い個室にゆったりとしたソファー、大きな窓から外の景色がものすごい速度で流れていく…

いつも乗ってる普通電車とは大違いだった。


「うおぉぉぉ!」


小学校に上がってから少し控えていた絶叫癖がつい出てしまった。

そんな俺をミズホ母はにこやかに見ながら

「ソウヤ君は本当に電車が好きねー」

と話しかけてきた。

「うん!僕大きくなったら絶対電車の運転手になるんだ!」

「本当に!すごいねー、ソウヤ君が運転手になったらおばさんの事乗せてね」

「うん!一番電車に乗せてあげる」

大体そんな会話をしていた時、ずっと黙ってたミズホが呆れた顔をして割り込んできた。

「ソウヤみたいに勉強も出来ない子が運転手になれるわけ無いじゃん」

そんなミズホをミズホ母が戒めようとしていたが、電車に乗ってる俺はいつものモジモジした時とは違う。

「そんな事無いもん!これから一杯勉強するもん、そして東京にある電車のプロになれるがっこーに行くもん!」


その頃の俺は、電車の運転手をプロ野球の選手見たいに思ってて、専門の学校に行ってその中の優秀な人がスカウトされるもんだ思い込んでいた。


珍しく大声を上げた俺にミズホはビックリした表情を見せて、その後も何かしら言葉を続けようとしていたが、それは声にはならず、結局そのまま黙ってしまった。


その後、テンション高い俺とだんまりミズホのまま、特急は走り続け、そのままのノリで温泉旅行もあっという間に終わった。


数日後、ミズホ引っ越しの日…

たまたま休みだったせいもあって、俺も大人にまじって小さな物を運んだりして手伝っていた。


ミズホはともかく時々、オヤツをこっそりくれたミズホ母には感謝していたから。

もちろん初めての特急の件もだ。


今思えば、邪魔にしかなってなかった気がしないでも無いが、俺なりに頑張ったと思う。


そうして大抵は大人の頑張りで積込作業は昼頃には終わり、ミズホ母が、皆に用意してくれた昼食を自分の部屋で頂いていた時、ミズホが最後の挨拶に顔を出した。


「おせわになりました」


最後もあいかわらず俺と目を合わせる事は無かったが、いつもよりは元気良く声が出ていた。

ミズホも、転校の不安よりようやく恥ずかしい学校生活から抜け出せるのに安堵しているのだろう。


一方の俺は、いつものコミュ症に戻っていて


「おっ…おう」


などと意味不明な返事をしてしまい、何となく恥ずかしくなって、そのままいつものベランダに引っ込んでいった。


(出発位は見送らないとなー)


なんて考えつつ、いつもの様に線路を眺めていると、隣の窓の開く音がした。

ミズホだった。


「本当に電車の運転手になりたいの?」


あいかわらず顔を背けてはいるが、珍しく敵意が無い感じで話しかけてきた。


「…なりたいじゃない…なるんだ」


そう俺が小声で呟くと、ミズホがベランダをのりだしてにこちらを見て不意に笑った。

「無理、無理、無理」


その三回続いた"無理"にムッとして抗議しようと、こっちも身体のりだしてミズホの方に顔を向けた。


その時だった…


ガツーンと音がして目の中に星が走った…


ミズホを良く見てなかった俺は距離感がつかめず、お互いのオデコが激しくぶつかった。

その衝撃に


「あうう…」


と小声でミズホが後ろに倒れかけた。

俺もフラフラになってたが一瞬早く気がついて、ミズホの腕を強引に引き寄せた…


だが、少し強すぎた…


二人の再び顔を近づき…今度は…別の所が当たった…

…というか軽く触れた…唇に…


一瞬動揺したが、幸い、ミズホはまだ意識がハッキリしていなかった様だったので、そのままゆっくりと身体を戻すとミズホはペタンとベランダに座りこんだ。


「痛った~」


小声で唸るミズホを横目に


「ごめん!」


と一言、そのまま部屋にこもった。

それから気が気じゃ無かった。

幼いながらに、偶然とはいえ自分がした事はわかっていたので、ミズホに告げ口をされて怒られるんじゃないかという不安で心が押しつぶれそうだった。


もっとも、そんな心配も要らなかった様で、その小一時間後にミズホ母がいつもの様に優しい声で呼びに来た。


引きつった顔で恐る恐る玄関を出ると、ミズホ母は今までと代わらず笑顔で、その横のミズホも無愛想だったが、いつもと変わった様子は無かった。


その後、最後の大人達が談笑をしている時、ミズホが俺の服の袖を引っ張った。

その行動に一瞬、身構えたが珍しくミズホが少し笑顔だったので緊張が解けた。

「さっきの話しの続きだけど…勉強もそうだけど、落ち着きのないソウヤじゃ運転手なんか無理だと思う…」

「そっ…そんな事無いわ」

ミズホのもっともな指摘に動揺した俺に、今度は初めて満面の笑顔になって


「だから私がサポートして上げる、同じ…その…東京の学校に行って、勉強とか…生活とか…色々と」


そして今度は顔を赤らめ、下を向きつつ


「かかか…勘違いしないでね…ソウヤみたいなのが間違えて運転手になったら皆に迷惑掛けるだろうから…その心配だから…けして…初めての人だったからとかじゃないんだから!」


あ…やっぱりミズホも分かってたか、しかし、その女の子の少し大人の考えに思考が追い付かずまたまた


「おっおう」


と返してしまった。

すると今度は、ミズホは俺に封筒を手渡してそのまま走り出した。

そして少し離れた所で、一度振り返り


「約束…だからね!」


と声を上げた。

俺はその一連のミズホの態度に少しボーッとしていたが、気を取り直して、こちらも大声で


「わかったー!」


といつもより少し大きな声で答えた。

勿論、その言葉を深く考えての返事では無かったが、そんな俺を見て、ミズホは再び笑顔になって軽く手を振って、走り出して、大人達の元へ行ってしまった。


そして、俺たちの思い出はそこで終わる。


再び中学で同じ学校になったが、クラスもずっと別々だったことや、少しは考えが大人になった俺が、そんな事をすっかり忘れ、高校の内申とかを考えて部活に熱中していた。

ミズホも成績優秀の上、見た目がすっかり小可愛くなってそれなりの人気者で、俺には中々近づき難い存在だった。

交流のあったミズホ母も生活が変わったらしく、年賀状のやりとり位のになってしまっていた。


(あの約束…本気だったのか!)


俺は激しく動揺して、ミズホを見る事が出来なかった。










中々、本題に入れない…これでもかなりカットしました。

ミズホとの事件とか鬼怒川の事とかは別に起こそうか考え中…日鉄編はもう1話つづきます。

あー封筒の中書いて無かった。

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