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ぺとりこーる  作者: いのり
2/2

森が呼んでいる

ぺとりこーる第2話。引き続き拙い文章ですが楽しんでいただけたら幸いです。

二 森が呼んでいる

いいにおいがする。ねぇねぇかーさん、あのお花なぁに?きん、もく、せい?へぇぇ、いいにおいだねぇ。あたしねー、ここすき!こんどおともだちといっしょにくる!


ねぇみてみて、はなちゃん、あのお花、きんもくせいっていうんだよ。きれいでしょー?なんかさ、ここってようせいさんいそうだよね、ひかりもきらきらしてるもん。ひかりがふってくるね、きれいだね!



ドアのノック音で目を覚ます。慌てて時計を見るともう十一時半で開っぱなしのノートにはみみずが這いずり回ったような線がそこかしこに残ってる。うわっ。思わず声が出たら、それと同時にドアがあいて勝ち誇ったような兄貴の顔が見えた。

「また寝てたろ。」

「うるさいな、こっちは運動部やってるんだよ。」

「どーせまた外周だけなんだろ?」

「んな訳あるかいな。そうやって舐めてるといつか痛い目みるぞってか見させてやる。」

「おおー怖いなー、どっかのおかんみたいだ。」

「はいはい、もう寝るから出てって。明日はあたしも休みなんだから早くには起こすなよ?」

「うぃーーーす。」

腹立たしい見下し顔をしてドアを閉める。兄貴はいつもこうだ。人をバカにして自己満足に浸るのが趣味だと言ってるくらいに好きらしい。最低人間め。成敗してくれるわ。

じゃなくて、あたしは寝るんだ。明日は久々のオフだから好きなことができる。なにしようかな。

あ、そうだ、近所の自然公園行こう。昼過ぎから夕方までのんびり散策しよう。

普段はこんなに早くには寝ないし、大体が一時から二時寝くらいだけど、ここ数日は大会が近くなってきたから朝練もハードにやってるし、午後練はずっと試合だし、体力の消耗がだいぶ激しい。授業中に寝るのはなんか嫌だからたまにはちゃんと寝たい。よし、寝るぞ。


まぶたの裏が明るい。これ、絶対目開けたら目がつぶれるやつだ。九時くらいかなぁ。もう少し寝たい気もするけど起きようかな…。

何とかひっつくまぶたを引き剥がして時計を見ると九時半。んんー、惜しいような惜しくないような。母さんは今日は朝から高校の同期と出かけるって言ってたから、いるとしても父さんと兄貴。てきとうに寝癖をおさえつけてリビングにいったら誰もいなかった。なんだ、兄貴もまだ寝てるのか。早く起きすぎたかな…。いやいや、まだ兄貴が寝てるということは今日のあたしは随分優秀じゃないか。

冷蔵庫と冷凍庫をがさごそ漁ってたらねぼけまなこの兄貴がふらふら起きてきた。

「あれ、俺より早い…。明日はきっと大雪だな。」

「失礼だな。って言ってもこの季節じゃもう夏じゃないから、例年よりもずっと早い初雪が云々、で終わるよ。」

「じゃあ宇宙人でも来るんじゃね?」

「雑だな。」

「もっかい寝てくるわ。」

おう、ならなんで起きてきた?二度寝くらいひとりでしておけ。あたしは今日は一日暇を持て余すつもりなんだ。

昨日の残りのおかずと冷食のチャーハンで朝食を済ませて、のんびりテレビを見る。日曜の朝…といえるのかはわかんないけど、この時間だとそんなにめぼしい番組もないし、再放送ばっかだから撮り溜めておいたドラマを一気に消化する。今週はラッキーなことに宿題もないし、予習するべきところは昨日(一応)終わらせたからぐだぐだしていても(多分)なんら問題はない。

ドラマを見流してるうちに一時近くなったから出かけることにした。近所の森の散策をしようとしてたことを今頃思い出した。行く途中で昼食は買うかお店で食べるかしてからにしよう。

イヤホンを耳に突っ込んで音楽を流す。いつもシャッフルで流してるけど、ほぼ毎日聞いてるからイントロで大体なんの曲かわかる。

…あれ。言った矢先だけどこの曲わかんないや。

あ、思い出した。先週ハナカに勧められた曲だ。部活帰りにあたしが好きなバンドの新曲が出たって話したら、「うちもいい曲知ってるからいいてみなよー」って教えてくれた曲。まだ二回くらいしか聞いてないけど結構気に入ってる。

というか、教えてくれた次の日からハナカは失踪してるんだよな…。今週一週間学校来なくて連絡もなくて、ハナカのお母さんに聞いたら帰ってこないって言ってて警察にも届出してる。家出だったらなんかこう、お金とか、そんな感じのものは持っていくだろうに、ハナカだけがぽんっと消えちゃったから誘拐事件なんじゃないかって話になってる。ハナカのお母さんは余計な心配をかけさせたくないからって言って学校の人たちには失踪自体も知らせないようにしてるみたいだけど。その日は雨が降ってたし、町内の防犯カメラを見ても、公園を横切ったのを最後にどこにも映ってない。でも、その時に怪しい人影はなかったし、公園の出口は一個しかなくて誰かが隠れられるような横道とか隙間とかはないし、そこを出たら確実に、すぐ別のカメラに映るはずなのに映ってなかったから、ハナカのおばあちゃんは神隠しだとか言ってるらしい。ハナカのおばあちゃんが子どもの頃にも一部の地域で住民が次々に消えた事件が起きて、結局その地域と、その地域で育った人とかそこから別の地域にに働きに出てる人とか、あとはその人たちの友達とかも含めてかなりの人が消えたらしい。ハナカのおばあちゃんはその話を近所の人から聞いたらしいし、その近所の人が誰から聞いたかもわかんないからどこまでがホントかわかんないけどらたしかにその時期に原因不明の失踪は相次いでたらしい。

「あらりっちゃん。めずらしいねー、こんな時間に。今日はオフだっけ?」

…っびっくりした!何…誰かと思ったらハナカのお母さんだった。

「こんにちは、オフですね。丸一日オフは久々なのでたまには気分転換がてら森の散策でもしようかな、と。」

「いいねー、あそこの森静かだもんね。あ、でも、日が落ちるのもそろそろ早くなってきてるから気を付けてね。」

「はい、ありがとうございます。」

「じゃあね。」

お辞儀をしてまた歩く。近所って言っても少しは歩くから途中にコンビニやらファミレスやらは割とある。ちょっと密集しすぎだけど。ハナカのお母さんは自分の娘が失踪しててもほかの人にはそんなこと全然感じさせない立ち振る舞いができるからすごい。あたしはまたなにかのイタズラかなにかかなー、なんて思っちゃってるからこんなにへらへらしてるけど、クラスの人とかで事情を知ってる人はかくしきれてなかったりする。あたしがその話題にふれるのを極力避けてるのもあるんだけど、その話はあんま学校でもしてない。

あ、オムライス食べたい。ファミレス入ろ。


のんびりデザートまで食べてたら遅くなっちゃった。早く歩こう。そういえばこの前ここに来たのはいつだったかな。多分夏休みに一回は来てるはず。季節の変わり目だから少し葉っぱがふえてて、春夏みたいな綺麗なこもれびはないけど、常緑樹と落葉樹が混ざってはえてるから光が踊ってるみたいになってる。

なんだかんだ言ってあたしはここの森が好きなんだよなぁ。小学生の頃からよく遊びに来てたし、すごく思い入れがある。母さんと兄貴と遊びに来て初めて迷子になったのもここだし、みみず掘りやって怒られたのもここだし、ハナカと初めて遊んだのもここなんじゃないかな。確かそん時はアオイとユウジもいて、範囲決めてかくれんぼしたのにユウジだけ遠くに行きすぎてアオイに叱られてた。なんか懐かしいな。

やっぱりだめだなあ…。ハナカかまいないとさみしくなる。ここの森大好きで、光の降り方とか見てるといつも落ち着くのに、今日はだめだ。うーん、落ち着かないのともちょっと違うな。落ち着いて、落ち着きすぎて自分の感情に素直になりすぎてんのかもしれない。あーあ、小さい頃からホンットこれだけは直したいのに直せないんだよ。兄貴にも笑われちゃうよ。ひとりになるとだめなんだよな。弱虫だ。涙こそ出ないけど、さみしいのには変わりない。どうしてくれるんだよ、ハナカ。おいそこの踊ってる光ども、なんとかしてくれ。

なんて言っても座ってるだけじゃなーんにも始まらないかんだかららとりあえず今日は家帰って、明日もできたら部活帰りによろうかな。ちょっと遠回りすれば駅からだってこられるし。よし、帰ろう。


「ただいま。」

「あっ、帰ってきた。そうだ、母さん今日は終電まで飲んでくるらしいから飯頼んだ。」

「え、何?出前でもとったの?それともあたしに作れと?」

「作れ、だな。父さんも期待してるらしいぞ。」

「兄貴ホントにバカ丸出しだな。」

「はぁ?」

「玄関まで鶏ガラスープだしのラーメンの匂いがするのに言うのかよ?」

「あっやべっ、もう五分だ、こんなことしてる場合じゃねぇ。」

靴ぬいでる間に二、三分経ってるはずもないから、さては内緒で食べようとしてたな。けしからん。あたしの嗅覚をバカにするでない。成敗してくれるわ。

「で、結局なに食べるの?」

「俺と父さんはカップ麺くったけど。」

「けど?」

「んっ?……もうない。」

「でしょうね。何となく予想できた。」

「まあどうせ?リツは夜ノート広げて?おねんねするくらi…」

「はーーーいうるさいね、帰宅部!関係ないことは持ち出すべからず!」

強制シャットアウト!ってことで冷蔵庫漁りますか…。

キャベツとにんじんと、おかずはほぼなくてごはん系もなくて、ひじきの和え物か…。何でこんなにすっからかんなのかは突っ込まずに置いといて、卵はあるから小麦粉出してきてお好み焼きでも作りますか。

てきとうにつくったけどそこそこ美味しいのはきっとマヨとソースのおかげ。兄貴にはやらんぞ!絶対!お好み焼き…じゃないな。マヨとソースは正義だ!


その後はとっとと風呂はいって寝た。なんの夢も見なかった。見なくてよかったような、よくなかったような。とりあえず授業は受けて、部活やってきた。部活は疲れたけど森に行きたいからいつもよりは疲労感はない。あ、でも、先生が終了時間を早めたからいつもより動いてなくて疲れてないだけかな?まぁそこはおいといて。

なんとか明るいうちに森にこられた。制服のままだから日が落ちる前には撤退しなきゃな。昨日とほとんど変わらないけど、心なしか、また落ち葉がふえたような気がする。

少しずつ日が傾くにつれて、光の入り方が変わってくる。入口からそう遠くないベンチに座って眺めてるけど、葉っぱのふちがきらきらして、木は背が高いから光が降ってきてるみたいですごく綺麗。小学生の頃、ハナカと一緒に夕日を見るために毎日通ってた時期があったな。今よりもずっと背が小さかったから光源が見えてなくて、光がホントに降ってきてるんだと思ってた。風で葉っぱが揺れると降り方が変わって、ありきたりだけど、落ち葉をたくさん放り投げて光と一緒に待ってるのを見てすごくはしゃいでた。

今は、いや、今も、そんな感じ。光がずーっと遠くの空の彼方から降ってきて、地面とか樹冠とかに降り積もってる感じがする。金木犀の匂いもする。と思ったら、近くに咲いてたよ。なんで気付かなかったんだろう。いいなぁって思う。なんか安心する。明日からも頑張ろう!きっと明日はハナカも戻ってきてくれて、会えるような気がする。なんの根拠もないけど、そんな気がする。


降り注ぐ光が見えなくなるのはもう少しあとのことだった。

お読みいただきありがとうございます。前書きで書いたとおり、前回とは全く関係のなさそうな話ですが、続きで繋がっていく予定なのでそちらも読んでいただけたら幸いです。

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