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プロローグ シンデレラとガラスの靴は



「お願いします! 俺を踏んでください!!」


 春うららかな朝の校門前。けれどそこに響き渡る声は、どう考えても朝の爽やかな空気に似つかわしからぬ望みを告げていた。

 透き通るような銀の髪を地面に押しつけながら、学校一の美男子と名高い三年生の先輩が土下座をしている。

 それなりにかわいい。それなりに頭がいい。それなりにピアノが弾ける。いつも褒め言葉の前に“それなり”をつけられてしまうような、つまりはわりと平凡な私に向かって。


「先輩……困ります」

「先輩だなんて、名前で呼んでよ。俺とあなたの仲じゃないか」


 顔を上げた先輩は、熱に浮かされているように頬を染めながら微笑む。

 その美貌に、イケメンには慣れているはずの私も思わずまぶしさに目を細める。


「先輩と私の仲って……」


 彼が何を言いたいのかはわかるけど、誤解を招くような言い方はよくない。

 眉をひそめながら、咎めるように呟くと、先輩は飼い主に尻尾を振る子犬のように瞳を輝かせた。


「どうぞ踏んでください、俺の姫。俺はあなたを飾る一番の道具になりたい」


 だから、誤解を招くようなことを言うなーーー!!


 私は痛む頭を押さえながら、彼との因縁を思い返す。

 因縁……そう、正しく因縁だ。

 昔々あるところ、不遇な日々を過ごしていた少女に魔女が力を貸し、キラキラと輝く靴を履いたお姫様に王子様は一目惚れをしました。魔法が解ける前に逃げたお姫様は靴を落とし、王子様はその靴を頼りにお姫様を見つけ出しました。そうしてお姫様は王子様と幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。

 日本人なら子どもからお年寄りまで誰もが知っているような、有名なおとぎ話。


「お願いだ、シンデレラ……俺はもう一度あなたに踏まれたい」

「お断りします! 私はSM趣味なんて持ってませんから!」


 生まれ変わったシンデレラとガラスの靴が、朝の校門前で珍妙なこんな言い合いを繰り広げることになるなんて。

 きっと奇跡の魔法使いでも予想できなかったに違いない……。







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