19 die
これからどうしようか。
この異世界で生きてくには生前と同じく金が必要だ。
今回のクエストの報酬ですこしはお金が手に入ったが、これだけでは生きていくことはできないだろう。
もって数日。
だから俺は、生きるためにも再びクエストをやらなければいけない!
しかし、ここで問題が一つ。
クエストには達成期間がもうけられており、その期間を過ぎると次にギルドに訪れた際に延滞料金を支払わないといけない。
ただでさえ所持金が少ない俺がクエストをクリアできないままその期間を迎えてしまったら、もう手元には何も残らないだろう。
それどころか、延滞料金の額によっては支払うことすらできないかもしれない。
もしそうなれば、俺は次のクエストを受けることすらができずに飢え死にエンド確定。
そういう冒険者を出さないための難易度が低いスライム討伐クエストだが、俺はそれすらクリアできない。
だから俺は、クエストをうける前に、クエストをクリアできるだけの力を手に入れればならない。
さきほどみたスライムの動きは早かったが見えないわけじゃない。
複数は無理でも、一匹でいるところを奇襲すれば勝てるかもしれない。
というか、その方法で自らのレベルをあげるしか、俺の道は残されていないのだ。
俺は一人で先ほどの草原に戻った
****
(いた!)
俺は深い草原に身をひそめながら一つの桃色の影を視界にとらえていた。
ここからはだいぶ距離が離れている。
前の戦闘ではスライムがこっちを認識したのが5メートルほどまで近づいたときだった。
しかも正面でだ。
今回は距離を十分にとったうえで背後から近づく。
俺は冒険者ぶくろから木の棒をとりだして装備する。
(これも俺のステータスの貧弱さから考えるに、ただの木の棒なんだろうな…)
そんな他ごとを考えていたせいか、足元の草が音をたててしまった。
(危ない、距離が近かったら気づかれてたかも。)
俺はスライムのほうをそーっと確認した。
俺のほうをみていた。
(いや、この距離で気づかれるわけが…)
次の瞬間、俺は地面に倒れこんでいた。
ステータスを確認するまでもない。
HPは0
前の戦闘で受けたものとはくらべものにならないほどの衝撃。
今にも瞼が閉じようとしている。
そしてなにより、
俺は何も攻撃が見えなかった。
さっきまで俺が見ていたスライムが突進してきたのだろうが、それはただの予想。
気が付いたら地面に倒れこんでいた。
ああ、痛い。痛いけどそれと同じくらい眠い。
もう目をつむって楽になることしか考えられなかった。
俺は死んだ。
****
目を開けると、そこにはきれいな青色が広がっていた。
ここはどこだろう。
本気でそう思った。
しかし、あたりのから漂う草や土などの自然の匂い。
ああ、ここはさっきまでいたあの草原だ。
ゆっくりと体を起こす。
俺は自分の記憶がプツンと途切れるのを経験した。
確かに俺は死んだはず。
なんで生きているんだろう。
……あっ!
俺の頭ん中には、ある神から聞いた言葉がよぎっていた。
『こちらにもすこし罪悪感がありますので、特別に!異世界での命を二つに増やしてあげます。これで異論は受け付けません。』
(そういえば、この異世界に転生してくる直前、神は俺にそんなことをいっていた。すっかり忘れてた。)
俺はこの世界で一度死んでしまったが、神の慈悲でよみがえったみたいだ。
(ありがとう、神様…)
さて、問題はあれからどれだけの時間がたっているかだが、多分ほとんどたっていない。
俺を一瞬で殺した桃色の悪魔が、今もなお俺を見つめているからだ。
ここから逃げきるのは無理だろう。
でもあのスライムを倒すことはもっと無理だ。
あれだけ離れた距離で俺に気が付く感知能力、そこから一瞬でここまで到達し、なおかつ一撃で俺を殺す力。
(なんとか活路はないか!)
俺はすがるような気持ちで冒険者ぶくろに手を突っ込む。
だが入っているのは、街で一つ余分に買ったリンゴだけ。
このリンゴを食べれば俺のHPは全快する。
でも一撃ですべてのHPをもっていかれるような相手じゃ何の役にもたたない。
「もう終わりだ。」
せっかく神様がもう一度くれたチャンスだけど、俺に残された道は、再びあのスライムに殺される道だけだ。
「ごめん、神様。」
俺は自暴自棄を起こし、唯一の持ち物であるリンゴをスライムに投げつけた。
投げる力が足りず、スライムの目の前にリンゴが転がる。
テッテレー!
俺の頭ん中で、あの音が響いた。




