すきって聞きたい
視点が戻ります。
欲が出てくると
不安が募ると
求めてしまうのは
人の性だろうか
私はついに
言葉を溢してしまった
気づかれるのが怖くて
拒絶されるのが怖くて
今までずっと言わずにいた言葉
あんまりにも彼女が
「大好き」
と私に言うから
私がそれに
好きだと返せないのも相まって
「千代ちゃーん、大好きぃ」
「ぁ、ねえ」
「ん?」
「私のこと好き?」
って
聞いてしまった
彼女は目を瞬かせて
でもにかっと笑って
「好きだよ」
って言ってくれる
でもなんだか
勘違いしているような気がしたから
「私のこと、好き?」
じっと目を見つめて言ってみた
そしたら
目を泳がせて
「好きだよ?」
と言うけど
どうして
目が泳ぐの
やっぱり
冗談だったの
「ほんとに?」
一度溢してしまうと
とめられない
「…本当に、好きだよ?」
狼狽えて答えてくる
「……」
私の好きとは違ったのかな
間違えたのかな
やっぱり
「す、すき、なんだってばっ!」
強い声がして
彼女の顔を見上げると
真っ赤になって
唇を噛んで
「なに、なんで、千代ちゃん、どうしたの急に」
いつもとは全然違う
混乱したような
怒ったような
泣きそうな
そんな声で言う
「千代ちゃん、ずるいよ」
ずるい?
「え」
「だって千代ちゃん、さっきから私にすきって言わせてばっかりで、千代ちゃんは言ってくれないじゃん」
怒ってる?
怒ってる?
「あ、いや、その」
私が言葉を濁すと
追い討ちをかけるように
「どうしてすきなのって私に聞くの?」
私が聞いてたはずなのに
気づけば逆転
「それは…」
でも、彼女も
焦っているような気がす
「千代ちゃんも、私のこと…すき?」
る?
「…」
「…」
いつもと様子が違う
でもここで答えなきゃ
私
もう一生
言えないかもしれない
「………………すき…」
下を向いて言っちゃった
「っ!」
もう一度
今度はちゃんと
目を見て言わなくちゃ
「私も、すき、だよ」
「そ、そう?そっかぁ」
真っ赤になって
目線をあっちこっち反らしてる
聞いてきたくせに
「すきなの」
「うん」
「ほんとだよ」
「うん」
やっぱり
今まで溜め込んでた分かな
言い出したら
とまらないよ
「だいすき、なの」
「う、ん」
「すき」
「ん」
「すき」
「ちょっ」
「だいすきっ」
「あの」
「すきっ」
ちゃんと本当に
本気だって
伝わってる?
「ちょっと、そんなに言わなくても分かってるってば」
彼女は
へなりと笑ってそう言う
「…わかってる?」
「わかってる」
でも
不安なの
「でも、足りないもん」
「なにが」
「言われた回数に、足りないもん」
これだけじゃ
伝わりきらないんじゃないかって
「そんなこと…」
「だって、すきなんだもん」
「っ」
「だいすきなんだもんっ」
「あり、がと」
「ん」
「でも数、数えないで」
言い続けてたら
彼女が
私の肩を掴んでそう言う
「なんで?」
「今までのは、本気だけど、ちゃんと気持ち込められてなかった」
ちょっと悲しそうにそう言う
ちょっと悔しそう
ちょっと泣きそう
「じゃあ、聞いていい?」
なんだかいつもと違う
私
「ん、うん」
吹っ切れたからなのか
今しかチャンスがないと
思っているからなのか
「私のこと、すき?」
こんなこと
声に出して
すきって聞けるなんて
「うん、すき」
すきって聞けるなんて
「ありがと…」
返事ができるなんて
「だいすきです」
「ありが、とう」
どうしよう
「私も聞いていい?」
彼女も私に聞いてくる
「うん」
「千代ちゃん、私のこと、すき?」
すきって聞かれるなんて
「うん、すき、です」
こんなに気持ちを込めて
「っ、ありがとう」
すきって言えるなんて
「今までちゃんと言えなかったけど、ずっと、すきでした」
「ん、」
こんなに
こんなに
「だいすきです」
すきって言えるなんて
「私もだいすき」
聞けるなんて
「だいすき」
言えるなんて
「すき」
聞けるなんて
「すき」
言えるなんて
「っ、すきっ」
「す、きっ」
「す、ひっく、」
「っぐす、、き」
言い合って
聞き合って
「うう、」
「うん、っく」
ああ
「ひっく」
「ちよちゃぁんっっ!」
どうしよう
涙がとまらなくて
「しゅき、って、いいたか、たのっ」
胸がじんとして
「わた、しも」
死んじゃいそうだよ
「それに、ずっと聞きたかった」
うん
「千代ちゃんの、すき、聞きたかったっ」
うん
「わたしもっ、」
ああでも
聞きたいから
死んじゃってる暇なんてないや
それから
いっぱい言葉を交わして
いっぱい泣き合って
いっぱい抱き合って
「千代ちゃーん、ぎゅーっ!大好きぃ!」
「ぎゅ、私も好きっ!」
今日も
明日も明後日も
すきって聞きたい
一応完結です。
読んでいただき、ありがとうございました。