すきって言えない
視点を変えて、同じ時系列です。
「あーん、もう、千代ちゃん大好き~!」
そう言って
私は千代ちゃんに
ぎゅっと抱きつく
「へ、えへへ……ぁ、ありがと……」
耳を真っ赤にして照れながら
背中から回した私の腕に
そっと腕を添えてくる
あったかくて
こそばゆい
上目遣いで
千代ちゃんが見上げてきて
恥ずかしそうに
可愛く笑うから
私まで恥ずかしくて
ついうっとりしてしまう
「あのね、今日はねー……」
照れ隠しに話し出すと
千代ちゃんが
一生懸命聞いてくれる
「そうだ、今日帰りに本屋寄ってかない?」
「いく!」
少しでも一緒にいたくて
寄り道に誘って
自転車で
後を追いかけてくる音を聴きながら
声が後ろに流れしまうと思うのに
前にいても
千代ちゃんの声が
よく聞こえる不思議
「一昨日が○×△の新刊発売日でさ」
「うん」
「楽しみにしてたんだー!」
「そっかぁ、よかったね」
会話を続けたくて
話題を探すけど
きっと千代ちゃんにとっては
繋げにくい話題しか
思い付かないのか悔しい
「千代ちゃんは何を見るの?何か買う?」
「うーん、分かんない。気になるのないかなーって」
それでもなんとか
色々考えて
私の質問に返事をくれるから
嬉しい
「じゃあねー!」
「またね、気を付けてね」
「ありがとー」
別れの挨拶には必ず
気を付けてねと
言ってくれるところも
嬉しくて
離れ難いのも
我慢できる
かな
「千代ちゃーん、誕生日おめでとう!」
「えへへ、ありがと」
千代ちゃんの誕生日
いっぱいお祝いする
ぎこちなくも
照れくさそうに喜んでくれる
「千代ちゃん17だね」
「うん」
気がつけば同い年
千代ちゃんが近くに感じられて
嬉しい
「はい、プレゼント!」
「え、わぁっ」
一生懸命ラッピングしたお菓子
プレゼントにと差し出すと
目を真ん丸にして
私とお菓子を交互に見る
うん
可愛いわ
「って言っても、手作りのお菓子なんだけどね」
「あ、ありがとう!」
「ごめんねー、こんなのしか用意できなくて」
「うううん、すごく、うれしい!ありがとうっ!」
手作りのお菓子とか
図々しいかなとか思ったけど
なんだか喜んでくれてるから
よかったのかな
「やっと、17歳だぁ」
感慨深そうに千代ちゃんが言う
同い年になった途端に
追い抜かされてしまいそうで
少し不安になるけど
私からのプレゼントを
大事そうに胸に抱くから
ちゃんとお祝いしてあげたい
「ぉ、おい…しいっ!」
蕩けるような笑顔
幸せが
全身へ駆け巡る
「お誕生日、おめでと」
そして
私も
誕生日を迎えた
「ありがとぉ、千代ちゃんっ!」
千代ちゃんがお祝いしてくれる
嬉しすぎて
飛び付くように
千代ちゃんをぎゅっとと抱きしめる
「っ、」
吃驚したのか
短い声が聞こえたけど
離してあげない
今離すと
私の真っ赤でにやけた顔が
千代ちゃんに見られちゃう
「私ももう18かぁ……早いなぁ」
あっという間に歳をとる
「選挙権とか、始まる?」
同い年もいいけど
追い越せたことに安堵する
「ふふ、また千代ちゃんのお姉さんになったね」
私はこの立ち位置だから
千代ちゃんと共にいられるような
そんな気がしている
「私もお姉さんしてみたい」
ぽつりと千代ちゃん
「千代ちゃんがお姉さんかぁ」
千代ちゃんがお姉さんになったら
私は
どうなっちゃうんだろう
いらなく
なっちゃうとか
ないよね…
「私が千代お姉さんをプロデュースします!……なんちゃって?」
私が
千代ちゃんと一緒にいるには
お姉さんらしくなきゃいけない
元々そういう性格ではあるけど
弱いところを見せたら
幻滅してしまうかも
怖い
「千代ちゃん?…どうしたの?」
千代ちゃんが俯いてる
不安になる
「何でもないよ、ほらっ」
私は
差し出されたプレゼントを見て
つい動揺してしまう
「わ、私に?わたしの?」
私のためのプレゼント
千代ちゃんからのプレゼント
「うん」
眉を下げて
へにゃっと笑うその顔は
私を悶え倒したいのか
「わ、私もその、手作り、頑張ってみたよ」
目を
右往左往させながら
そう教えてくれる姿は
もうすべてが
私にとってプレゼントで
貰いすぎな気もする
抱えきれないくらい
「ありがとう~っ!」
幸せすぎるよ
「ぐすっ」
涙脆い私は
泣き出してしまって
「あは、は……泣かなくても…いいってば」
狼狽えながらも
私をそっと抱きしめて慰めてくれる
「ひっく、ふふ、恥ずかし…」
いつも
格好よく見せようとしてる
なけなしのプライドが
がらがらと崩れ落ちる
「大丈夫、たまにはこういうのも、いいと思うよ」
お姉さんになったつもりでいたのに
そんなことを言われたら
もう強くて
頼もしくって
「…ぐすっ、ありがとうね」
こういう日も悪くないかなとか
思ったりして
「うんっ」
欲を言うと
もっと
甘えたいけど
私はよく
「千代ちゃん大好き!」
と
千代ちゃんに言う
さらっと
まるで
当然であるかのように
その言葉は
嘘をついているわけではない
確かに私は
当然千代ちゃんのことが
好きだから
ただ
ちょっと
恥ずかしいからと
軽く言い過ぎたせいで
冗談だと思われている気がする
そう
思っては
真剣に
「好き」
って
伝えようにも
すき
だからこそ
素直に言えなくて
重くは言えなくて
「千代ちゃん、好きー!」
今日も
恥ずかしもどかし
すきって言えない