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未来革命  作者: 椿ツバサ
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第三章


頭が割れるように過去が切り開かれる。全てが白に埋め尽くされていく。

『今こそ、思い出しなさい』

体が脈動する。そして気づくこれが《真の声》の力なのだと。使うことはあっても、使われることのなかった力なのだと。

これは夢のようなものだと頭で理解しながらも痛みを与えても目の前の光景が変わることがない。

『あなたは本当に、心の底からむかつく子だったわ』

この映像はなんなのだろうか。まるでスクリーンに映し出されている映像を見るように自分を視認できる。

鳴き声を上げる元気すらなく衰弱している自分。ぐったりと元気がない。そこに自分の意思など存在しない。なにか今食事を与えられてもきっと嚥下する力などないはずだ。

「食べなさい」

三日に一度の食事と飲み物を出されるとともに声を掛けられる。すると幼いののかは操り人形のようにただその命令に従って体の限界を超えて、食べ物と言えるか怪しいラインのものを嚥下していく。

『それでも、この力をつかえばお前を支配できた』

父親に殴られ、抵抗する意思すら見せられないように母親から《真の声》で縛り付けられる。全てが白の世界で信じられないものを見せつけられる。

『私の血を呑ませたのは貴方が一歳の頃よ。私の時間を縛り付けようとするんだから、自業自得よ』

蔑むような声。

赤ちゃんが夜泣きをする理由の一つとして次の子を産ませないようにするという本能的な動きがある。愛情が自分ひとりに動くようにする当たり前の行動。だが、それをもストレスを感じながらでも受け止めるのが親であるはずなのにそれを拒否し七海は苛立ったのだ。子は産まれたのはただの結果。別に子どもがほしかったわけでもない。

『本当にウザったしたかったけど、あのバカがやりすぎたせいですべてが発覚……。その時にね、貴方の記憶をいじらせてもらった』

「忘れなさい」

警察が突入してくる少し前。七海のその言葉に記憶が食われ失っていく。

次の記憶は教会にいる自分。なぜ、今まで疑問に思わなかったのだろうか。両親が共に捕まったということは母親からもなにかしら受けていたということであるはずなのに、記憶は父親からの暴力ばかりだったことを。近人としての能力があるのであれば、それは遺伝しているものだという可能性を。

『くるしみなさい』

完全に心を操られ、掌握される。このままでは不味いという意識はあるが、体が言うことを聞かない。これが《真の声》の恐怖……。

だが、そこで頭を巡らせ、一縷の望みをかけて声を絞り出す。

「現実……を、みて。現実を、青崎七海を!」

パリンと白い世界が潰れる。《真の声》を自らの《真の声》で打ち破る。

「はぁはぁ」

「……まあ、思い出せたようね。自分の咎を」

荒い呼吸と額にかいた粘ついた汗が気持ち悪く体を伝う。

「あなたの、言いなりにならない」

「お母さんとも呼ばないのね」

「母親失格の人にいう言葉じゃない」

「まあ、アンタの母親だなんてこっちから願い下げだけど」

互いに引かない、譲らないという意思をハッキリさせる。

「《真の声》で私は倒せない」

「そんなもの、必要ないわよ」

キッと互いに睨み合って水と風がぶつかり合う。ゴオッという音が響き爆発する。

想いの丈は常に付きまとい消えない。

近人の能力が精神力を使うのであるならば、これは心の鍔迫つばぜり合いと言い換えても問題ないだろう。想いは譲らずぶつかり合う。

相手を倒すための必殺を繰り広げる。手加減などしない、親子の喧嘩。

「……いけっ」

水の層裂創レイヤーボム

鋭い風を送るがすぐに泥水が表れ風を防ぐ。その泥水は風を受けるとまるでそれがトリガーだったように爆発する。

爆風の風を操りそれを頭上高くへ投げる。土埃などは消えてなくなったがために一瞬お互いに見つめあう……。

「落ちろ!」

ドンっと、空中のおいた土埃をもった風が確かな質量をもって襲い掛かる。

「させないわよ」

ドーム状に水の膜を展開させ防ぐ七海。そしてその質量を受け取った水をののかに殴りつける。

それを見切ってすぐに風の防壁を展開する。しかし。

「粘着」

「っ。えっ……くっ、あっ!!」

突然、体の動きが悪くなったかと思うとまるで金縛りにあったかのように動けなくなり風の防壁が無くなる。もちろん、水はののかをとらえ吹き飛ばす。なんとか空中で風をギリギリで纏うことで重傷はさけられる。だがしかし、唐突のこの攻撃に戸惑いを隠すことはできない。

「縛り」

「なに、これ……」

続いてまるでがんじがらめに体を鎖で縛られたかのような感覚に陥り動けなくる。その隙を逃さず大量の水が送られる。

「耐える……!」

目の前の最小限に風の防壁を展開。急所だけは当たらないようにする。多少のダメージは受けるが、痛みより脳内の計算速度の速さが上回りそれを受け付けない。

いったいこの攻撃はなんなのか。わざわざ言の葉にして攻撃をだしていることから近人そのものの能力ではないことは推測できる。だが、言の葉を使っているにしては言葉の数も、隙も少なすぎる。言の葉のショートカットをしているのか。そんなこと、できるはずがない。では、最後に残るのは。

―――既に出している攻撃を変質させている?

その考えに思い当たった瞬間あるおかしい一点に気づく。それは、すでに風の力を周囲に展開していないのにもかかわらず、最初に見つけた《リーヴ》たちがやってきていないということを。あの《リーヴ》全員が仮に七海と血の契約を交わしていたとしても、この距離で七海の《真の声》が届くはずもない。通信機は敵対した瞬間に投げ捨てていることから指示を出していたということも考え辛く、それと同時に通信機などを通せば《真の声》に効果は届かない。

では、どの攻撃を出していたのかということを考える必要性があるのだが。

全ての思考を終える頃には水の猛攻がやんでいる。

起爆ファイア

時間を稼ぐために適当に爆破する。三連続の起爆。

今まで七海が使てきた言の葉の攻撃は水の層裂創レイヤーボム。これのみ。だがしかし、これの能力を使っていたときに空気中に能力の力を普遍させたように思えない。それ以外に言の葉を使った攻撃は……。

そこまでの思考で思いつく。七海の使った言の葉はもう一つある。水の輪舞曲ロンドアクア

風の大弓道アルテミス

大きな弓を生成。だが、今回引くのは四本の短い矢。風への逆雷トルネードの攻撃が終わる瞬間にそれを地面に打ち込む。

風が地面を抉り空気中の水分を吸収させ、それをまた上空へ移動。また矢を四本引く、睨み合うののかと七海。弓を射る。

「チッ」

舌打ちをして踊るように弓の矢をかわす。やはりと確信を持つののか。

水の輪舞曲ロンドアクアはてっきり探知用の者だと思い込んでいたがそれは副次的な効果でしかなかったのだろう。この能力は空気中に水を展開、それを変質させることに真の力を発揮させるのだろう。そう結論づけたがために風の大弓道アルテミスで水を奪い取るという行動にでた。

起爆ファイア

「調子に乗るな!」

新たな攻撃を放つが、まるでサーフィンのように大きな波を自分の下に展開。攻撃を遮る。

風の逃げぬ道オハン

右手を突出し波を破壊するように砲弾のような風を送る。だが、波が裂けて風の砲弾がかわされ、変わりに後方の木がミキミキと倒れる。反動で少しもたつく、ののか。その隙を逃すはずがないことは十二分に理解しているがために攻撃を避ける動きをしようと試みる。さまざまな可能性を、今までの攻撃方法から推測して。

水雷の電磁兵器レールガン

「っ、あぁ!!」

光速の早さで電気と超極小にまで縮めた水を放出。とっさの防壁展開で急所は免れるがののかの軽い体は吹っ飛び全身にしびれをきたす。一瞬、氷空と約束した生きて帰るという約束が歪みかけるがそれはいけないと強く念じる。

物体を電磁誘導により加速させ打ち出すのがレールガン。理屈上は可能であっても不可解なのは、水でそれを作ることはできないというもの。なのに……。

水雷の電雨ハリケーン

起爆ファイア……。そう口が動くより早く目の前に大きな雷雲ができて雷と集中豪雨がののかを襲う。その直前で、英雄ヒーローは現れる。

風の逃げぬ道オハン!」





英雄というのはなぜかいつも遅れてやってくる。

強烈な風が雷雲を押し流し雷は中途半端なところに落ちる。遅れて響く轟音が雷が落ちたことをきづかさせる。

「大丈夫か、ののか!」

「氷空……なんで」

地面に伏せたまあ氷空を見上げるののか。

「なにか、ののかの声が聞こえた気がしたんだ。生きたいっていう。それを聞いた瞬間、嫌な気がして、風と共にテレポートを使ってやってきた。あと一歩、遅かったら危なかった」

氷空の説明に、《心同調》が起こったのかということを理解するののか。

《心同調》。それは血の契約を交わしたもののことを近人が強く想った時、心の声が通じるというもの。すでに研究され、発表もされてはいるが、それを実際にみたのは初めての事だった。なぜなら、ののかの心は常に平常であろうとするがゆえに誰かを想うことも少なかったから。

「西のエリアは……」

「大量に風への逆雷トルネードを仕掛けておいた。簡単には向かわせてない」

「……なら、いい」

ののかはゆっくりと立ち上がる。そして七海を睨む。

「お友達?」

「仲間だよ。テメェラを止めるな」

「親子喧嘩に水を差すのはどうかと思うわよ」

「親子……?」

状況をつかみあぐねて呟く氷空。

「話は、後。簡潔に言うと、この人は私を産んで、捨てた人」

「……ののかの過去は俺はしらねぇが、ののかが戦っている以上俺がとやかくいう必要性はねえな。風の道筋エアーロード!」

ズザザという音を鳴らしながら地面を抉り一直線に七海を襲う風の刃。

だが、それを七海は一振りで水を操り削りとる。

「雑魚は寝てなさい」

ザバァと大量の水を操り氷空に襲い掛からせる。

「……雑魚なんかじゃない」

ののかは一瞬にして大量の風を生成。大量の水と風。お互いが拮抗してはじける。まるで雨のように水が降り注ぐ。

風の放射バレット風を超えてアローアロー

左指で散弾のような風を殺意をもってだし、右手で長い弓のような弾を弾き飛ばす。

水雷の重圧盾シールドラック

一件すると水だけの盾が表れ氷空の攻撃がそこに吸い込まれる。するとその風がバチンと音を鳴らして別の力に負けてしまう。

「その盾の中には雷が発生しているみたい。不用意な接近戦はやめて」

「……なにがなんだかわかんねぇがとりあえずわかったよ」

氷空は頷く。それを見るや否やののかは言の葉を介さない、近人そのものの能力で風を操り強風を打ち付ける。

「くっ……」

殺傷能力がない大量の風。だがその分、範囲が広く対処がしにくい。

「氷空!」

「あぁ!!風の二層重圧クラッシュスペース!」

自分の精神力を最大まで使い七海の両端に気圧の違う二つの空間を作り出す。気圧の違うそれは互いにまじりあおうとし強烈に圧縮させようとさせる。それを不意の攻撃の連続でかわす余裕はない。

「くっ……」

両手に水を作りだし気圧に抵抗しようとする七海。前方からは強烈な風。左右からは圧縮し殺そうとする必殺の空間。

「……お前らを前に、しぬかぁ!」

感情を爆発させ水の力で風を押し返そうとする。緊迫する空気。互いに譲らない想いと想い。それを絶った一言で断ち切らせようとする声が響く。

風の放射バレット

「カッ」

「うっ」

二つの攻撃が強制的に解散させられる。二人から血がでる。溶かしたのは、その返り血を浴びているのは……。

「二体一というのはフェアじゃないわよね。楓馬」

「そうですね、青崎大将」

いつもの柔和の表情とは程遠い暗い顔。光のともっていない瞳。楓馬はそこにいて、ののかと氷空と敵対する。

「楓馬……。てめぇ!!」

氷空の怒号。だが、それを一言で黙らせる。

風の拘束具リストバンド

「くっ」

繊細な力を扱うことを得意とする楓馬らしい拘束方法で氷空の身動きを封じる。

「楓馬」

「ののか、ごめんなさい」

「私達に攻撃しないで」

「……っ」

それは決して抗うことのできない、言葉、《真の声》。ののかが初めて発する人を強制させるためのもの。

「いいのよ、動きなさい、楓馬」

「……ふぅ」

だが、その七海の声で体の緊張が解ける。

「まさか……」

「正解です。風水の嵐ストーム

ゴッとののかを襲う嵐。なんとか風をこちらも流し耐えつつ、氷空を連れ場所を移動する。挟まれたままの体制は非常に悪い。

「楓馬、どうして」

「スパイ活動って、わけですね」

「いつから……」

「結構前から。流石の僕も、そんなに簡単に《リーヴ》の情報が手に入ると思ってました?」

「あなたは《リーヴ》が憎くないの?」

「じゃあののかは《リーヴ》が憎いから、家族の為に、生きるために働く《リーヴ》の人たちを殺すんですね」

「……訂正。《リーヴ》の行いを正当化させるということ?」

「ののかも《復讐の子どもサクラメント》での行いを、殺人を正当化させようとしていますよね

舌選。頭脳を司るもの通しの戦いは激しいものではなかった。

「ののかは前の体制に戻すためには犠牲がつきものだといってるんです。それは国際連闘と同じく、地球を守るために犠牲がつきものといってるようなものです」

「…………」

「…………」

黙り、睨み合う。

「はーい、お話しはここまで」

そこに能天気な声が響く。七海はいつの間にか水剣を取り出す。それをののかに向ける。

「それにー。貴方はここで死ぬんだから。難しいことは考えなくていいの」

「風の―――」

「遅い」

水という刀身が定まってない刀は一気に伸びののかの罪を罰するように、ギロチンのように吹き飛ばそうとする。

起爆ファイア

「えっ……!?」

ドンっと七海の下から風が巻き起こり彼女を吹き飛ばす。

なにか叫び声を発しているが風はそれを吹き飛ばす。

「お疲れ様、楓馬」

「大丈夫でしたか、ののか、氷空!」

「私は大丈夫。氷空も大丈夫だよね」

「えっ……。あっ、お、おう」

一人状況が……いや一人ではない。

「楓馬。貴方……!」

「僕はどこまでも《復讐の子どもサクラメント》なんですよ」

「コイツ……。裏切りやがって」

「裏切ってないです。鼻から僕は二重スパイだったんですから」

「黙れ。死ね!」

それは絶対の命令。死ねと言われたら言われた通り死ぬしかない《真の言葉》。

「倒すよ、二人とも」

だがその命令をののかが上書きする。楓馬は自分の顔についた血をなめる。そこには氷空のものも混ざっているかもしれないが。

「まさか……」

「ののかの血を呑むのは三日ぶりです」

「くそっ」

血の濃い方の命令が優先されるという《真の声》。それは絶対。だからこそ、あえてののかに攻撃を当て返り血を浴びた。

「青崎七海。貴方は私達の手のひらで踊らされていたにすぎない」

「……」

風の拘束具リストバンド

「このっ」

楓馬が七海の行動を防ぐ。暴れる七海。茫然としている七海の親衛隊も拘束させる。

風の放射バレット

「キャッ」

痛みで集中を途切れさせようとする氷空。そして最後に。

「これは、わたしの血が濃縮されたもの」

小さな錠剤を取り出し近づくののか。ののかの行動の意図を察して激しく抵抗しようとする七海。だが声帯が風の拘束具リストバンドで締め付けられてうまく発生もできなくなり、言の葉を通した攻撃も、近人そのものの力も出せなくなる。

ののかは錠剤を七海の口に落とす。

水の純正ウォーター

楓馬が七海の口に大量の水を生成させて無理やり嚥下させる。

「青崎七海」

告げる。終わりを。

「すべてを忘れ、私と、貴方意外の血を浄化しなさい」

「ああああぁぁぁぁぁああぁぁぁ!!」

叫び声をあげ倒れ伏す七海。脳の異常な改変に体がついてこないのだろう。

「死にたくなければ、引きなさい」

ののかは血を飲ませていない七海の親衛隊に告げる。だが、その声は《真の声》など関係なくただ、撤退させられる。

日は昇りきっていた。

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