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三位一体!? ~複垢プレイヤーの異世界召喚無双記~  作者: Sin Guilty
第九章 呵成編

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第95話 ゆずれないもの

 俺は今、仰向けにぶっ倒れている。


「もう立てないでしょう? 今からこの「茨の冠(Via Crucis)始原(オリジン)」で、シンの中の「プレイヤー」を抜き出してあげますよ。なに、消えろとまでは云いません。「茨の冠(Via Crucis)始原(オリジン)」の中で存在し続けてくれてもいいですよ。気が狂わなければですが」


 余裕の言葉を吐きながら、クリス・クラリス――ダリューンが倒れた俺に近づいてくる。


 なるほどそれが千年かけて用意した、俺とシンを分離する手段というわけか。

 ちょっといいかもなと思ってしまった、カー○みたいで。

 絶対これ、あの謎の男の趣味入ってるよな。


 もう立てない。


 そりゃあそうだろう、あれだけの連撃(コンボ)綺麗に決められちゃあ、同レベル帯であればHPが持たない。


 ――完敗だ。




 本来であれば。


 でもしゃべりすぎたなあ、ダリューン。

 そうするほうが俺の心を折れると思っての事だろうけど、そりゃあ失敗だ。

 でもしょうがないか、「俺」を分離する手段を得た以上、ダリューンは「シン」を殺すわけにはいかないんだもんな。


 こういうやり方しかできないのはしょうがない。


 もうどうやっても分離することが不可能と悟って、それならいっそと殺しにかかられてたら危なかったかもしれない。


 やっとこの空間のルールがわかった。

 

 「対戦フィールド」を利用しての隔離である以上、どれだけ介入しても基本的な条件は同等のはず。

 そうでなければこんな回りくどいやり方など必要ない。

 一方的に拘束して、俺とシンの分離を行えば済む。


 にも拘らず、全てのスキルで上をいかれた理由。

 そして経験上、確実に勝者が決するようなダメージを喰らいながらも、勝敗確定していないこの状況。


 この空間を支配するルールは「意志」もしくは「感情」だ。

 それが確固としているほど強くなる。

 そういう条件を設定された空間。


 それプラス、レベル制限をレベル99(旧カンスト)にしている。


 スキルをただスキルとして行使していた俺より、断固たる決意で「俺」を排除しようとしていたダリューンが上を行く。

 だが完全に俺の意志を折れていないから、勝敗はつかない。

 

 意志を折るために、「俺」が後ろめたくなるような言葉を投げかけながら攻撃したというわけだ。


 だがなあ。

 今更そんなことで折れないんだよ、俺は。


 「……が、どうした」


 「――え?」


 もう動けない筈の仰向けに倒れた俺が、体を無理やり起こそうとしていることに、ダリューンは驚愕している。


 お前の中では今頃「俺」は、申し訳なくなってへこんでいるところか?

 もう一押しで心を圧し折れるくらいに?


 あ ほ か !

 

「ゲームとして楽しんでた。――だったら、それがどうだってんだ!」


 落ち込む?

 申し訳なく思う?


 そんなわけあるか!


 無理やりに体を起こし、立ち上がる。

 ここが「意志」や「感情」が支配する空間だと言うなら、今の俺は強いぞダリューン。

 

 あったま来てるからな。


 立ち上がった俺の身体が、纏わりつくような黒焔のエフェクトに覆われる。

 「借り物の力」と()()()()()()()、発動できるって事だ。


 意志の強さ比べっていうなら望むところだ。

 千年の妄執も何もかも、まとめて叩いて潰してやる。


 周りの空気が揺らぐようなエフェクトに包まれ、俺の本来黒い瞳は、今紅く光っているはずだ。

  

 術者のHPが三割を切り、かつMPが五割以上残っている場合のみ発動する「形態(モード):七罪人ira:コードSatan」の特殊状態「憤怒(セラフ)()熾天使(オルジィ)

 攻撃力、防御力が爆発的に上がり、何よりも「速度」が圧倒的に上昇する。

 特殊状況下で使用するスキル、術式はノーコストで発動可能。

 ただし起動している間、ものすごいスピードでMPとスタミナは消費されていき、何もしないで立っているだけでも3分ほどで自ら倒れる。


 ――この世界(ヴァル・ステイル)へ俺が来てから、手にした力だ。


 確かに俺にとってはゲームだったさ。


 だけどそれは、アストレイア様に頼まれて、この世界(ヴァル・ステイル)を消滅から救うために俺とシンが合一するまでだ。


 それからは、俺と僕の記憶を共有し、シンとしてこの世界(ヴァル・ステイル)に関わってきた。


 己の意志でだ。

 

 ある意味においては「借り物の力」だ、確かにな。

 だからと言って、コントローラーで操作する感覚で使っているわけじゃない。


「行くぞ、構えろよ? 今のお前がその身体に喰らう痛みを感じてるかどうかは知らないけどな。――一瞬で終わらすぞ!」


「な……」


 何故もへったくれもあるか。

 だいたい頭が良いせいなのか、本来の性格のせいなのかは知らないけどな。


 「俺」と「僕」が、世界(ヴァル・ステイル)を救うため――いや違うな、(ヨル)とクレアとずっとともにいるために、()()()()合一してるんだ。

 どっちかが一方的にしたことじゃない。

 互いの、どうしてもゆずれないものが一致したから選んだ手段だ。


 ゲームの世界(ヴァル・ステイル)がなくなるのが嫌だからって、あっちの世界放り出した「俺」の方がどうかしてると思うくらいだ。


 その事にダリューン、お前がとやかくいう事自体そもそもおかしいんだよ。

 いかにも自分が正しいみたいに浸りやがって。

 

 「私のシンはそんなこと言わない」とか言われても、そのなんだ、困る。


 一人称を「僕」にしてりゃそれでいいのか。

 別れ話抉らせたフラれ男か、お前は。


 だいたい、他人の中身の正しい在りようとやらを勝手に決めるなよ。

 

 一拍のタメから、一瞬でクリス・クラリスの懐へ飛び込む。


 防御(ガード)を許さず、一撃で空中へカチ上げ、空中(エアリアル)連撃(コンボ)を叩き込む。

 連撃の最後の一撃で地上に叩き落とし、大地を陥没させてめり込む相手に「九頭龍砲」を追撃で放ち、全弾直撃させる。


 被ダメージ硬直(リコイル)で動けなくなったところへ――さっきのお返しだ――「星齧(ロド・ステラ)」を発動。

 「憤怒(セラフ)()熾天使(オルジィ)」の最大の特徴である「速度」、その恩恵を受けて一瞬で発動した「星齧(ロド・ステラ)」が右腕に展開される。

 それをそのまま、地面にめり込んだまま動けないクリス・クラリス――ダリューンの胸元に突き入れる。


 柔らかい身体を貫く感覚。


 胸の中央を俺の右腕に貫かれ、血が溢れだす。


「が、ごぼぁ……」


 声にならないうめき声とともに、クリス・クラリスのかわいらしい口元からも血が溢れる。


 致命傷だ。


 「意志の力」が最優先されるこの空間では、対戦フィールで基礎設定されている「不殺」モードも無効化されるんだな。

 だがこれで勝負ありだ、空間は解除される。


 パァン!

 

 という破裂音とともに、真っ赤な空間は硝子が割れ砕けるように消える。

 通常空間への帰還。





  

「シン君!」


我が主(マイ・マスター)!」


「主殿!」


 通常空間――本来の会場であった「浮島」へ戻ると同時に、パーティーを組んでいた三人が転移(テレポート)で駆けつけてくれる。

 ダリューンの仕込んだ空間が消えた瞬間から、「三位一体」(トリニティ)も復活している。


「クレア!」


「承知ですの!」


 クリス・クラリスを死なせるわけにはいかないし、ここでダリューンを逃がすわけにもいかない。

 まあ「勝負がついた」からには逃げることもないだろうが。


 クレアが蘇生級の回復術式を即座に使用し、胸元に風穴があいているクリス・クラリスを治療する。

 まず逃げないとは思っているものの、鋼糸で拘束はしておく。

 中の人はダリューンだけど、美形プレイヤーキャラクターとして有名だったクリス・クラリスを鋼糸で縛り上げるとか、ちょっと背徳的だな。


 一瞬で三人から白い目を向けられる。


 だがボロボロの――(ヨル)とクレアの視界から見たらひどい状態だな――俺の姿を見てあっさり動揺する。

 まあ血まみれだし、俺がこんな状態になってるのを見るなんて、ほんとに千年ぶりだろうしな。

 出逢ったばかりの頃は、無茶な狩りして似たような状況にはよくなってたもんだ。


「何があったんですか、シン君」


「この方、クリス・クラリスですわね? 我が主(マイ・マスター)が殺す一歩手前まで追い詰めていたようですけれど……たしかダリューンが最初に「茨の冠」(Via Crucis)を使った「宿者」(ハビトール)の」


「という事は、主殿……」


 クリス・クラリスに続いて、クレアは俺の回復もしてくれている。

 発生した状況から見ても、大体察しはついているだろう。

 「三位一体」(トリニティ)で伝わってくる(ヨル)とクレアの動悸がまだ激しい。

 相当心配させたんだろう。

 涙目もまだ元に戻っていない。

 冷静(クール)な幼女が売りのはずの神竜(バハムート)まで涙目なのはありがたいんだがちょっとびっくりだ。


「ああ、詳しいことは後でちゃんと説明するけど……ダリューンだ、こいつ」


 驚きよりも、やっぱりという空気が流れる。

 どちらにせよ問題は一つ解決したと言っていいだろう。

 謎や疑問は残るとしても、俺達にとっての脅威の一つは排除できた。

 それは間違いない。


 クリス・クラリスがゆっくりと目を開く。

 意識が回復したらしい。

 口を開くのは、本人なのか、ダリューンなのか。


「……負けましたか」


 ダリューンだな。


「なぜ止めをささないのですか? というか放っておけば死んだでしょうに、さっきのダメージなら」


「いやお前、クリス・クラリス嬢死なせるわけにゃいかんだろ。お前が死にたいなら、洗いざらい知ってることはいてから勝手に死ね」


 負けたことによって、何かに納得しているのか穏やかなものだ。

 自分で絶対に負けないと思って設定した「意志」での勝負に負けたから、憑き物が落ちたか。

 だからと言って赦されるものではないけれど。


「酷いですね。やっぱり「プレイヤー」なんかが混ざるから、うちのシンがそんなひどいことを言う様に」


「誰がうちのシンだ。――まだ言うか。勝負が決まったんだから、そこは黙れよ」


 言葉じゃ絶対に相容れないから、殺し合いまでしたんだろうが。

 それに負けてなお言うのはさすがにみっともない。

 まあ冗談めかして言う時点で、よくわかってはいるんだろうけれど。


「そうですね。それに直接会ってみれば、ガル様の言われる通りだったかもしれません。それでも私は嫌だったんですよ、シン、貴方の中に他者が混ざることが」


「それ自体はとやかく言わないよ。気持ちは分からなくもないしな。だけど経験積めば人間なんて誰でも変わってくもんだろ。今回は合一っていう劇的なもんだったかもしれないけど、本人同士が納得してるんだからそれと変わらん。お前だって、千年前とはもはや他人みたいなもんじゃないのか、今」


 言わんとすることは解らなくもないんだ。

 俺だって(ヨル)やクレアに、余計な誰かが混ざってると知ったら黙ってそうですかと言える自信なんかない。


 それでもそれが、本人がどうしてもゆずれないもののために、本人が認めての事ならどうするか。


 力尽くで排除するか、それを認めるか――もしくはそんなのは俺の好きな(ヨル)、クレアじゃないと言って離れるかしかない。


 ダリューンは力尽くで排除することを選び、失敗した。

 残されるのは認めるか離れるかだ。

 そこはダリューンが好きにしたらいい。

 その前にやったことの責任は取ってもらわなければならないが。

 (ヨル)とクレアにした暴言も詫びてもらわねばならんしな。


「返す言葉もありません、か。どうあれ「意志の力」で負けた上は言うべきこともありません。こうなったら知っていることを全て話した上で責任を取れる範囲でとりましょう。私の知る範囲の全てを知って、貴方がどういう反応を示すのかが興味深くもありますしね」


 ここまで来てみっともなく抵抗することはないか。

 自身の千年の意志に誇りを持つからこそ、素直なものなのかもしれない。 


「ああ、さっきは死ねっていったけど、さっさと死ぬなよ。クリス・クラリス嬢との決着はちゃんとつけろ。お前が今どういう状態で意識保ってるのかは知らないけど、クリス・クラリス嬢は「人間」に戻してやれる。千年お前に付き合ってくれた相手だ。何でも色恋沙汰にするのは好きじゃないけど、千年って半端なもんじゃないだろ。そこは有耶無耶にすんなよ」


 登場時の、物凄い病んだ感じが気になるが、そこはダリューンが取るべき責任の一つだろう。

 俺は知らん。

 何故俺の名前も連呼してたかとか聞きたくない。


「シンにそんなことを言われますか。まあ承知し……まし……」


 ガクガクとクリス・クラリスの頭が揺れる。

 ちょっと怖い。


 なんだ、何が起こってる。


 どうせダリューンの意志はちょっと変わった形の「茨の冠(Via Crucis)始原(オリジン)」とやらに宿ってるんだろうけど、確実に今何かに干渉されてるぞこれ。


『さすがだなあ、シン。ダリューンの千年の妄執を一蹴か。ゆずれないものが揺らいでない人間ってのは強いねえ。ただ今の段階でダリューンが知ってることを一方的な視点で話されるとちょっと困るから、介入させてもらったよ。なあに殺しちゃいないよ。事が済めば戻すことを約束する。敗者の命運は勝者が決めるのが当然ってもんだからね』


 なにかって、こいつらしかいないわな、ダリューンに干渉可能なのって言えば。


 目の前に再び巨大な「映像窓」が表示され、そこには例の怪しい男が相変わらずの格好で映っている。

 今回は変な子芝居は挟んでこないんだな。

 「堕神群」の準備とやらも整ったという事か。


神竜(バハムート)も元気そうだね。予想通りきっちり女の子になってるな。さすがシンはモテるなあ、羨ましい。――という事は仕掛けは上々』


 ダリューンが一応片付いたと思ったら、連続で「堕神群」か。 

 事態が一気に動く。

 ええい、忙しい。


『さて約束の時だ。――準備はいいかい、シン?』


 次の「堕神」が顕現する。

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