第92話 一蹴
半月はあっという間に経過し、武闘大会は予定通り開催された。
この武闘大会のために、専用に用意された浮島で開催されている。
もう開催日程も半分以上が過ぎ、今日で一般大会の優勝が決まるところだ。
今のところまだ、何も起こってはいない。
規定通り粛々と進行している。
盛り上がり方は物凄いが。
最終的に決まった規定は以下の通り。
・「異能者」が参加するトーナメントと、一般者参加のトーナメントは別とする。
・「異能者」のトーナメントは「英雄シン」のパーティーが一回戦から参加する。
・「異能者」のトーナメントには賞品・賞金はなし。
・一般者参加のトーナメントは予選、本選を経て優勝したパーティーが「天空城騎士団」パーティーと対戦する。
※「天空城騎士団」パーティーは「№Ⅳフィア・ヨーコ」「№Ⅴフィオナ」「№Ⅵアラン・クリスフォード」「№Ⅶシルリア」の四名パーティー。
その他賞品や賞金について細かく定められていたが、よく覚えていない。
上位者にはかなりレアな武器防具や、莫大な賞金、ギルドランクや仕官の権利が与えられるようだ。
本選出場が決定した時点で、「天空城」への仕官権利と、パーティー全員に例のアラン騎士団長アイテムが与えられる。
アイテムは相当な高値で取引されているらしく、本選出場を決めた時点で大金持ちになれると「冒険者」達が騒いでいた。
優勝チームが「天空城騎士団」パーティーに勝利した場合、本人たちが希望すれば無条件で「天空城騎士団」入り出来ることも発表された。
みんな口では「勝てるわけねーよなー」などと言いつつ、狙ってはいるだろう。
残念ながらダメージ通らないから絶対勝てないけどね。
まあそういうのを衆目の目に晒すのも必要だろう。
「天空城騎士団」の絶対性を実際目の当たりにしてもらう事は、悪いことではない。
「異能者」については、未だ平均レベルが20に届かない軍人や冒険者ではそもそもダメージが通らない為、別大会として分けざるをえなかった。
「異能者」達はレベル70以上の者が多く、今の「天空城騎士団」パーティーで互角以上に戦えるといったところだ。
よってトーナメントを二つに分けることに、「異能者」側からも「一般」側からも苦情が出ることはなかった。
その一般トーナメントの決勝、その勝負が間もなくつこうとしている。
「この短期間でこのレベルまで来てるんですね、びっくりです」
「本選決勝まで来るという事は、レベルも20越えですものね。スキルも術式もかなり強力かつ派手なものが出揃うあたりですもの、観客が盛り上がるのもわかりますわ」
「とはいえ、まだまだ高レベル魔物は任せられぬがな」
俺の左右で決勝戦を観戦している夜とクレア、神竜が感想を述べる。
今決勝戦を闘っているのは、再建した「冒険者ギルド」のランク現筆頭であるトウジさん率いるパーティー。
メンバーの中にユリア・リファレス嬢――「奪術士」という魔物のスキル・術式を我が物として使用可能なジョブを持つ――を含む、かなり尖った構成のパーティーだ。
上限の六名で構成され、防御特化の盾職三名が前衛、回復特化の術士一名、補助特化の術士一名が後衛。
攻撃はすべて「奪術士」、ユリア嬢に集中しているスタイルだ。
対するのは、正規軍の面子を守ったフィルリア連邦近衛師団の団長率いるパーティー。
準決勝で、アラン騎士団長の副長率いるパーティーに辛勝して決勝に駒を進めた。
奇しくも元所属したフィルリア連邦近衛師団の筆頭と、ユリア嬢は戦うことになった訳だ。
構成は至ってオーソドックスであり、騎士である団長を筆頭に、戦士、格闘士、攻撃術士、回復術士、補助術士となっている。
まあ今立っているのは団長の他は格闘士だけで、ほぼ勝負は決したと言っていい。
バランスのいい構成で、普通に戦おうとするフィルリア連邦近衛師団に対して、ユリア嬢たちは防御専心からの一撃必殺を繰り返して各個撃破するというスタイルを取った。
あらゆるスキルを防御特化で構成している盾三名がスキル、術式の区分なく攻撃を自分たちへ強制的に集中させ、回復術士は盾役の回復に集中する。
その間、各種補助を受けながら、使いどころの難しい魔物のスキルを使ってゆく。
発動は遅く、硬直は長く、リキャストも時間がかかる上に危険度も高いが強力な攻撃スキル。
低レベル魔物である蜂系魔物から奪う事の出来る「双奪命針」を撃ってゆく。
発動すればほぼ必中、ダメージは己のHPと同じだけを、防御力などに減衰されることなく確実に与える。
その代償として己のHPも「1」となるので、回復役との連携が最も重要となる戦術だ。
だがそこを上手くまわせば、同レベル帯での対人戦ではかなり有効な戦術ではある。
その実証として、ユリア嬢よりもHPの低い後衛職は一撃で沈められた。
攻撃、回復、補助の術士を順番に倒されて、そこから先は手詰まりだ。
この戦い方に勝つには、開幕と同時に飽和攻撃で一枚ずつ盾を抜き、各個撃破される前にユリア嬢を仕留めることが必要になるが、こうなってはもう詰んでいる。
同レベル帯ではかなり多いHPを誇る騎士、格闘士とはいえ、同レベル帯の後衛職の倍もあるわけではない。
「双奪命針」を二撃受ければ沈むほかはないのだ。
最初に回復手段を奪われているのも痛い。
慌てずに防御を固め、リキャストごとに 「双奪命針」をぶち込むことで確実に二人を沈めた。
優勝パーティー決定だ。
アナウンスが派手に、「冒険者ギルド」の筆頭パーティーが優勝したことをがなり立てている。
見た目ほど余裕がなかったのか、肩で息をしているユリア嬢をはじめ、「冒険者」の連中は皆誇らしげだ。
今度一杯奢らないといけないな。
フィーロ達は予選落ちを慰めなければならないし。
「すごいですね、ユリアさん。シン君が見出しただけあるってことですか?」
「いや、あれはトウジさんが上手いと思うよ。「闘技場」だからこそできる戦術をとってきたのが大きい。実戦じゃ危険度高すぎて無理だろ、あの戦い方」
「確かにそうですわね。一手間違えればユリアさんが倒れるやり方を、実戦でするパーティーとは思えませんわ」
「そゆこと。「双奪命針」なんていう危なっかしいスキルを、負けても安全な大会だからこそ特化して使用してきたトウジさんの勝利だな。正規軍としては、「冒険者」に戦術眼で負けたことの方が深刻なんじゃないかな? オーソドックスなパーティー構成は間違っちゃないんだけどね」
「我のスキル覚えたら、もっと強くなるんじゃがのう」
「いや、相当レベル上げてからじゃないと、覚える前に消し飛ぶでしょが。神竜のスキル使える人間いたらそりゃ強いけど」
神竜は「冒険者」が強くなることになぜか協力的だ。
なんにせよこれで、次は俺達の出番だ。
一般トーナメント優勝パーティーと、「天空城騎士団」選抜との対戦は、「異能者」トーナメント決勝の前に行われる。
ガルさんとの約束で、一回戦第一戦は俺達とガルさんが組まれている。
さて、ガルさん達「異能者」が求めている証明をさっさと済ませよう。
「夜、クレア、神竜、出番だ。行こうか」
「自分の身体で戦うのって久しぶりですよね、シン君」
「最近は戦いというより、乱獲とか虐殺とか、そういう感じでしたものね」
「我は常に自身の身体なんじゃがなあ」
ああうん、「神殻外装」での狩りは確かに酷い。
狩る数も、その効率も、その後のフィールドの様子も本当に酷い。
追跡系のスキルばかり使用するから地形に影響は与えていないけど、広大な空間から湧出していた魔物が根こそぎいなくなるのは異常だ。
ぺんぺん草一本生えていないという表現がしっくりくる。
調子に乗って最強兵装の実験したら地形変わったしなあ。
「念入りな育成の成果を見せるとしようか。「異能者」達に協力してもらうのにそれが必要となれば、遠慮する意味もないしな」
決勝戦の熱気冷めやらぬ「闘技場」の対戦フィールドへ転送される。
これでどれだけの攻撃を加えても、ガルさん達を消し飛ばしてしまうことはない。
なんかガルさんのこだわりなのか、痛覚設定はそのままにしろとか言ってたけど、いいのかなあ。
実戦では「痛み」で、攻撃や防御が崩れることもあるから、限りなく実戦に近づけるにはそうするべきだと力説していたので、とりあえずは従ったが、三姫納得してるのかな。
転送された空間は、何の変哲もないただ広大な平野設定だった。
結構近い距離にガルさん達もすでに転送されてきている。
対戦フィールドに入ってしまえば、観客の歓声やアナウンスは途絶える。
さぞや会場では盛り上げている事だろう。
あらゆる角度で「映像窓」に映し出されているはずなので、表情や仕草に注意しなければならない。
「千年ぶりの手合せだなあ、シン。手加減なしで頼むぜ!」
大声でこちらに声をかけてくる。
よく聞こえないが、直後にまた三姫から蹴りいれられてるようだ。
「しませんよ、手加減なんて。それよりパーティーはガルさん一人だけなんですか?」
アオヒメ、シロヒメ、クロヒメはいつも通り従えているが、召喚獣や使役している獣はパーティーメンバーに含まれない。
つまりガルさんはソロだという事になる。
「おうよ! だがお前ぇらをなめてかかってるわけじゃねえぞ! 俺はこいつらと一緒に戦うのがスタイルなんだわ。せっかく「英雄」殿と戦えるのに、他人との連携とかまだるっこしいこと考えてらんねえからよ! これで行かせてもらう」
ガルさんらしい。
別にそこに不満があるわけでもない。
ただの確認だ。
こちらとしても手加減なしで、全力で望ませてもらう。
一蹴できれば、それが何よりの結果だ。
「了解しました! ではやりましょうか」
「おうよ!」
対戦フィールドに巨大な「映像窓」が表示され、カウントダウンが始まる。
本来であれば転送、即戦闘開始だが、今回は演出でこう言う風にしているらしい。
本体にダメージが出ないという事は一種のVRワールドのようなものなんだろうけど、便利なものだ。
思えば世界を構成する「逸失技術」をはじめ、よく理解できてない仕組みばかりだな。
「闘技場」一つとってみても、「こういう効果がある」とは知っていても、それが何故なのかは解っちゃいない。
「システム」を掌握すれば、全てが理解できるのだろうか。
「堕神群」はその域まで迫っている可能性もある。
世界の仕組みか。
世界の内側で生きていく俺達にはあまりピンとこない事だな。
世界の外側にいるものが、掌握すべきものなのかもしれない。
埒もないことを考えていると、カウントがゼロになった。
戦闘に集中しよう。
とはいっても……
目視でとらえていたガルさん達が霞んで消える。
相変わらず超速機動だ。
棒立ちになっている、俺、夜、クレア、神竜の背後から、おそらくは彼らの最大攻撃が初撃から撃ちこまれる。
連携も何も意識していない飽和攻撃だ。
最初に最大攻撃の集中で、各個撃破するつもりなのだろう。
ド派手なエフェクトを伴った攻撃スキルが、俺に集中する。
まあ定石だし、必中系で来ているのだろうから、こっちも同等以上のスキルで迎撃しなければ喰らうしかない。
一つは相殺できても四つ重ねられるといくつかは喰らう、そういう攻撃だ。
そのまま被ダメージ硬直の間に攻撃を重ねて、多少夜、クレア、神竜からの攻撃を受けても、まず俺を倒しきってしまうという戦術。
俺が初手で硬直に入り、夜とクレア、神竜が迎撃に出たとしても先手を取ったことにより、一人はフリーになることも計算の内なのだろう。
召喚獣も呼び出さず、防御術式も展開していなかった俺達の油断といっていい。
――普通であれば。
強くなったとはいえ、「冒険者」や「正規軍」ならば一撃でパーティーごと消し飛ばすような攻撃が、俺に着弾する直前に甲高い音とともに弾き飛ばされる。
レベル差が30以上存在する際に発生する、「無効化」だ。
「うっそだろおぉぉ!」
ガルさんの声が背後から響く。
会心の初手だったはずだ。
それがまさか「無効化」されるとは夢にも思っていなかっただろう。
「シン、お前ぇらがレベル上限解除されてるってマジなのかよ! 俺らも千年前と違って今はカンストだぜ? 「無効化」喰らうっつーこた、お前レベル129越えかよ! スキル一発で負け確定とかどんだけ……」
ガルさんが驚愕するのもわかる。
俺達は「神殻外装」を運用開始してから、バカみたいな速度で育成を行った。
すでに三人とも150を突破し、それでもまだ一日の育成でレベル一つは上がる。
そろそろNEXTの数値がおかしな事になってきているが、まだもう少し上げられるだろう。
レベルが10上がる毎に得る特殊スキルも、いろいろ揃ってきている。
「神殻外装」なしでも、世界の理の範疇では負ける相手はいないと言っていいだろう。
それよりも、誰に聞いたのかなその情報は。
確認の必要があるなこれは。




