第82話 七大罪 色欲
今日も完全に休養日設定。
朝から一緒にお風呂に入った夜とクレアは、今日は「天空城」の俺達の部屋にこもって、二人して今夜のご飯をつくってくれるらしい。
本音のところは、事情を知る 「天空城騎士団」の団員に顔を見せるのが恥ずかしいのだろう。
容赦のない人もいる事だし、気持ちはわかる。
この場合各個撃破された方が、結果として被害は押さえ込める。
三人同時撃破の場合、相乗効果で、間違いなく被害は拡大の一途をたどる。
故に俺は一人でお出かけだ。
メニューがばれたら興ざめとのことで、「三位一体」も切っている。
あの二人から「三位一体」の停止を求められるのは本当に珍しい。
しかしロデム、なぜ山羊バージョンだけそんなに大きくなる。
後ろをのこのこついてきているが、目立って仕方がない。
ロデムが山羊になっているという事は――
『至聖三者PATER「シン」。七罪人luxuria「シン」として並行覚醒』
『コード「Asmodeus」 能力:現存する全プレイヤーキャラクターおよびノンプレイヤーキャラクター全種族と「子」をなす事が可能になります。 ※常時発動確率制』
――三つ目の七大罪が備わったという事だ。
朝、ログを確認すると表示されていた。
「神の目」に表示されたのにもかかわらず、寝てて気がつかなかったというのはさすがに考えにくいから、ロデムが空気読んでくれたのだろう。
ロデムが七大罪を付与してくれているかどうかは不明だが。
……うん、いやまあ。
「システム」に創られたとされる「宿者」に生殖能力が無いというのは、理解できなくも無い。
ゲームとしての「F.D.O」にそのシステムがなかったこともあり、子をなした「宿者」は存在しない。
たしか複垢を「嫁」と「我が子」としてロールプレイしていたプレイヤーは居たはずだが、その場合この世界ではどういう扱いになっているのか興味深い。
「神の目」で確認すると、能力名は「受胎」
――まんまだ。
夜とクレアとの間に、子供を作ることが可能になりました。
一緒の部屋で暮らす以上、いずれはそうなってもおかしいことじゃない。
逆に、この能力がなければ子をなせないという事のほうが驚きといえる。
物理的な意味においての、「宿者」ってなんなんだろう。
「堕天」によってノンプレイヤー化した「宿者」達は、たぶん普通に子をなせるだろうと思う。
NPCとは基本、この世界において、「普通の人」であるからだ。
「神々」や「異能者」もNPCの範疇に含まれるので、完全にそうとは言えないが。
「天月迷宮」から帰還と同時に、「天空城」で眠っていた「宿者」達はすべて「堕天」により、ノンプレイヤーキャラクター化をおこなった。
意識を取り戻した凜さんたちと話した結果、「冒険者ギルド」に協力してくれる方向で、大枠は固まっている。
大変だとは思ったが、アデルに具体的なことは任せている。
ブリアレオスが語ってくれた通り、一人残さず「茨の冠」については、本人が納得済みで受け入れていた。
一つ気になったのは「クリス・クラリス」はやはりおらず、誰もどうなったのかを知らなかった。
今もダリューンと共にあるのだろうか。
とりあえず、この能力は「宿者」という特殊な存在のまま、次世代を残せるようになるものだ。
基本不老の「宿者」になぜこの能力が必要なのはわからないが、夜とクレアとの間に子をなせるというのであれば望むところではある。
まあまだ先の話になるけれど。
しかし順調? に七大罪は発現を続けている。
「憤怒」――七罪人ira:コード「Satan」、能力「群体化」
「傲慢」――七罪人superbia:コード「Lucifer」、能力「堕天」
「色欲」――七罪人luxuria:コード「Asmodeus」、能力「受胎」
今迄で三つ。
残りは「暴食」「強欲」「怠惰」「嫉妬」の四つか。
完全に七大罪が揃ったら、どうなるんだろうという興味はある。
それぞれに特殊な能力も付与されているみたいだし。
機械仕掛けの神を目指す、「Deus ex machina」
それに相克するものが並行稼動する「Septem peccata mortalia」というのであれば。
――それが目指すものは、七大罪を内包した「人」であるのかもしれない。
並行稼動しているという事は、神ともなり、人ともなることが可能なのか。
「宿者」という器が、どういう存在になるのか、我が事ながら興味深い。
どちらが「システム」の思惑で、どちらが「堕神群」の思惑なのか。
あるいは双方が入り混じっているのか。
「七大罪」が、俺の情動や思考によって発動するのはもはや疑いない。
残りの四つは、どういう状況下で発動するのだろう?
「暴食」――何がきっかけか想像もつかない。ただ食べまくればいいというものでも無いだろうし。
「強欲」――あれもこれもと、多くを望めば発動するのか。なんとなく俺ならやらかしそうだ。
「怠惰」――これ発動するのは拙い気がする。やる気を失うような状況には陥りたくない。
「嫉妬」――却下。却下である。絶対に得たくない感情だ。考えたくも無い。
まあ、今考えてもどうすることが出来るわけでなし臨機応変に臨むしか無いだろう。
とりあえず今日は、夜とクレアの「完成したから、食べに帰ってきなさい」コールまでは、一人でふらふらする事にしよう。
そうそうある機会でも無いんだし。




