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三位一体!? ~複垢プレイヤーの異世界召喚無双記~  作者: Sin Guilty
第八章 休日編

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第80話 大事な日

 皇都ハルモニアの商業区。


 俺達は今日明日を完全に休養日とし、朝から三人で街へ繰り出しているところだ。

 三人とも、ラフな服装。

 とはいえ市井の人々とは少し、いやだいぶ違った格好だ。


 現実の世界(ヴァル・ステイル)は、「ゲーム」としての「F.D.O」フィリウス・ディ・オンラインと一致している。

 そのため俺がゲーム中で集めたアイテム類はそのまま所持しているし、それは今まで幾度か着てきた衣装類についても同じことが言える。


 今日はデート。


 それが三人一緒ってどうなんだと思わなくもないが、これでこそ俺達という気もする。


 いや今は服装の話だ。


 デートと言えばどうしても現代日本風の服を着たくなってしまうのは、あまりにも経験が少ないためそういう格好で満喫したいと思ってしまう故か。

 自己分析に深く傷つく。


 こういう機会でもないと、着る事もないのでありとしよう。


 俺は、黒ベースのジャガードデザインカットソーに、同系色のドンキー襟ジャケットを羽織り、ダークブラウンのジップ付ストレッチカーゴパンツ、同色のベルトデザインドレープブーツを合わせている。

 アンティークゴールドのキーリングデザインネックレスなんて、元の世界では付けたことなんてない。

 革紐が首に触れてちょっと落ち着かない。


 その上、(ヨル)とクレアのリクエストで、アンダーリム銀フレームの伊達眼鏡をかけさせられている。


「シン君、お忍びデートで変装はお約束です」


「そうですわ、それに我が主(マイ・マスター)には眼鏡が似合うと思うんですの」


 お忍びデートて。


 多分胃を痛くしながら、アデルの手による警備が全面的に展開されてると思うぞ。

 俺達を守るというより、俺達にちょっかい出す者を事前に排除するために。


 俺の格好は、この手の衣装にも慣れている(ヨル)とクレアが、あーでもないこーでもないと二人で選んでくれたものだ。

 あっちの俺を知るものが見れば、指差して爆笑するだろう。

 そういう生き物ではなかったのだ、俺は。

 それでもこの身の若さ故か、見れないというほどではない、と、信じたい。


 (ヨル)とクレアが納得しているんであれば、それでよしとしよう。


 正直課金アイテムとしてこれらの衣装を購入した時は、我ながら苦笑いしていたことを思い出す。

 (ヨル)とクレアの現代風衣装購入に合わせてなんとなく買っていたが、意味あるのかなー、と。

 まさか有効利用する時が来るとはあの時は思っていなかった。

 

 (ヨル)とクレアの服は、彼女たちが自ら選んだいくつかの組み合わせに、俺の意見を取り入れて決定したものだ。


「これなんてどうでしょう?」


「こう言うのは好みですの?」


 という質問に延々と答え、最終的に決定した時には少しぐったりした。

 二人に言わせれば、服選びの時間もデートの内らしい。


「出逢って間もない頃なら、喜んでくれるかな? と思いながら服を選ぶのも楽しいのですけど……」


「長い付き合いですもの。どうせなら我が主(マイ・マスター)の好みの服で出かけたいというのが、今の正直なところですわ」


 とは二人の言葉。

 女の子は「楽しい」となるとなんでも楽しめるんだなあと少し感心する。

 その理由が俺というのが少し面はゆいが。


 その二人が最終的に選んだ服装は――


 (ヨル)はシンプルなデニムシャツ。

 胸元を結構大胆にあけていて、思わず目が行ってしまう。   

 ボトムはスキニージーンズと極シンプルなヒール。

 すっきりしているがゆえに、(ヨル)の綺麗なボディラインを際立たせている。

 どうしてもと譲らなかったサングラスが非常に胡散臭いが、雰囲気としては本当にお忍びの女優のようだ。


 クレアはシンプルなホワイトのカットソーに、アイボリーのプルオーバーニット。

 大きめのサイズとドルマンスリープのゆったりとした着こなしながら、胸元にあしらわれたモチーフコットンレースと、割と大胆に開いたネックラインがドキッとさせる。

 ボトムは(ヨル)とお揃いのスキニージーンズと、シンプルなヒールで合わせている。

 身体のラインを目立させ無くしそうなチョイスなのに、クレアの胸は隠しきれていない。

 こっちは黒ラウンドフレームの伊達眼鏡。

 なんで道頓堀の人形と同じような眼鏡かけて、それでも可愛くなるのか不思議だ。


 二人とも髪は何の手も加えておらず、自然に流している。

 黒と金がものすごく綺麗。

 

 この二人とデート。

 緊張する。


 というかお忍びとか眼鏡とかサングラスとか、雰囲気遊びだよなあ。


 ただでさえ目立つ二人が変わった格好で連れ立っているんだ、目立たないわけがない。

 こうやってただ歩いているだけでも、他人の視線に鋭い訳でもない俺がひしひしと感じる。

 何のスキルを使わなくてもだ。

 時折聞こえてくる呪詛の声は、幻聴であってほしいと願う。


 誰も絡んでこないのは、アデルがいい仕事してるんだろうな。

 アラン騎士団長配下の連中も駆り出されているかもしれない。


 まあここは開き直って楽しもう。

 さてどこからまわろうか。





「じゃあこれをいただきますわ。(ヨル)もいいですわね?」


「うん、いいんじゃないでしょうか。シン君にぴったりだと思います」


 皇都ハルモニア一番と名高い服飾店で、(ヨル)とクレアが俺の服を選んでくれている。

 公的な場や、戦場、もしくは今来ている通常外出時の服ではなく、これから一緒に暮らすことになる空間で身に付ける、「部屋着」だそうだ。


 男の俺が着るにはどうかと思うが、幾重にも薄い金紗を重ねた豪華なもの。

 デザインはシンプルで助かるが。


 これは二人から俺への贈り物という事らしい。

 今日から二人とプライベート空間で過ごすときにはこれを身に付けるという事だ。


 自分たちの分もお揃いで包んでもらっている。

 二人のは純白の紗を、シンプルな和服のように仕立てたものだ。


 ――あれ透けるんじゃないんですか。


 見えそうで見えない感じだろうけど、あんなもの来てうろうろされたら落ち着かないこと甚だしいと思う。

 嬉しいけど。


「ありがとう、(ヨル)、クレア」


 お礼の言葉に二人が微笑む。


 単純に楽しいし、うれしい。

 (ヨル)とクレアという、俺の妄想をそのまま具現化した美少女とデートしてるんだから、楽しくないわけはない。

 皇都ハルモニアの名所観光を巡って、食事に買い物。

 何の捻りもないデートプランしか考えつかなかったけど、俺自身が本当に楽しい。

 二人もそう思ってくれているのが伝わってくるからなおさらだろう。


「さっきの食事おいしかったです、シン君」


「料理スキルでつくるばかりじゃなくて、ああいうのもいいですわね」


 昼食をとった場所は、最近話題になっている「おいしい魔物(モンスター)」を料理として提供する店だ。

 「冒険者ギルド」が順調に稼働し始めると、その素材を利用したいろいろな店が誕生する。

 武器屋や防具屋、アクセサリー関係などはもちろんだが、この千年ほとんど入手できなかった魔物(モンスター)の肉を使った料理を提供する店は、ここ最近話題の中心だ。

 確かにさっき食べたコース料理も、かなりおいしかった。


 何の肉かは、知らないほうが良いのかもしれないが。


「さーて、次は俺のお返しだな。宝飾店で有名なところがあるからそこへ行こう」


 二人の顔がぱっと華やぐ。

 女の子って宝飾品好きだもんな、ほんとに。

 

 ぶっちゃけてしまえば三人の財布は同じと言えるし、人の世で売られている物で買えない物なんかない立場にいる三人だけど、こう言うのはそういう問題じゃない。


「いいんですか、シン君?」


「正直に欲しいもの言ってもいいんですの?」


 なんだか二人とも嬉しそうな割には、遠慮がちな空気もある。

 なんだろう。

 結婚式とかまだ先になるだろうけど、やっぱり指輪とか欲しいんだろうか。


「いいよ? 何でも言って」


「く、ネックレスが欲しいです」


「私もですわ。常につけていられるようなのが希望ですの」


 おや意外だな。

 指輪じゃなくてネックレスなのか。


 ただ(ヨル)、最初なんて言いかけた?

 不穏な言葉だった気がするが、気にしたらダメか。

 そうか。


「ゆ、指輪も欲しいと言えば欲しいですけど、それはそのあの式の時に……」


「……おなじくですの」


 はい、解りました。

 全部片付いたら、やっぱりちゃんとしたいもんな。

 指輪はその時にとびっきりのを用意しよう。

 彫金スキル結構あるから、俺が造るというのはどうなんだろうな。

 貧乏くさいか。


「これはこれはようこそおいで下さいました、シン様。(ヨル)様とクレア様に贈り物でしょうか?」


 宝飾店にはいると、さすが高級店と思わせるような身だしなみの店長らしき中年男性が丁寧に出迎えてくれた。


 他のお客はいない。


 「世界会議」が完全に手を回してるな、大したものだ。

 店長も俺達が来るのを待っていたようなタイミングで現れたし。


「ああ、二人に合うネックレスを探している」


「シン様の両翼、「吸血姫(ヨル)」様と、「聖女クレア」様に見合うネックレスが当店にあるとは思えませぬが、出来る限りの品をお出しいたします。しばらくお待ちください」


 深々と頭を下げて、いったん下がる。

 手慣れたものだと思う反面、めちゃくちゃに緊張しているのも伝ってくる。

 さっきの服飾店でも、食事をした店でもそうだった。

 店長が接客してくれ、店員たちは遠巻きに興味津々の視線を向けてくる。

 直接相対する店長は緊張しまくっていたが、店員たちにとってはイベントの一種なんだろう。


 日頃接する機会のない人たちにとっては、やはりそういう存在なんだろうな俺達は。

 (ヨル)とクレアが、フィオナと神竜(バハムート)巻き込んで「世界会議」に一発喰らわせた効果が出過ぎているのかもしれない。

 

 いやここ一連の事を考えれば、気さくに接しろという方が無理なのかもしれない。

 「冒険者ギルド」の連中でさえ、どこか遠慮はあるんだし。

 今の俺達にとって「天空城騎士団」ユビエ・ウィスピール・ナイツ団員(メンバー)は、俺達が思っているよりありがたい存在なのかもしれないな。


 約一名のぞく。


「お待たせいたしました。こちらが当店に現在ある全てのネックレスです。シン様にご予算をお聞きするのは失礼とは存じますが、一応値段順に並べております」


 さすがに有名宝飾店だけあって、豪華なものがずらりと並ぶ。

 この世界(ヴァル・ステイル)に来る前の俺なら、一生関わることが無いと断言できる品々だ。

 それをデートの記念、服のお返しで買えるんだからすごいことだよなあ。


 値段を見ると変な汗が出そうだから、見た目の印象だけで選ぶことに決める。

 でも上の方に並んでるのが高価なんだよな……


「二人はどれがいい?」


「シン君が選んでください」


我が主(マイ・マスター)に選んで欲しいんですの」


 そゆことね。

 自分で選ぶのなら、自分が欲しいときに来ればいいんだもんな。

 さっきの服のお返しだというなら、俺が選ばなければ意味がない。


 上の方に並んでいる品は、最近市場にも流れるようになった「魔石」を加工したものがほとんどだ。

 俺達にとっては「魔力補給」のアイテムだが、その美しさとこの千年入手不可能だった稀少性もあって、今貴族に大人気なのだそうだ。

 流通量は少なく、購買力を持った層に大人気。

 高価になるのも頷ける。


 だけど俺達にとってはなあ……


 各「浮島」に設置している「魔力補充用」魔石の大きさは、今この店にある全ての魔石を合わせたものより大きいものだ。

 そんなことを言えば、どんな宝石でも入手しようとすれば簡単なんだけど、実用品としている物を贈り物にするのはなんか違う気がする。


 最上段に並べられている中で、「魔石」を使用されていないものもいくつかある。

 その分めちゃくちゃ豪華で、着けてると重いんじゃないかとすら思うものが多い。


 その中で気を引かれるものがあった。


 ロココ調の豪華なデザインながら、細く美しいシルエット。

 同じデザインの物が二つ並んでおり、一つは真紅のルビーを散りばめ、一つは透明度の高いダイアモンドを散りばめている。

 俺が思う、(ヨル)とクレアのイメージにぴったりの物。


「これは?」


 俺がその二つに興味を持った瞬間、店長がしてやったりという顔をした。

 すごいな、この店長。

 今の表情から察するに、俺を狙い撃ちした商品がそれという事だ。


「はい。こちらの品はご覧のとおり今一番人気の「魔石」を使っておりません。基本的なデザインも同じとなっており、正直に申しますと……うちのトップデザイナーが、(ヨル)様とクレア様を知ったその日から、お二人をイメージして造った一品です。シン様の目に留まったことを伝えれば、感激するでしょう」


 その美しいネックレスを見る、(ヨル)とクレアの目に星が浮いている。

 自分たちをイメージして、トップデザイナーが特別に作った一品なんて、女の子の心直撃だろう。

 これに決まりだなあ。


「すごいな。「魔石」商品に並ぶくらいだから相当な原価だろう。「魔石」商品が人気な今、売れ残る事とか考えなかったのか?」


「当店はデザイナーのモチベーションを最優先しておりますので。それに当店は皇都ハルモニアにおいて最高の店であると自負しております。機会があれば、シン様が(ヨル)様、クレア様を伴ってご来店いただく機会もあるかと思いまして……」


 大したものだ。

 その予測だか賭けだかは、店長の勝利に終わり、きちんと商品は売れる事になる。

 そして今後肌身離さず二人は付けるだろうし、この店のこの上ない広告塔になってくれる。


 高貴な奥方やお嬢様に聞かれれば、(ヨル)やクレアはこの店の名を答える。

 そこで、シン君に、我が主(マイ・マスター)に、買ってもらったものだと。

 「天空城」(ユビエ・ウィスピール)御用達の名は現状、相当強力な武器になるはずだ。

 

「これでいい?」


「これがいいです、シン君」


「これがいいですわ、我が主(マイ・マスター)


 はい決まり。

 店長大勝利。


 でも本当に綺麗だ、(ヨル)のイメージであるルビー、クレアのイメージであるダイアモンド。

 そしてデザインがお揃いであることがすばらしい。


「店長、この二つをお願いします」


「お買い上げありがとうございます。それとシン様、当店のトップデザイナーがお買い上げいただいたネックレスと揃いでデザインした物がこちらでございます。こちらは差し上げさせていただきます、シン様に持ちいただければ幸いです」


 注文を確定させると、店長の横に緊張した面持ちの店員がそれ自体が超高級品であろうスエードの上に載せた宝飾品を持ってきてくれた。


「贈った相手を束縛、独占する意を持つネックレス。お買い上げいただいたネックレスには鍵の仕掛けが施されておりまして、こちらの鍵でしか外すことは叶いません」


 白金のブレード部と、真紅のルビー、透明のダイアモンドをその両面に埋め込んだヘッド部を持つ、美しい「鍵」


 一日の終わりに、俺が(ヨル)とクレアのネックレスを外すのね。

 なんかものすごいものを買ってしまった気がする。


 というかこの様子だと、他にも「(ヨル)とクレア」シリーズがありそうだなこの店。

 あとで隙を見て店長に確認しよう。

 もしあったら一式買い占める。

 (ヨル)とクレアにつけてもらうことを前提としたものが、他の誰かに買われるのはなんか嫌だしな。

 ああ、店に踊らされてる気がする。


 (ヨル)とクレアはもうあれだよな。

 たぶん包んでもらわないで、ここから付けて帰るんだろうな、今夜一緒に過ごす部屋まで。

 だって周りに星とか花とか飛んでそうな雰囲気だもんな。


 今の格好にはあんまり似合わないと思うけど、無理もないか。


 観光をして、食事をして、買い物をしてプレゼントを贈りあった。

 

 あとは同じ部屋に帰って、同じ部屋で朝を迎えるだけだ。

 ――緊張してきた。

 後日、この日シンたちがしていた格好と、鍵の仕掛けが付いたネックレスと鍵の組み合わせが、世の恋人達に大流行する。

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