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三位一体!? ~複垢プレイヤーの異世界召喚無双記~  作者: Sin Guilty
第七章 月の迷宮編

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第77話 神殻外装

 「天月迷宮」最終ステージ「月の塔」はあっさり攻略できた。


 五階層で構成された塔の、それぞれの階層主(フロアボス)を次々撃破していくだけだから、当然といえば当然だ。

 連続ボス戦の最初といえる、「自己像幻視義体マシーナリー・ドッペルゲンガー」を、未だレベルが70に届かない「天空城騎士団」ユビエ・ウィスピール・ナイツの団員で撃破出来たのだ。

 階層が上がるにつれて強くなるとはいえ、「大侵攻」以降も弛まぬ育成(レベリング)を続けていた成果で、今の俺のレベルは109、(ヨル)とクレアは107まで上がっている俺達が苦戦する相手ではない。


 ――そういえば俺のレベルが110に届けば、「権能砕き」に続く、新たな限界突破によるジョブ別特殊スキルを獲得できるはずだ。


 ボスとはいえ「練習相手にもならない」魔物(モンスター)一歩手前のレベル差があっては、苦戦のしようもない。

 華麗なる連携や、ターゲット固定もしくはターゲット回しといった、いわば熟練の技を披露するまでもなく鎧袖一触で撃破してしまった。

 「自己像幻視義体マシーナリー・ドッペルゲンガー」に苦戦とは言わないまでも奥義級の攻撃スキル連発、連携まで組み込んで倒した「天空城騎士団」ユビエ・ウィスピール・ナイツの団員は、俺達のいわば圧倒的な強さに賞賛と感嘆をくれた。

 だが、(ヨル)とクレアが見せたかったのはそうじゃない。


 もちろん俺もだ。

 

 ひとつの戦闘としての技巧、美しさといったほうがいいかもしれない。

 いや「格好良さ」か。


 それは先の「自己像幻視義体マシーナリー・ドッペルゲンガー」戦のほうがずっと上に感じる。

 俺達がやったのは「蹂躙」、圧倒的な力で一方的に叩き伏せただけだ。

 まあ命のかかっている戦闘において、それが一番理想的な形であるのは確かなのだが。


「……シン君、なんか違う気がします。みんな褒めてくれてますけど」


「……ですわね。ある意味、私たちらしいという気がしてしまう方が問題だと思いますの」


 うん、まあね。


 大技ぶっ放して叩き伏せるというのは、大味というか脳筋というか、品がないというか……

 いや「実戦」なんでそれでいいんじゃないかな、さっきは華麗な連携を見せられて、あてられてたけれど。

 あるべきは安全に育成(レベリング)して、危なげなく圧勝する事だ。

 技巧は(P)()(P)で発揮すればいい、まもなく武闘大会が開催されるわけだし。


「でも「戦闘」としては理想的とも言える。とはいえ連携の練習も必要は必要だから、ちょっと考えないとなあ」


 俺、(ヨル)、クレアの連携に不安はないが、他と合わせるとなれば練習も必要だ。

 強敵に挑まなければならない事態もありえるだろうし。


「連携の練習に当てる時間を育成(レベリング)にあてるべきだと判断します」


 茶化すわけではなく、まじめにヨーコさんが意見をくれる。


「そうじゃな。遊びであれば技を競うのも楽しかろうが、実戦においてはシン殿たちのほうが「よりよい戦い」であることは間違いない。確実に叩いて潰せる力をつけることこそが肝要じゃろう。事実、今こちらのパーティーとシン殿達が戦えば、戦術の巧稚など関わりなく叩き伏せられる」


 その意見を神竜(バハムート)も肯定する。

 俺達が神竜(バハムート)達の戦いを見て思うところがあったように、神竜(バハムート)達も俺達の戦いを見て思うところがあったのだろう。


「まあそれが事実ですよね。シン様の話によるとレベル差が30になってしまえばあらゆる攻撃一切合財が通らなくなる、つまり立ち回りなどに意味は無くなる。ということは一番必要なのは地力です。日々の鍛錬こそが最も重要で、今はシン様たちのおかげもあって、安全高効率で行える。そこに注力すべきですね」


 「天空城騎士団」ユビエ・ウィスピール・ナイツとしての「個」だけではなく、ウィンダリア皇国騎士団の長として「戦の判断」をする必要のあるアラン騎士団長の言葉は、重い。

 華麗な戦術、ギリギリの血沸き肉踊る戦い。

 そんなものはくそ喰らえなんだろう。

 部下の命を危険に晒すことなく、何の面白みもなく安全に勝利で切ればそれが最上。


 「戦い」そのものに意義を見出す「異能者」達とはまったく違った考え方。


 いや、今は()()である、神である神竜(バハムート)、異能者であるヨーコさん、人であるアラン騎士団長が、同じように俺達の安全を最優先にした意見をくれる。


 フィオナとシルリアも頷いている。


 そうか、言われて見ればもっともだな。

 もう今は「ゲーム」として楽しんでいるんじゃないんだ。

 現実となったこの世界(ヴァル・ステイル)で、さっきのような浮ついた考え方は危険だし、思い上がっている。


 カンストしているならまだしも、まだ強くなる余地がある間はそっちを優先するのが正解だ。

 レベル上限はまだ見えないが、いろいろ片付けたら一分一秒でも多く育成(レベリング)に充てるべきなんだろうな。

 (ヨル)とクレアにも意味が伝わったのか、すこし赤面している。

 俺も含めて、反省すべきは反省しよう。


「そうだな、皆の言ってくれるとおりだな。育成(レベリング)に注力する。夜もクレアもそれでいいよな?」


「はい、反省します」


「承知しました我が主(マイ・マスター)。皆様の御忠告、心より感謝しますわ」


 そういって三人で頭を下げる。

 ウィンダリア皇国三人に大いに慌てられた。

 神竜(バハムート)ヨーコさんは苦笑。


 頼りになる仲間だ。


 帰還して一休みしたら武闘大会に向けてまじめに育成(レベリング)しよう。

 武闘大会が何事もなく、ただ大会として終了するとは思えないしな。

 

 俺達こそが、何者をも確実に叩いて潰せる「力」を持っていなければならない。

 そうでなければ今進めているすべてが頓挫するのだ。

 すべてが落ち着けば、(ヨル)とクレアと、冒険者として世界(ヴァル・ステイル)を廻ってみたいという目的も果たせなくなる。

 アストレイア様の探索は、今回の件で片がつく気がしているが。


「それで、「天月迷宮」をクリアしたわけですけど、シン君の力になるものってなんなんでしょうね」


「ボスから「天空城」(ユビエ・ウィスピール)を強化できそうな「制御ユニット:???」はドロップしましたけど、これじゃありませんわよね?」


 そう、のんきな会話をしているけれど、たった今「天月迷宮」の最終ボスを撃破したところだ。


 それがドロップしたのは「制御ユニット:???」だった。

 依然ボス系からドロップしたこの系統は「天空城」(ユビエ・ウィスピール)に「浮島」を追加する物だったから、今回も期待していいだろう。

 とはいえわざわざ千年前から仕込まれたメッセージの語る「力」がこれだというのであれば、少々拍子抜けである事も確かだ。


 と思っていると、「神の目」(デウス・オクルス)が立ち上がる。


 よし、やはり別の何かは仕込まれているんだな。

 ダリューンがああいう言い回しをして、肩透かしを食らうことはまずないといっていいから、何かあると思ってはいた。

 「神の目」が強制的に立ち上がるということは俺自身を強化する系統だったのか?

 

 さて何が出るやら。


『天月迷宮最深部に、対象者到達を確認』


『――PATER「シン」 確認』


『――FILIUS「クレア」 確認』


『――SPIRITUS SANCTUS「(ヨル)」 確認』


『――DEUS「?????」 エラー』 


『起動条件クリア。「天月迷宮」上空に「方舟(アーク)」を展開します。』  


 「方舟(アーク)」と来たか。


 また暗示的な……


 「天月迷宮」の古代遺跡(ジオフロント)機械(マシン)魔物(モンスター)から感じる、先史文明――この世界(ヴァル・ステイル)よりも前の世界の存在をにおわせる事実と、妙に符合する名称。


 神が滅ぼした世界から、選ばれたものだけを次の世界へ運ぶ「方舟(アーク)

 その中には何があるというのか。

 「天月迷宮」の「逸失技術(ロスト・テクノロジー)」のレベルからすれば、相当にSF系のギミックなんだろうなというのは予測がつく。


『制御権限を「天空城」(ユビエ・ウィスピール)に移譲……完了。「聖櫃(ハンガー)」へ転送可能です。行いますか? Y/N』


 即、転送可能か。

 躊躇する理由はないな。


「例によって「神の目」にメッセージが来た。「天月迷宮」上空に「方舟(アーク)」とやらが出現したみたい。ここから直接転送できるみたいだから、行くね?」


 みなが頷いて首肯を示す。


 心なしか神竜(バハムート)の挙動がぎこちない。


 やっぱり何か知っているんだろうな。

 ダリューンが「堕神群」と接触して行動していたというのであれば、その仕込みを神竜(バハムート)がまるで知らないというのは考えられない。

 普通に考えればダリューンが今どうなっているのか、「堕神群」の本当の狙いがなんなのかも知っていてしかるべきだろう。

 神竜(バハムート)の神格はこの世界(ヴァル・ステイル)の神々の中でも、創世神アストレイア様と並んで最上位のものなのだ。


 「聖餐」(エウカリスティア)による俺の支配下にあるし、本人もいたって協力的だ。

 次の「堕神」を解放すればすべてを話すと、あの男が約束している。

 そうである以上、神竜(バハムート)にあれこれ聞くのは控えていたが、そうもいかないのかもしれない。


 これから何を見ることになるにしても、少なくとも神竜(バハムート)はそれを知った上で今俺達と行動を共にしているんだろうし。


 それともう一つ気になる文言があったな。


 『――DEUS「?????」 エラー』


 「PAT()ER」を担うのが「シン」、「FIL()IUS」を担うのが「クレア」、「SPIR()ITUS SANC()TUS」を担うのが「(ヨル)」なのは解る。


 それで三位一体が成立するからだ。


 ではエラー表示されたDEUS「?????」とは?


 「宿者」(ハビトール)としてのシン、夜、クレアが三位一体のそれぞれの要素を担うのであれば、三人が違う存在でありながら、同じ存在でもある「DEUS」


 それを担うのは「プレイヤー」である「俺」じゃないのか?

 それが「エラー」とはどういう意味を持つのか。


 そんなことを考えていると、転送が開始された。






 転送された先は暗闇だった。

 だが足元の感覚はしっかりしている。


『神殻外装「神竜(レヴィアタン)」の「操者」および「制御者」を確認。「聖櫃(ハンガー)」の全機能を起動します』 


 闇に覆われたまま、突然「神の目」ではなく、通常の音声によりアナウンスがなされる。

 それにあわせてヴォンヴォンという濁った音と共に、暗闇であった空間に人工光が点る。

 巨大な何かが開いていっているような音が重なる。


 ――というか神殻外装ってなんだ?

 ――「神竜(レヴィアタン)」ってどういうことだ。


 すべての明かりが点灯され、暗闇は払拭される。

 思っていたよりもずっと広大な空間に、()()は固定されていた。


 神竜(バハムート)の本体とほぼ同等の巨躯。

 ただし青が基本の神竜(バハムート)とは違い、黒。

 それ以外の見た目は神竜(バハムート)に酷似しているが、五対十翼の副翼は持たない。

 その代りというわけではないだろうが、身体の各部は「装甲」――そういっていいだろう、機械的なもので覆われ、何らかの機能をもっているであろう「装置」が各所に設置されている。

 神竜(レヴィアタン)本来の身体が、そのまま外に触れている部分などほとんどないと言っていい位だ。

  

 ――これが「神殻外装」


 神竜(バハムート)と同格の神竜(レヴィアタン)本体を使った、人の手による制御が可能な強化外装――文字通り「神殻外装」というわけだ。


 巨大兵器を固定、整備する――これも文字通り「聖櫃(ハンガー)」という訳か――ためのタラップや固定具に覆われ、動くことなく屹立している。

 巨大ロボットもののように、なんの為かはわからないケーブル類も多数接続されている。

 空中を移動可能な「格納庫」、それが「方舟(アーク)」という事だろう。 


 「操者」および「制御者」ということは、俺、(ヨル)、クレアが()()を操作可能という事を意味する。

 「神竜」の本体をそのまま兵器にしたものが存在するとは。

 だが「聖櫃(ハンガー)」に固定可能なスペースは二体分あり、その片方は空いている。


「これは……」


 アラン騎士団長が声を漏らすが、後が続かない。

 確かに何を言っていいか解らなくなる、こんなものを目の前にしては。


神竜(バハムート)の「分体」という訳では……ありませんのね?」


「シン君、これがダリューンの言う力、ですか?」


 クレアと夜の疑問に答えぬまま、神竜(バハムート)のほうを見る。

 神竜(バハムート)は左手で己の白面をはずし、その竜眼で巨大な「神殻外装」――神格を同じくする神竜(レヴィアタン)をじっと見上げている。


 泣いているわけではない。


 だが俺のような鈍感な人間にでも、万感の想いがこもった視線だというのは理解できる。

 軽いノリが信条の我が「天空城騎士団」ユビエ・ウィスピール・ナイツの団員も、誰も余計な事を言わず口を噤んでいる。


 神竜(バハムート)の本体とそっくりといっても言い神竜(レヴィアタン)が、神竜(バハムート)と何の関係もないなどありえない。

 そしてこの「聖櫃(ハンガー)」は、誰がどう見ても「二体分」の物だ。

 今、神殻外装「神竜(レヴィアタン)」を固定しているのとまったく同じ装備一式が、その対象のないままに広大な空間を遊ばせている。


 普通に考えれば、あそこに居たのは神竜(バハムート)という事なのだろう。


 誰も何も言わない。

 何も言えない。


 どれほどの沈黙の時間が流れたか――


「シン殿。それに「天空城騎士団」ユビエ・ウィスピール・ナイツ()()らよ」


 ポツリと神竜(バハムート)がつぶやいた。


「時が来たらすべてを語る事を約束しよう。今は我が許されている範囲だけでもよいか?」


 全員が黙って首肯した。

 これより神たる竜の、真実の一端が語られる。

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