第76話 剣戟 連携 決着
「天空城騎士団」の団員が、「自己像幻視義体」を仕留めにかかる。
連携の初手は神竜か。
万一の事もよく考えている。
もし削りきれなかったとしても、狂乱モードに入った「自己像幻視義体」が最初に使用するのは初手の神竜がこれから使う攻撃スキルか、自身の持つ直線上の敵をまとめて薙ぎ払う光線技「破壊光線」になる。
――若い人には「タ○リンレーザー」と言っても通じないんであろうか。
「F.D.O」にこのスキルが実装された時、一定以上の年齢であるプレイヤーは大喜びしたものだ。
このスキルを使いたいがために「奪術士」が一時的に大流行したり。
ちなみに俺も使える。
ともあれ。
これなら事前に意思統一をしておけば、盾職である「正騎士」、アラン騎士団長であれば凌げる。
誰にターゲットが行くかわからない状況下であっても、一カ所にまとまっていれば問題ない。
いかに狂乱モードに入っていると言っても、連続で大技を使ってくることはない。
返しの手で戦線崩壊させられなければ、その硬直に止めを叩き込むことは充分可能だ。
一番恐ろしいのは全体攻撃による被ダメージ硬直を喰らって、畳み掛けられる事。
そうなれば後衛ジョブがやられる可能性が高くなるし、最悪盾が沈めば全滅もあり得る。
ゲームではなく現実となったこの世界においては、一人でも倒された時点で実質敗北となるわけだし、慎重であるに越したことはない。
今までの戦いの流れから、「自己像幻視義体」の攻撃パターンを見切り、止めのフローを構築できているのは大した連携力と言っていいだろう。
これは俺達の介入要らないかもしれないな。
「シン君、これ神竜、フィオナ、ヨーコさん、アラン騎士団長の連携で、最後に神竜の本体召喚で止めのプランですよね」
「そんな感じですわね。万一削りきれなくても返しの手はアラン騎士団長が凌いで、ヨーコ様が改めて止めと言ったところですわ」
二人とも俺と同じような見解をしている。
三人で何度も難敵の最後を削りきる経験はしているから、「天空城騎士団」の保有戦力から導き出される連携は似たものになる。
「うん、多分そんな感じ。シルリアは回復に専念させて、四人による大技五連発で反撃を許さないまま撃破。多分「連携ダメージ」も仕込んでくるんじゃないかな。まず間違いなく沈められると思うし、万一の事も考えられてる。純粋な戦闘となると頼りになるよね、みんな」
釣りのようにややこしいことではなく、目の前の敵を倒すことに特化すればみな相当にやる。
実戦経験のなかったシルリアも回復役としてはよく頑張っている。
現在ターゲットされている神竜を「自己像幻視義体」が模倣する。
大技を叩き込む隙をつくるために、初手役の神竜は通常の攻撃で相手を出し抜く必要がある。
神竜の場合、小太刀二刀流による剣戟で模倣されたそれを凌駕すればよい。
双刃抜刀。
二刀とも鯉口を左にして、腰後ろに提げている拵から逆手で持つ。
鍔はなく、はばきのみの造り。
同じように構える「自己像幻視義体」に対して、「瞬脚」を発動させて突っかける。
左右へのフェイントを仕掛けてからの左右からの切り込み、それらはすべて相手の刃で流される。
響く剣撃。
体術による捻りこみを加えて連続の斬撃、そこから軽くジャンプし、上から叩きつけるように双刃を叩き込む。
ギィイイイイン!
全て受けられた。
濁った音を立てながら、お互いの刃が火花を散らせる。
押し合う圧力に負けて、足場が爆砕し、煙に包まれる。
互いに一旦距離を取る。
吹き上がった煙が流されるまで動きを止める。
片膝をついて神竜を見据える「自己像幻視義体」。
対して神竜は今まで双方とも逆手に持っていた小太刀を、左手のみ順手に持ち変える。
行く気だ。
神竜の両足に加速術式が掛かったエフェクトが発生する。
ここから超高速の連撃で強引に隙をつくるつもりだ。
身を沈め低い姿勢になってから、まるで消えたかのように一瞬で距離を詰める。
目の前で急激に停止、間合いギリギリに体を回して二連撃、刃で受けずに交わされると同時に蜻蛉を切って相手の後ろに回り込む。
振り向かれる前に、「空蹴」で地面へ沈みこむように着地、刀ではなく腰を入れた蹴りを相手に叩き込む。
背後頭上からの刃を受けようとしていた敵の裏をかき、胴に蹴りが直撃。
すっ飛んで行くが受け身を取ってこちらに構えなおしている、まだ決定的な隙とは言えない。
すっ飛んで行く方向へ「瞬脚」を発動、体勢が崩れている敵へ下段から刀を振りぬく。
両刃を交差させて受けられ、その圧力で今回は自分の足場が爆砕する。
再び吹き上がる煙の中、仕切り直しとばかりに空中へ距離を取る「自己像幻視義体」。
おそらくは神竜の狙い通り。
すぐさま右逆手に持っていた漆黒の無銘刀を順手に持ち替え、投刀スキル「柄押し」を発動。
スキル発動の証である呪印を纏わりつかせた漆黒の無銘刀が空中の敵へ向かって一直線に飛んでいく。
自動追尾式スキルなので外すことはない。
仕切り直しのつもりで距離を取った相手は、二刀のうち一刀を投擲してくるとは読んでいないだろう。
当たる確率は高い。
直撃した。
現在の神竜の佩刀は、「愛染国俊」――山城国来派の刀工、二字国俊の銘と、茎の表に刻まれた愛染明王の彫を持つ、秀吉から家康にわたったという来歴を持つ名刀である。
小太刀二刀流を使用する神竜は、一刀を「愛染国俊」、もう一刀を無銘の黒塗小太刀とし、変幻多彩な刀技を得意とする。
アラン騎士団長の佩刀、「之定」――和泉守兼定に劣らぬユニーク武器であり、ユニーク武器の特徴である専用攻撃スキルを持っている。
今投擲した無銘黒塗小太刀が、空中に逃れた「自己像幻視義体」に突き刺さったことを確認した神竜が、左手に順手で構える「愛染国俊」を左水平に降り出し、そのスキルを発動させる。
愛染明王の加護による攻撃スキル「獅子吼」――明王である故の憤怒を焔に変え、敵に叩き込む大技だ。
一面三目・六臂の愛染明王が背後に出現し、その頭上の獅子の冠が光を帯びる。
その色は愛染明王を象徴する赤、紅蓮の色である。
その状態で、神竜は空中を吹き飛んでいる「自己像幻視義体」まで「瞬脚」で一気に距離を詰める。
相手は被ダメージ硬直が発生しているため、躱される恐れはない。
連携の開始だ。
刺さっている無銘黒塗小太刀の柄を、右手でつかんで捻り、抜く。
金属が抉れる、不快な音が響く。
その引いた右腕と入れ替えるように左手の「愛染国俊」を勢いよく突き込む。
ギィン!
という鈍い剣撃とともに、柄元まで「愛染国俊」が「自己像幻視義体」の胸元まで沈み込む。
「――吼えろ、愛染明王」
ひどい。
アラン騎士団長耐えろ、次の出番は多分フィオナだが、膝を折ってる場合じゃない。
初手故に剣戟のあった神竜と違い、ここからは大技連発による連携だ。
あっという間に出番回ってくるぞ。
機械系の魔物に強い属性は、雷と――五行説に従い「火剋金」、火だ。
「愛染国俊」の固有攻撃スキル「獅子吼」が発動する。
明王の憤怒を紅蓮の焔として具現化させ、敵を焼き尽くす大技。
柄元まで刺さった状態で発動したため、「自己像幻視義体」の内部を愛染の焔が駆け巡り、関節部などの接合部分から噴き出す。
その状態で空中から地面に叩きつけられ、長い被ダメージ硬直に入る。
ここからは大技の連発だ。
俺達の予測通り、次はフィオナが「天を喰らう鳳」の大技に入っている。
「古代術式」や「竜言語術式」ではない術式行使に詠唱は必要ない。
必要なのは精神集中と発動の意志だけだ。
その精神集中をしやすくするという建前の下、技名を唱えたりオリジナル詠唱を構築する兵も居るには要る。
けして俺やアラン騎士団長だけが、オトコノコのかかる不治の病に冒されている訳ではないのだ。
ゲームである「F.D.O」では、マクロに組んでオリジナル詠唱してる人結構いたなあ、そういえば。
初期はおおらかなものだったが、中期以降はそういうのは嘲笑の対象になっていた。
さびしいとは思わんか、アラン騎士団長。
俺達だけでも少年の心を持ち続けたいものだ、女性陣に笑われても。
「――焼き尽くせ、「天を喰らう鳳」――「日輪喰」」
フィオナお前もか。
いや実は結構気に入ってるんじゃないのか、技名言うのとか、オリジナル発動文言とか。
そうだろ、そうなんだな?
流行らそうぜ、「天空城騎士団」が率先してやってればそれが「かっこいい」事になるかもしれないし。
武闘大会で一気に流行らせよう。
重要なのはテレを無くすことだ。
だから膝を折るな、アラン騎士団長。
「天を喰らう鳳」の炎属性大技、「日輪喰」
天――それを象徴する太陽を喰らい、その身に宿して敵にぶつかるという、科○忍法「火の鳥」のような派手な技。
未だ被ダメージ硬直から回復できていない「自己像幻視義体」に直撃する。
これで二連撃。
とはいうものの、属性が火から火なので「攻撃スキル連携」による追加ダメージは発生しない。
おそらく次のヨーコさんが水属性を撃ち、アラン騎士団長が木属性でつなげて「水から木の連携ダメージ」、そこから最後の神竜が火属性の大技でつなげて「木から火の連携ダメージ」で仕留める予定のはずだ。
ヨーコさんの氷属性は機械系の魔物にそこまで有効ではないが、ヨーコさんの遠距離単発系となると「氷術式」に頼るしかない。
次につなげるアラン騎士団長が放つであろう「木」属性の技は機械系の魔物に相性が悪いが、そこで初弾連携が発生する。
ヨーコさん、アラン騎士団長の属性相反によるダメージ減を計算に入れても、「水から木」「木から火」の連携ダメージを発生させた方が最終的なダメージ総量は多くなる。
特に神竜が最後に撃つ大技が、二連携目の「火連携」としてダメージ上乗せされるのが大きい。
連携は繋げればつなげるほどダメージは高くなり、二周目になればエフェクトも変わる。
最大の三周目まで行けば、発動したスキルそのものより連携ダメージの方が大きくなるくらいだ。
エフェクトも物凄く派手になるし。
予測通りヨーコさんが氷系術式最上位を発動させる。
俺もこれからの派生技を喰らった「帝王氷龍瀑」
「我が意志持ちて嘆きの川の氷室より出でよ、裏切者を封ずる氷。我が敵は汝が敵なり。龍となりて敵を穿て、「帝王氷龍瀑」」
……ヨーコさんノリノリ。
これはもう、アラン騎士団長をおちょくるためにやってるんじゃなくて、詠唱気にいってるよな。
これで本当に威力も上がってたらどうしよう。
というかテレなく、綺麗どころがこういう詠唱するのはやっぱりかっこよく感じてしまう。
もう俺は手遅れなんだろうな、いろいろと。
俺の時とは違い、今回は被ダメージ硬直中なので外す心配はない。
「帝王氷龍瀑:八岐」に派生することなく、そのまま直撃する。
さっきまで炎に包まれていた「自己像幻視義体」が氷に覆われ真っ白になっている。
温度差で崩壊してもよさそうなもんだが、そうもいかないようだ。
これで三連撃。
火から水は繋がらないので、今回も「連携ダメージ」は無し。
次からだ。
「連携」は五行説が基になっているため相生に従い、「火生土」「土生金」「金生水」「水生木」「木生火」で発生する。
つなげるためには五行を一周させねばならないので、属性相性が悪い攻撃も含まざるを得ない。
それでも「連携ダメージ」を加味すれば、単独の弱点属性攻撃を上回る。
「侍」が好まれたのは、この「連携ダメージ」を単独で発生させられる最初のジョブだったからという事も大きい。
弱点属性も五行説、相剋に従う。
即ち「火剋金」「金剋木」「木剋土」「土剋水」「水剋火」となる。
弱点属性については他にもいろいろ要素があって複雑だが。
次は精神にかなりの傷を負っているであろう、アラン騎士団長が技を繋ぐ。
今回は「之定」の固有攻撃スキル「三十六歌仙」ではなく、通常刀攻撃スキルの「木」属性の現状最強技「伍の太刀:千本桜」を発動。
「…………」
どうしたアラン騎士団長。
絶対にあるはずだ、「伍の太刀:千本桜」に対応した発動文言も。
もっと本気出せよ、照れてる場合じゃないだろう。
俺はあれだ、ヨーコさんみたい長いのも嫌いじゃないが、アラン騎士団長のセンス好きだよ。
千本桜なんかかっこいいの考えてそうじゃないか、後で絶対に聞こう。
「――咲狂え。裂狂え。――伍の太刀:千本桜」
おお、開き直った。
少し声が小さい気がするがかっこいいぞアラン騎士団長!
大事なことなので二回言ったのか、技にちなんだ意味を持たせているのか。
多分後者だな、勘だが。
夜とクレアが小さく拍手している。
よし、さっき封印を誓ったばかりであれだが、詠唱、技名、発動文言は「天空城騎士団」のお約束にしよう。
そして世界に流行らせるのだ!
なあに「天空城騎士団」なんて結成している時点で俺はもう手遅れだ。こうなったらとことんまで開き直って楽しんでやる。
――降りぬかれた刀線にそって、無数の桜の花弁が舞い散る。
花弁一枚一枚が覆う様にして、無数の斬撃が「自己像幻視義体」を襲う。
これで四連撃。
今回は「水生木」、「連携ダメージ」が発生する。
「自己像幻視義体」の足元から木の根が襲いかかるエフェクトが発生。
敵の各部を木の根が穿つ。
順調だな、次の神竜でラストだ。
たぶんこのまま削りきれる。
神竜の「分体」が膝をつき、右手を地につける。
そこを中心に巨大な魔法陣が広がり、空中にも半円形の魔法陣が描かれる。
「分体」を呑みこむようにして神竜本体の巨躯が顕現する。
神竜本来の攻撃スキルは「分体」では行使できない。
使いたければ「分体」から本体顕現するしかないが、ボス戦のフィールドであれば充分その広さはある。
今回も問題なく顕現完了した。
空中に浮かぶ本体の巨躯、その前に多重化した巨大な魔法陣が連続で発生する。
神竜の主力攻撃である「フレア」系は無属性攻撃スキルなので今回使わない。
行使するのは神竜が持つ「火」属性の攻撃スキルで最大の「火焔天呪印」
新曲ダンテにおいて、月と地球の間にあるとされる火の本源。
焔が上へと向かうのは、己の本源である「火焔天」へ回帰しようとするからとされている。
「火焔天呪印」は敵に刻んだ呪印を通して「火焔天」に繋ぎ、内から焼き尽くすとともに、この世界に在る焔すべてがその呪印に集中するという火炎術式だ。
発動と同時に「自己像幻視義体」の内と外から膨大な焔が燃え上がる。
完全に焔の塊となっている「自己像幻視義体」に、「木から火」と繋がったことによる連携ダメージが発生。
半透明の黒い球体が紅黒い炎線を走らせながら収縮し、一瞬モノクロの世界に見えるほどのエフェクトを発生させて黒焔が「自己像幻視義体」を包み込む。
そのエフェクト消滅と同時に、「自己像幻視義体」が沈む。
万一に備えていた俺達と、削りきれなかった場合の反撃に備えていたアラン騎士団長の肩から力が抜ける。
大したもんだ、きっちり格上の敵を連携で削りきった。
パーティーとして充分以上に機能している。
さすがにうれしいのか、皆から歓声が上がっている。
「シン君、シン君、私たちも戦いましょう。なんかこう、じっとしてられない感じです」
「そうですわ我が主。「月の搭」に入って以降はさすがに危険度が高いはずです。私たちで確実に突破するべきだと思いますの」
うんわかる。
さっきみたいに見事な連携見せられると、自分たちも決めたくなるよな。
今までは基本見ていただけだし、ここからは俺達に譲ってもらってもいいだろう。
ソロで無双も楽しいが、完全に機能したパーティー戦、特に連携を組み込んだものはまた別の楽しさというかやってやったぜ感がたまらない。
夜もクレアも、「天空城騎士団」の団員の奮闘を見て刺激されたのだろう。
かくいう俺もその例外ではない。
「そうだな、見てるだけってのはつまらんしな」
よっし、「天月迷宮」ボス撃破まで一気にやらせてもらうとしよう。
その前にみなを回復してから、「月の搭」入りだな。
ところで何ドロップしたんだろうな、今の中ボス戦。