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三位一体!? ~複垢プレイヤーの異世界召喚無双記~  作者: Sin Guilty
第七章 月の迷宮編

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第75話 強敵との戦い方

 ギィン! という鈍い剣撃を残し、神竜(バハムート)が蜻蛉を切って距離を取る。


 「天月迷宮」最終ステージである「搭」、その入り口を守護する中ボス「自己像幻視義体マシーナリー・ドッペルゲンガー」と絶賛対戦中である。

 RPGではお約束と言っていい「自分の能力をコピーする敵」を、機械的に再現した相手が「自己像幻視義体マシーナリー・ドッペルゲンガー」だ。

 素体が機械系の敵であり、相手を模倣していない状況でも充分強い。

 その上、己の使うスキルや術式をほぼ同レベルで使用されるので、レベル的に格上の場合かなりの難敵である。

 何よりHPが一定を切り「狂乱」モードに入ると、複数の能力をコピーした上、通常時よりもずっと速いサイクルでそれを連発してくるという点が厄介だ。

 うまい削りと、最後の畳み掛けが何より重要な敵なのだ。

 適正レベルでそこをしくじれば、最悪敗北もあり得る相手である。



 レベルが一定を越えると、「強い」以上の魔物(モンスター)と戦う際に一対一というのは現実的ではなくなる。

 今のようにボス系ではなくても、味方多数 対 敵単体を前提にしなければ勝利は覚束なくなる。

 逆に言えば「同じくらいの強さ」の敵以下であれば、対多数の強力な技を使えば無双可能なので、プレイヤーによって育成(レベリング)を結構好きなように出来るのも、「F.D.O」フィリウス・ディ・オンラインの人気を支える一つの柱だった。


 同格以下の魔物(モンスター)を無双で大量に倒す事を好むプレイヤーは、基本ソロで独立型戦闘空間インスタンス・エリアで延々と育成(レベリング)を行う。

 俺はどちらかと言えばこのタイプだった。

 安全に、爽快に、確実に育成(レベリング)可能だ。


 一方、仲間との協力によって強敵を倒すことを好むプレイヤーは、オープンフィールドの「強い」魔物(モンスター)をうまく「釣って」――敵対()意志()共有()する魔物(モンスター)をその範囲から単体でうまく誘い出すことをそう呼んでた――パーティーメンバー全員で連携して倒すことによって育成(レベリング)を行う。

 

 ――連携して倒すと言えば聞こえはいいけど、あれ集団で袋叩きにしてるだけだよな、実際は。


 「効率」だけで語るのであれば、六人フルパーティーで「強い」以上の魔物(モンスター)を高速で狩れれば、ソロまたはパーティーで同格以下に無双するよりも、相当高効率で育成(レベリング)可能だ。

 上級者ともなれば「とても強い」魔物(モンスター)や「とてもとても強い」魔物(モンスター)を狩ることも可能になる。

 

 最高効率を愛してやまない、それこそが「爽快」なのだと言い切って揺るがない一部の方々。

 多少非効率だが、安全で気持ちいい爽快感など「温い」と断ずる(つわもの)

 

 俗に「廃人」と呼ばれる人たちは、ほぼ固定のパーティーを組み、物凄い勢いで各ジョブを育成(レベリング)する事を好んだ。


 新ジョブ実装後などは、低レベル帯からカンスト域まで、効率のいい魔物(モンスター)がいるフィールドは混雑したりもしていたものだ。

 「釣り合戦」なども発生し、「我々の獲物を取っていくパーティーがいる」という主張をする側と、「()()()()()なんてオープンフィールドにはいない。悔しければ俺達よりはやく釣れ」と主張をする側が、ゲーム内どころかネット上でも争うのは日常茶飯事であった。

 「強い」以上の魔物(モンスター)を一定時間以内に連続で倒せば、「連続撃破特典(チェインド・ボーナス)」が付く為、こう言った争いはよく発生していた。


 何のために独立型戦闘空間インスタンス・エリアがあるんだと、個人的には首を傾げたものだ。


 だが「連続撃破特典(チェインド・ボーナス)」を切ることなく、交互に「休憩(ヒーリング)」すらこなして狩り続ける上級者の連続狩りは、傍から見ていても芸術的なレベルまで昇華されていた。

 

 しかしゲームではなく、現実となれば事情は変わってくる。


 「同じくらいの強さ」以下の魔物(モンスター)を無双して倒すのは、当然リスクが少ない。

 多数に囲まれてもなんとかしやすいし、常にギリギリで戦っている訳ではないからだ。


 翻って「強い」以上の魔物(モンスター)を対象とした狩りは、言うまでもなくリスクが高い。


 六人フルパーティーであるとはいえ、「連続撃破特典(チェインド・ボーナス)」を狙えば常にギリギリの戦いを強いられる。

 連携が乱れればそこから崩壊する可能性も高いし、盾役が魔物(モンスター)のターゲットを維持できなければ、防御力に劣る術式職などが各個撃破されかねない。

 現実となった事で物理的な攻撃はターゲットが誰に向いていても防げるが、術式系攻撃はゲームと変わらずターゲットへ向かうからだ。

 

 何よりも、「釣り」ミス一発でパーティーが崩壊するという危険を常にはらんでいる。


 基本「釣り狩り」は安全地帯で行うが、釣りの最中に好戦的(アクティブ)魔物(モンスター)に絡まれることも充分にあり得る。

 その魔物(モンスター)がパーティーの対処能力を超えていれば、それで全滅だ。

 

 ゲームであれば笑い話で済むが、現実ではそうもいかない。

 「強さは?」「とら」とか洒落にならない。

 「おk」と答えたら死者が出る。


 とはいえこの世界(ヴァル・ステイル)で、ゲームである「F.D.O」フィリウス・ディ・オンラインを知るのは本質的には俺だけだし、再建された冒険者ギルドの「冒険者」達はパーティーで「同じくらいの強さ」以下の魔物(モンスター)を狩ることを徹底しているため、そのような光景を見る機会はなかった。


 だがここに至るまでに、「釣りミス」の最たるものを経験する事になった。

 よく大事に至らなかったものだ。


 最終ステージとなる「月の搭」に続く大通りには、好戦的(アクティブ)魔物(モンスター)である「大型守護人形(ゴーレム)」が複数起動していた。

 幸か不幸か「名前付」(ネームドモンスター)湧出(ポップ)していなかったので、「天空城騎士団」ユビエ・ウィスピール・ナイツで狩ることを提案してみたのだ。

 今戦っている中ボス以降、クリアまでの「月の搭」の魔物(モンスター)はすべてパーティー対ボスの戦いになる事だし、パーティー連携のいい練習にもなると思っての判断だ。


 その際に「釣り」についても説明した。


 未だ「冒険者ギルド」の冒険者たちが相手にするのは、非好戦的(ノンアクティブ)魔物(モンスター)がほとんどであったし、「天空城騎士団」ユビエ・ウィスピール・ナイツのメンバーも皇都ハルモニア地下の迷宮(ダンジョン)――基本的に敵対()意志()共有()する魔物(モンスター)配置が存在しない――での育成(レベリング)ばかりだったので、初めての体験と相成ったのだ。


 万一の事態になっても俺達がいるから大事にはならないと考えていた。

 湧出(ポップ)している「大型守護人形(ゴーレム)」がすべて敵対()意志()共有()したとしても瞬殺できるからだ。


「成程合理的です」


宿者(ハビトール)の方々はいろいろ考え付くものですわね」


「私は正直ちょっと怖いです、その役」


「やはりここは男である私がやるべきですかね」


「いや、遠隔攻撃スキルを持ち、耐久力も敏捷度も高い我が適役ではないかな?」


 との会話から、神竜(バハムート)が釣り役をすることになった。


 本来であれば、好戦的(アクティブ)魔物(モンスター)にも絡まれない召喚獣である「天を喰らう鳳」を駆使できるフィオナがもっとも適役ではあるのだが、ここでは他に好戦的(アクティブ)魔物(モンスター)もいない。

 であれば神竜(バハムート)が適役というのも間違ってはいないので、パーティーの決定に口を出すことは控えた。



 そうして信じて送り出した神竜(バハムート)が泣き顔、全数敵対()意志()共有()状態で戻ってくるなんて。


「シン殿、死ぬ。だめ、我死ぬ。次喰らったら死ぬ」


 うん、自分よりレベルが上の魔物(モンスター)八体に敵対()意志()共有()されたらさすがの神竜(バハムート)でも死ぬよね。


 血の気が引いた。


 どうやったらあの状態で釣り損ねるんだ。

 最悪でも二体引っかけるくらいだと思ってたから、信じて送り出したのに。

 ついていけばよかった。

 というかミスったらその時点で報告してくれ、神竜(バハムート)


 めちゃくちゃ慌てたせいで、俺と(ヨル)とクレアが最大技で消し飛ばした。

 完全にオーバーキルだ。


 神竜(バハムート)は「釣り」の概念は理解していたが、「釣り方」をよく理解できていなかったらしく、何を思ったのか釣りに使った遠隔攻撃スキルが範囲攻撃。

 めでたくその場に居た「大型守護人形(ゴーレム)」全てを引き連れての帰還となった訳だ。


 意外とお前もポンコツなのか、神竜(バハムート)

 遠い昔、(ヨル)もクレアも似たようなことをやらかした記憶が……

 いや、やらかしたのは「俺」なんだが。


「我は釣り怖い。もういい。――あと巻き込みそうになってごめんなさい」


 膝を抱えて隅っこで震えながら、クレアの回復術式を受けている。

 レベルに関係なく圧倒的なHP量を持つ神竜(バハムート)だからこそ助かったと言えるだろう。


 要らんトラウマが神竜(バハムート)に生まれてしまった。

 というかあんなに慌てた神竜(バハムート)初めて観た。


 そりゃそうか。


 世界(ヴァル・ステイル)の始まりから生きていて、死にかけたのは初めてだろうし。

 慌てて本体召喚とかやらかさなくて本当に助かった。

 巨躯が仇になって、全弾喰らって瞬殺されてた可能性もあるもんな。


 「釣り狩り」で一番怖いのが、この釣りミスから発生する敵対()意志()共有()だ。

 現実世界では「エリア逃げ」なども使えないから、やらかせば一発でアウト。

 やっぱり無難に無双狩りするのが一番だなこれは。


 「天空城騎士団」ユビエ・ウィスピール・ナイツの他の団員も完全に腰が引けていた。

 まあ無理することはないし、現実となったこの世界(ヴァル・ステイル)でする育成(レベリング)スタイルでもないということだろう。


 安全第一で行こう。


 パーティー連携の練習は出現数が確定していて、敵対()意志()共有()の発生しない「迷宮ボス」ですればいいという結論になった。

 「フィールドボス」だと、「アルク・ガルフ」と「ガルフ」の様に敵対()意志()共有()するのもいるしね。



 で、今に至るというわけだが、さて。


 「自己像幻視義体マシーナリー・ドッペルゲンガー」は難敵だが、レベル的には倒すことは十分可能、というよりはこれくらいは倒せないと困るレベルだ。

 五対一で倒せないというのであれば、それは連携がなっていないという事になる。

 だが今のところ、上手く立ち回っていると言っていいだろう。


 アラン騎士団長と、神竜(バハムート)、ヨーコさんがターゲットを上手くまわしている。


 「自己像幻視義体マシーナリー・ドッペルゲンガー」が持つ最大技は、現在ターゲットしている対象と同じものになるので、大技が出るタイミングでフィオナの「天を喰らう鳳」が最強単体攻撃スキルでターゲットを取り、その攻撃で反撃を自身に受けて消滅する。


 次の大技までにフィオナが再召喚する流れだ。


 それまでの攻撃は三人がターゲットを回し、シルリアの回復術で完全回復可能な程度のダメージに抑える。

 メイン盾としてアラン騎士団長にターゲットを固定していては、万が一飽和攻撃を喰らってアラン騎士団長が沈む虞がある。

 「安全」を第一に立ち回る「天空城騎士団」ユビエ・ウィスピール・ナイツの団員たちには、安定感がある。

 

 だが問題はここからだ。


 うまく敵を削り、いいところまで持ってきている。

 これ以上ダメージを与えれば、「自己像幻視義体マシーナリー・ドッペルゲンガー」はHPの減った時に発動する「狂乱」モードへシフトする。

 定石であれば、そこへ入るギリギリ手前から、一気に削りきる。


 今ちょうど「自己像幻視義体マシーナリー・ドッペルゲンガー」のHPはその域へ入る直前だ。


 どうやらみんなそれは理解しているようで、攻撃の流れを今までと変えつつある。

 ここからの連携で一気に沈めるつもりなのだろう。

 相手を狂乱モードに入らせないよう、被ダメージ硬直(リコイル)を発生させる大技を繋いで、倒しきる計画(プラン)だ。


 削り切れ無ければ、敵の狂乱モードで自分たちの最強技を返されるリスクはある。

 その上自分たちは大技直後の長期硬直(リコイル)で躱し辛い上、ターゲット固定もとっ散らかっているだろうから、守りにくい。

 ヘタすれば削りきれないところからの壊滅もあり得る。


 万が一に備えて、俺達も介入態勢に入るが、まあ大丈夫だろう。


 現時点で俺達を除いて人類最強の戦力、その連携を見せてもらおう。

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