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三位一体!? ~複垢プレイヤーの異世界召喚無双記~  作者: Sin Guilty
第六章 地方反乱編

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第67話 舞台裏で踊る者 上

 皇都ハルモニア上空に浮かぶ「浮島」は、人々から「神竜(バハムート)小屋」として親しまれている。


 ただ今はそこに、その愛称の元となった神竜(バハムート)の姿はない。

 今や万人が認める「絶対者」、「英雄シン」につき従い、グレイリット辺境領の「反乱鎮圧」に向かっているからだ。

 ごく短期間のうちに「世界会議」を守護する象徴となりおおせた神竜(バハムート)の不在に、人々はほんのわずかだけ不安を感じている。


 とはいえ差し迫った具体的な脅威があるわけではない。

 先の「大侵攻」も、結局「天空城」(ユビエ・ウィスピール)がなんとかしてくれた。


 本来たかが一辺境領の反乱など取るに足りない出来事にすぎず、「宿者」(ハビトール)様絡みとはいえ、「天空城騎士団」ユビエ・ウィスピール・ナイツ全員が「天空城」(ユビエ・ウィスピール)神竜(バハムート)まで伴っての出陣と聞いて、人々は驚きの声を上げたものだ。


 ただ同時に、「茨の冠」(Via Crucis)と、「宿者」(ハビトール)様が絡む問題について、「天空城」が一切の譲歩をしないという事を強く感じ取ってもいた。


 故に「反乱者」であるグレイリット辺境領に対する感情は、負のものとなる。


 今や自分たちの生活の拡大と安全のために、欠かすことのできない存在となった「天空城」

 その不興を買い、手を煩わせる存在を、人々はそれほどの疑問なく「悪」と認定する。


 辺境故の事情や、連絡の不備などを人々が顧みることはない。


 自分たちを守ったあの圧倒的な力で、「絶対者」に刃向う愚か者を徹底敵に滅ぼして「凱旋」することを人々は無意識に期待していた。


 慈悲を、救済を求める声など上がりはしない。


 その凱旋に万歳を叫ぶことで、自分達は「天空城」の側だと、まつろわぬ者ではないという事を表明しなければ、圧倒的な力を持つ者に対する恐怖を自覚してしまうからかもしれない。


 市井に生きる人々は本能で理解しているのだ。


 「天空城」という絶対者に逆らうはおろか、見捨てられるだけで自分たちの暮らしが終わるという事を。

 「大侵攻」の結果と神竜(バハムート)戦の映像。

 それらはもはや、文字通り「神」の域の力なのだから。



 それを十全に理解できていない者たちが、皇都ハルモニアの立派な建物の立派な部屋を、わざと薄暗くして会議を気取っている。


「シン様から届いた指示を伝えよう。現辺境伯であるナタリア・グレイリット及びグレイリット辺境領の全領民は「天空城」の直轄となる。グレイリット辺境領は「天空城」により殲滅された。その際の映像もある。対外的にはナタリア・グレイリット辺境伯は「天空城」に従わなかった罪で現場執行による死罪、領民の悉くはその罪に連座したこととする」


 円卓の一端で、元救世連盟首魁、現商業都市サグィン総督であるソテル老が告げる。


 「世界会議」の席だ。


 続いて「天空城」(ユビエ・ウィスピール)から送られてきた映像が「映像窓」に映される。

 神竜(バハムート)の「ブレス」から「流星光雨(メテオ・レイン)」の連撃(コンボ)による、物理的なグレイリット辺境領の破壊が生々しく映し出される。

 その後の「天空城騎士団」ユビエ・ウィスピール・ナイツによるグレイリット兵への無慈悲な蹂躙に、会議に参加する者たちから恐れを含んだ声が上がる。


「こ、これで一人も死んでいないのか? 本当に?」


「領民については我々「アレスディア大聖堂」が保証しましょう。家畜に至るまで、全て「大術式」による転移に成功しておりますので間違いありません。またこの「大術式」の行使は正式に「天空城」から許可、申請されたものであり、必要な魔力はすべて「天空城」より提供していただきました」


 一方的な虐殺としか見えぬ映像を目にした幾人から疑問の声が上がるが、それは神衣に身を包んだアレスディア教の一団、その中央に坐する教皇が保証した。

 アレスディア教は、「神子」クレアの再降臨を確認して以降、絶対の服従を「天空城」に誓っている。


 彼らにとって「神子」に逆らうことは神に逆らうに等しいことなのだろう。


 逆に言えば「神子」の力を正しく認識しているがため、逆らおうなどという馬鹿なことを考えないとも言える。

 その上、神の一柱である神竜(バハムート)を従えているのであればなおの事だ。

 今の「天空城」に従わぬという事は、彼らの教義、ひいては存在意義そのものに背くに等しい。


「兵達については言わずもがなだな。圧倒的な差があるが故に、殺す必要もなく無力化しているだけだ。見ている限りとてもそうは見えんが、兵たちは殺してよいとはせぬだろうよ、シン様は」


 兵達についてもアデルが説明する。


 「甘い」シン様が兵達を無碍に殺すことはない。

 またそうするだけの力を持っているのだ、「見せしめの虐殺」としか見えぬ映像の確保と、領民たちの生活保障をもって落としどころとするだろう、というのは祖父であるソテルもそう言っていた。


 アデルは全力で「天空城」、というよりシンの力になろうと思っている。


 文字通り世界(ヴァル・ステイル)を膝下に組み伏せ得る「力」を持ちながら、アデルから見て至極真っ当な、普通に善良な判断を下す存在。

 正直に言って甘い部分も多く、こっちを信用しすぎている節もあり、自分はそんなシンの政治面での懐刀となれればいいと。

 戦う力はなかったけれど、「救世神話」にその名を銘記されるダリューンのように。


 だが政治を含む「実務者」として偉大な祖父、ソテルには自分とはどこか違ったものを感じる。

 「天空城」を敵にまわそうとか、シンを自分に都合よく操ろうと言ったものではない。

 ただ何か面白がっているような、危ういものを感じるのだ。

 尻尾を踏んだらそこで御仕舞、それを十分に理解した上でそのギリギリに踏み込んでいるような。

 それならそれでいいという、一種捨て鉢とも取れるような空気。

 そういうものを祖父であるソテルは纏っている。


 今回の件でもそうだ。


 自分は先の「大侵攻」からの各所立て直しに専念しており、グレイリット領の「反乱」を精査することは出来なかった。

 ある意味それはしょうがない、未だ自分はシンの側近ではなく、世界会議を構成する一人であるに過ぎないのだから。

 人手も限られている中、現時点でシンに関わる全てに関わることは不可能なのだ。


 それでもこの件に、自分の祖父であるソテルが噛んでいるとわかった時点で安心していた。


 「天空城」、いやシンにとってデリケートな問題である「宿者」(ハビトール)絡みとはいえ、シンは分別のつかない血に飢えた復讐者というわけではない。

 グレイリット辺境伯が愚かであれば鎧袖一触で滅び、領民はそのまま安堵されるだろう。

 事実「継承の儀」では、シンの再臨と同時にその首を差し出すはずであった、「茨の冠」(Via Crucis)の継承者の多くは生かされている。

 人として一定以下の下種な行いをしていなければ、自分の中にある怒りをある程度呑みこんでくれる存在である事は、すでに立証されているのだ。


 だがソテルは「殲滅」を進言し、シンはそれに従わなかった形だ。

 その際に十分な情報を渡してもいない。

 ソテルであれば完全に把握できていたであろうし、グレイリット領からの陳情時点で握りつぶされていた事実の全ても掌握していたはずだ。


 何故だ? と思う。


 ただ同時にその真意はこの会議ではっきりするだろうとも確信している。

 自分の祖父は回りくどいことを厭う。

 今回の行動に狙いがあったのであれば、今回の件が片付くと同時にその結果を望むはずだ。


 そしてそれは自分の予想からそう大きく外れていないだろう。

 我が祖父ながら恐ろしいことをする。

 自分はこの会議で、絶対にシンの側近の位置を得なければならない。


 世界(ヴァル・ステイル)を滅ぼせる相手に、一手誤ればそれもやむなしで厳しめの教育をされる訳にはいかないのだ。


 ソテルは間違いなく、世界(ヴァル・ステイル)を掌の上に乗せた存在を「試す」ことを楽しんでいる。

 「茨の冠」(Via Crucis)を渡す際に終わるはずだったものが生きながらえたためか、歴代総督が至上命題としていたものを自分の代で完遂できたことによる解放感かはわからないが、ソテルの危うさはまず間違いなくそれだ。

 自分の命を懸けるのは好きにすればいいが、この場合巻き込まれるものが大きすぎる。

 シンの嫌気がさせば、今確実にいい方向へ拡大を始めた世界(ヴァル・ステイル)が停滞するどころか、終わることだってあるのだ。


 年寄りの賭け事のチップにするには、世界(ヴァル・ステイル)は少々大きすぎる。


 まあ自覚なく囀る連中よりはずっとマシともいえるのだが。


「し、しかしそういう事であれば、甘すぎるとも言えるのではありませんか」


 ほら来た。


 ウィンダリア皇国、フィルリア連邦、バストニア共和国に、アレスディア宋国。

 そして元「救世連盟」として世界を統べていた商業都市サグィン。


 情けないことに、案の定そういう事を言い出したのは自分たち商業都市サグィンの一員。

 シンによって「茨の冠」(Via Crucis)を所持しながら赦された者の一人だ。

 思わずため息が漏れる。


「ふむ。甘いな」


「左様です、ソテル老。本来であれば公開する通りに扱って然るべきもの。何故にシン様はこのような甘い裁定をなさるのか」


「そうです、いかなシン様とはいえ、こう言う例外を許せば組織は舐められます。「世界会議」である我々が「討伐対象」とした以上、シン様にもそれには従っていただかなければ、「世界会議」の鼎の軽重が問われましょうぞ」


「だいたい我々ですら「浮島」の居室も与えられていないのに、「反乱者」達が「天空都市」の住民になるなど、物の道理が通っておらぬ」


 最初は自信無げに告げられた言葉を、ソテルが肯定したことによって幾人かが勢いづく。

 今回は複数国の者が混ざっているようだ。

 沈黙を守っているのはアレスディア宋国の者達のみである。


「ふむ。ではどうする?」


「――は?」


 いっそ楽しそうにも聞こえるソテルの言葉に、勢いづいていた者たちの言葉が止まる。


 なるほどそういう事か、とアデルは一人納得した。

 「世界会議」に籍を置きながらも、正しく現状を認識できていない者たちの強制的な意識改革。

 「処理仕事」は有能なこの連中を、これ以上削るわけにはいかない。


 では強制的に現状を正しく認識させる。


 そのために「グレイリット辺境領の反乱」は使われたというわけだ。

 最悪の形になっていても、まだシンはここでは切れないという確信があったのか、切れるなら切れるでいいと思っていたのかわからないところが恐ろしい。


「シン様の判断は甘いです。そんなことをされれば「世界会議」の面子が立ちません。だからシン様が生かすと決めた者達を「我々の指示に従って」シン様が殺してください、お願いします。と、こういうのか貴君らは」


「――っ!」


 そんなことを言えるわけがない。

 にも拘らずこんなところで「世界会議」を気取って、シンの甘さを論う。


「それとも「茨の冠」(Via Crucis)がなくなれば後は簡単、各国の正規軍でグレイリットの兵と領民を改めて蹂躙するかね。ナタリア・グレイリット辺境伯は捕えて火炙りあたりが妥当か?」


 誰も声を発するものはいない。

 それもできるわけはない。

 自分で自分の死刑執行書にサインするような行為だ。

 各所から、先の発言に組していなかった者達、現状を正しく理解できる者達からのため息が漏れる。


 アデルも我知らず、同じような溜息をついていた。


「そんなことより、グレイリット辺境領からの陳情を握りつぶした者、正しくシン様に情報を伝えなかった担当者が震えあがっていてしかるべきだと思うのだが、どうかね?」


「そ、それはソテル老が一括してシン様への報告と相談を!」


「そうだね、私も責任は免れ得ないだろう。いや、もっとも責任を問われる立場なのは間違いないね。だがどうかな、私一人の首で納得してもらえるものかな、シン様に」


 反射的に上がる反論を、そのまま肯定して受け入れる。

 その上でこの「反乱」に直接かかわった者達を一瞥する。


「幸いにしてシン様の判断により、物理的なグレイリット辺境領が壊滅するだけで事は済んでいる。きちんと謝れば赦してくれるかもしれない。だが事実は必須だな。私は私の無能ゆえ、グレイリット辺境伯からの陳情も、グレイリット辺境領の現状も、誰からも報告を受けておらん。愚かにも私はその状態で出した判断をシン様に進言したがな、「殲滅」すべしと」


 関わっていた者たちが青ざめるのがわかる。


 「天空城」の尻尾を踏みたくないばかりに、自分たちの今までの感覚で、たかが一辺境領と侮って扱ったばかりに、自分の足元が崩れようとしている。

 ソテルが自分の無能を認めて処断されてしまえば、次は実務担当者の責任が問われる。

 「情報」を正しく上げていたのであれば、責任はすべてソテルのものだ。


 責任者とはそういうものだから。


 だが、正しく情報を伝えていなかった場合は実務担当者の責任だ。

 ソテルの責任とは切り離され、実務担当者は「なぜ情報を握りつぶしたか」の責任を問われることになる。


「シン様方がその気になれば、我々個人の行動を詳細に把握することが可能なのは知っていよう。あれをまさか「会議」の最中だけだと判断しているような痴れ者はおるまい?」


 そうだ、直接確認されれば偽る手段などない。

 「こんなことくらい」で、そういう事態になることを全く想定していなかっただけだ。


「またきちんと状況を理解できていない者がいるのは「世界会議」としては大変遺憾だ。この際だからはっきり言っておくがな。シン様は「機嫌のいい破壊神」だ。是非善悪その一切合切を無視して、機嫌を損ねたら世界(ヴァル・ステイル)は終わる。それをちゃんと理解してるかね?」


 いっそ楽しそうに話し出したソテルの言葉に、自覚できていなかった者たちはすべて凍りつく。


「我々はシン様が機嫌よく世界(ヴァル・ステイル)を支配できるように、後で知ったら嫌な気持ちになることが無いように、十全にシン様の性格を把握して、必要な情報と準備に奔走せねばならんのだ。善良だが甘い普通の少年の精神に、神すら超える力が宿っている。いいか。癇癪起こされたら世界(ヴァル・ステイル)は終わるのだ」


 何のつもりで「世界会議」の一員など気取っていたのか。


 言い換えれば、最も恐ろしい、尻尾を踏みかねない位置で動き回っているのが自分たちなのだ。

 そう自覚できたものが血の気を引かせた瞬間。


 初めから薄暗くされていた室内が突然、漆黒の闇に包まれる。

 なにも見通すことの出来ない真の闇。


「いくらなんでも、それはシン君に失礼なんじゃないでしょうか?」


 「英雄シン」の「両翼」

 その「片翼」である(ヨル)の声が室内に響く。


 ソテルを含む全員が、驚愕に襲われた。

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