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三位一体!? ~複垢プレイヤーの異世界召喚無双記~  作者: Sin Guilty
第六章 地方反乱編

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第65話 憧憬と現実

 ナタリア嬢が初めて「ブリアレオス」と()()()()のは、まだ六歳の時だったらしい。


 「茨の冠」(Via Crucis)を使用して実際に動かしているのは先代だったが、凄くドキドキした事を覚えているとのこと。

 まあ一目惚れだな。


 そうなる理由も理解できる。


 中央ではこの千年絶えていると言われる魔物(モンスター)の侵攻だが、辺境であるグレイリット領では一代に一度くらいの頻度で発生する。


 いや、人の側が発生させるというべきか。


 辺境でも、いや辺境であればこそ、暮らしを営めば増えていく領民を養う為に、一代に一度程度の頻度で魔物(モンスター)領域を開拓せざるを得なくなる。

 当然の帰結としてその領域の魔物(モンスター)が、「侵入者」である人を襲うのだ。

 「敵」とみなされた人が最も多い場所であるグレイリット領都が、「魔物(モンスター)の大侵攻」――あくまで彼らの基準に沿っての規模だが――に晒されるのは自明の理である。


 魔力を逸失し、本来であれば抗する事の出来ないはずの魔物(モンスター)を退け、領都とそこに暮らす領民を救うのは辺境伯の務めであり――


 それを可能にしたのが代々領主が引き継いできた「茨の冠」(Via Crucis)と「宿者(ハビトール)の抜け殻」、つまり「ブリアレオス」であったというわけだ。


 ナタリア嬢の話による「ブリアレオス」氏の特徴は以下の通り。


 圧倒的な巨躯を持ち、鍛え上げられた筋肉は実際に巨岩を小石のように投げつけることができる。

 顔は御世辞にも美形とは言えず、厳めしい顔に髭を生やした武骨なものであったらしい。

 鈍色の全身鎧(フル・プレート)を身に纏い、人が太刀打ち出来ない筈の魔物(モンスター)を素手で引きちぎり、全ての攻撃を無効化する様子は、幼いナタリア嬢に「グレイリットの守護者」として強烈な印象を与えた。


 まあ自キャラに「ブリアレオス」と名付けるからにはその方向だよな。

 厳つい見た目も、おそらくパワーファイター系のジョブ構築(ビルド)もよく理解できる。

 複垢かサブキャラで「コットス」と「ギュゲス」もいそうだ。


 ナタリア嬢は母親を早くに病で亡くし、父親のダレス・グレイリット前辺境伯も、病弱で線の細い美形だったらしい。

 ナタリア嬢本人を見ていれば、武骨な両親は想像できないしな。


 一目ぼれ、というよりは強烈な「父性」に惹きつけられていたのかもしれない。


 そして中央で俺達が大騒動を起こしている中、ダレス・グレイリット前辺境伯が病で身罷る。

 齢十九の若さで――いやそこはそうでもないのかな、この世界(ヴァル・ステイル)では――辺境伯を継ぎ、不安の中でもなんとか同じく受け継いだ「グレイリットの守護者」を頼りに、辺境領の運営と、そろそろ必要になってきた魔物(モンスター)領域の開拓を進めようとしていた。


 その矢先、中央から無条件で「茨の冠」(Via Crucis)と「宿者(ハビトール)の抜け殻」――「グレイリットの守護者」を差し出せとの達しが届いたというわけだ。


 同時に指示された「奴隷解放」「種族差別撤廃」は特に問題にはならなかった。


 そんなに大量に奴隷を持てるほど裕福な訳ではなかったし、大事な財産を使い潰すような接し方をしていたわけではない。

 中央からも奴隷解放に対する保障なども提示されていたこともあり、素直に従えた。

 種族差別などは、そもそもそんなことに興じていられるほど辺境の暮らしは温くない。

 各分野において突出した成果を出せる獣人や亜人は、供に辺境を開拓する仲間として尊敬を集めてさえいるのが、辺境領の現実であったのだ。


 唯一、簡単に承服する事が出来なかったのが「グレイリットの守護者」を失う事であった。


 その代替となり得る軍の派遣などの提示もなく、ただ無条件で寄越せと言う。

 それはグレイリット辺境領にとって、「滅べ」と言われているに等しいことだった。


 開拓せねば増えていく領民を養うことは出来無い。

 だが、「グレイリットの守護者」無しで魔物(モンスター)領域の開拓をすることは自殺行為だ。

 では開拓をあきらめて、中央へ養いきれなくなった領民を送り出したとしてどうなるか。

 そもそもの教育レベルの違いや、辺境伯程度の伝手では、ほとんどの者はそのままスラムの住民になるしかないだろう。


 美しい女たちが辛うじて娼館で食べていけるくらいか。


 豊かではないまでも、皆が助け合って少しずつ発展してきたグレイリット辺境領はその歩みを止める。

 そればかりか、ゆっくりと衰退していくだろう。

 それも継いだばかりの自分の代から。


 そんなにあるわけではない、あらゆる伝手を頼って中央と交渉した。


 そもそも「茨の冠」(Via Crucis)と「宿者(ハビトール)の抜け殻」は、初代グレイリット辺境伯が正式な手段をもって入手したものであり、一方的に差し出さされる謂れはないという事。

 「グレイリットの守護者」を失えば、グレイリット辺境領は実質滅びに向かってしまう事。

 どうしてもというのであれば、それに見合う戦力の提供をお願いしたい事。


 グレイリット辺境領からすれば、至極真っ当なはずのこれらの要求は、ことごとく黙殺された。


「例外は認められない、無条件で差し出せ」


 と最後通告を突きつけられた際、追い詰められたナタリア嬢は「拒絶」を明言してしまった。

 「ブリアレオス」氏と離れたくないという淡い憧憬も、確かにあったのだろう。

 だが守るべきものを奪われて、絶対に勝てないとわかっている俺達に、それでも向かってきた家臣団や兵達。

 彼らはそんな甘ったるいものだけで、若い領主が挙兵することに従ったのではなかったのだろう。

 認めれば緩やかに滅ぶのが現実であれば、自分たちの決意を見せれば譲歩を引き出せるかもしれない。


 そんな賭けだったというわけだ。 


 その賭けに対する中央の決定は一言、「討伐対象と見做す」という無慈悲なもの。 

 賭けは最悪の結果を示し、「天空城」と神竜(バハムート)が守るべき故郷を蹂躙することになる。

 平原への兵力展開は、中央の決定を受けての事だったというわけだ。

 

 それはそうだ、「茨の冠」(Via Crucis)と「宿者(ハビトール)の抜け殻」の件については「天空城」の尻尾を最も踏みやすい事案だと、「世界会議」全体で認識されている。

 実際に俺の怒りに触れたものが何人もいるし、皆殺しとまではいかなくとも、「赦さない」と俺に判断された「大貴族」と呼ばれた立場の人間が、十数名規模であっさり処刑されている。

 元「救世連盟」に所属していた連中からしてみれば、「天空城」から降らされて弾け散った三人の事は記憶に鮮明だろう。


 こう言ってはなんだが、たかが一辺境領の抵抗のために、今や絶対者である「天空城」の尻尾を踏みかねない事案に踏む込む物好きなど居ない。

 俺も実際報告で聞くだけなら、「宿者」(ハビトール)を物のように扱っていると受け取ったかもしれない。


 いや実際、物のように扱ってはいるんだ。


 「グレイリットの守護者」などと有り難がって呼んではいるが、自分たちの発展のためにプレイヤーキャラクターを勝手に、便利に使っていることに変わりはない。

 

 でもどうなんだこれ。

 俺の感情で一方的に断じてしまっていいものじゃない気がする。

 赦すにしても、裁くにしても。


 これは「本人に聞く」という意味でも「ブリアレオス」氏に「聖餐」(エウカリスティア)を使わせてもらう必要がある。


 しかしソテルの爺様、全部わかっててオレに「殲滅」を進言してるな間違いなく。


 やっぱ怖いわ、「支配者」であることを当然としていた年経た人間って。

 「絶対者」だからと言って、いや「絶対者」だからこそ黙って待ってれば全ての情報が開陳されて、無限の時間を与えられて、正しい選択を選ばせてくれるわけじゃないってことだ。

 都合の悪い情報は隠されることもあるし、捻じ曲げられることだってある。


 知りたい情報を正確に出させ、その上で自分で納得できるように判断する「義務」が、「絶対者」にはある。

 そんなの教えてもらってなかった、知らなかったんだよ、は通じない。

 誰にも文句を言わせない力を持つがゆえに、少なくとも自分自身が後悔しない答えを出す必要があるってことだ。

 

 泣き止んでから、しゃくりあげながらもなんとか語り終えたナタリア嬢に最後に一つ聞くべきことがある。


「是非は置くとして、挙兵に至った理由はまあわかった。だがそれならなぜ最も強力な戦力となり得る「ブリアレオス」氏を前線に出さなかった? 万が一でも勝ち目があるとすればそれだけだっただろ?」


「……それは、「茨の冠」(Via Crucis)継承の儀で、「この力を人に向けてはならぬ」と」


 金で買ったとしても、継承の儀はきちんとあったという事か。

 いやシステム的な制約で、言葉だけでもそれに同意しなければ継承がなされないのかもしれない。


 中途半端な。


 強制力も持たせておけば、馬鹿な連中も出なかったものを。


「継承の儀というのであれば、俺が現れれば継承者はその首を差し出せとなってはいなかったのか?」


「……い、いえ?」


 ああ、それはシステム面じゃなくて、「救世連盟」の代々総督に口伝で伝えられていただけって事かい。

 金で横流しするような連中が、買う相手にわざわざ伝える事じゃないわな。


 玉座に偉そうに座ったまま、上を向いてひとつ溜息をつく。


「わかった。――最終的な決定は後で伝える。部屋で控えててくれ」


「――はい」


 兵達や領民の安否を確かめさせてくれ、と喉まで出かかったのだろう。

 殊勝なことになんとかそれを呑みこんで、宛がわれた部屋へ下がっていく。

 まあ余計なこと言うと、アラン騎士団長マジで怖いからな。






「で、みんなはどう思う。忌憚なく行こう。番号順」


「……挙兵するしかなかったと、そう見てもいいのでは」


「死なせるほどの事ではないと思いますわ、我が主(マイ・マスター)


 夜とクレアは、俺の思惑に沿う意見しか言わないよな。

 いや、考え方も似ていると思おう。

 日本人の記憶がある俺としては、「勝ち目のない挙兵をした方が絶対悪」っていうのはちょっとつらい。

 いや、いろんな見方があるのは解ってはいるんだけれど。


「一度甘さを見せておいて、気分で掌返すのは好きではありませんね。やっぱり断ずるとするのであれば、初めからこのような空気にする必要などなかったはずです。それこそ「ブリアレオス」氏を「群体化」した際にナタリア嬢が深刻な虚偽をしていることが発覚しでもしない限り、一度赦したからには赦しましょう。そうしましょう、シン様」


 はい、すいません。


 ここで再びみんなの意見訊くくらいなら、この段階に至るまではナタリア嬢にきちんと厳しくあるべきでしたね。


 返す言葉もありません。


「忌憚なく、という事ですので。皇族としては死を与えるべきと判断します。代償として領民全ての命と暮らしが安堵されるのであれば破格でしょう。理由はどうあれ、ナタリア・グレイリット辺境伯は「天空城」に刃向ったのです。敗軍の将は責任を負うべきです。でも妾はシン兄様の味方です」


 皇族としての判断、という事を聞かせてくれている訳だ。

 うん、本当の意味で正しいのはそうなのかもしれないな。

 というかヨーコさんにバッサリ切られたように、事ここに及んで「忌憚なく」なんて言ってる俺が一番駄目だな。


 それでも味方してくれるのは心強いよ。


「フィオナ元第一皇女殿下に一票ですね。最終的にシン様の決定に従うことも含めて。刃向ってただ赦されるというのは……すいません撤回で。赦しましょう。そうしましょう。一回くらいは刃向いますって、人間だれでも。結果として大きな問題ないわけですし、「見せしめ」のための映像はとれたわけですし、そうしましょう」


 ああ、一番厳しいと思ってたけどそうね、アラン騎士団長はそうだよね。

 一回俺に喧嘩ふっかけてるもんなあ。

 ヨーコさんの一瞥で思い出したんだなあれ。

 あれも「赦す」の範疇に入るのかな、あれは唯のお約束だと思うんだけど。


 個人的にものすごく痛い思いもしてるわけだし。


「そうですね、皇族としてはフィオナお姉さまと同じ意見です。ただ賢しらにそれを進言してくる家臣がいた場合、己がナタリア・グレイリット辺境伯の立場であった場合の最善手をお聞きしたく存じます」


 これ間違いなく俺を楽にするための言葉選んでるよな。

 皇族とはいえガチ幼女にフォローいれられるっていうのも、なんと言うかあれだ、ちょっと快感だな。


「今回意外とまともだな貴殿ら」


 で、神竜(バハムート)は揺るぎなく世俗の事はどうでもいいと。


 うん、前回前々回と違って、ふざけるところじゃないと思ってくれたんだろうな。

 特に前回は俺へのフォローが強かったわけだし。


「……甘いとも思うけど、やっぱり今から殺すとか俺には無理だ」


 俺にとっての結論をみんなに伝える。


「だけど「ナタリア・グレイリット辺境伯」としては「貴族」としての責任を取ってもらおうと思う。愚かにも卑小な戦力で「天空城」に刃向い、兵士どころか領民全てを数百年かけて開拓した領土ごと滅ぼされて死んだ「愚者」として、歴史に名を残してもらう。それが彼女の貴族としての罰。そう決めた」


 溜息とか、失笑が漏れた。漏れたよ!

 ――ええい甘んじて受けるともさ。


 「ブリアレオス」氏を「群体化」した時に流れ込んでくる歴代グレイリット辺境伯の記憶が、まともなものであることを祈る。

 少なくともナタリア嬢とその御父上は真っ当であってくれ。


 今の決定を覆さなくていいように。 

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