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三位一体!? ~複垢プレイヤーの異世界召喚無双記~  作者: Sin Guilty
第五章 堕神降臨編

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第55話 力の意味

 どうやら俺はもう、人じゃない。


 いやそんな深刻な話じゃないんだけどな。

 そもそも(ヨル)は「吸血鬼」だし、クレアは「神子」だしで、晴れて人外三人組になったというだけの話だ。


 ただ(ヨル)やクレアにもある「種族専用スキル」――俺の場合「権能」とされている――がちょっと、いやかなり危険というか、かっとんだものだということを除けば。


 ステータス的にはまんべんなく伸びているが、そこまで凄まじいというほどのものでもない。


 というかレベル99がカンストであったものが、「()()()()の肉」によって制限解除され、レベル107になったせいもあるのでそこらへんは解りにくい。

 レベル100以降のステータス曲線なんて存在してなかったから、覚えようもないしな。

 つまり今の数値が「種族転生」によるものか、レベルアップによるものかの判断がつかないのだ。


 それよりもまず、夜とクレア、ヨーコさんとフィオナに「俺」の事を詳しく説明しなければならない。

 その前提がなければ、俺の権能「聖餐」(エウカリスティア)の説明がやりにくい。


 「宿者」(ハビトール)という概念は理解できているので何とか通じるかもしれないが、この四人にならまあ、話してもいいだろう。


「「俺」が、本来シンを「宿者」(ハビトール)たらしめていた存在ってのは理解してくれてると思う。もう今は混ざっちゃってるわけだけど。ちょっとわかりにくい話だろうけど、聞いてくれ」



 そう言って俺は、話し出す。


 この世界(ヴァル・ステイル)が「俺」にとっては「ゲーム」であったこと。


 シンを含め、夜もクレアも、ゲームである「F.D.O」フィリウス・ディ・オンラインのルールに沿ってはいるものの、ある意味においては俺が「創った」ということ。


 この世界(ヴァル・ステイル)「宿者」(ハビトール)と呼ばれた者たちはすべて、俺と同じプレイヤーだったこと。


 フィオナやヨーコさん、ガルさんたちはNPCノンプレイヤーキャラクターと呼ばれる、初めからこの世界(ヴァル・ステイル)に存在している人たちだということ。


 「俺」の世界でゲームである「F.D.O」フィリウス・ディ・オンラインが終わるのに合わせてアストレイア様に会い、世界(ヴァル・ステイル)の存続のために自分のプレイヤーキャラクターであったシンと合一したこと。


 そして意識を取り戻した時には千年が経過しており、俺にとっては「現実となった世界(ヴァル・ステイル)」に居たこと。


 合一したシンの記憶から、シンや夜、クレアにはちゃんと自分の意志があることがわかり、驚いたと同時に嬉しかったことを伝えた。


「えーと、ちょっと理解が追い付きません。違います。私の頭が悪いせいじゃありません。まずゲーム。ゲームってつまりなんですかシン君」


「そうなあ、例えば「映像窓」に映っているシンや夜やクレアを操作して、千年前の冒険を「映像窓」を見ながら操作というか、指示してたというか……わかりにくいよな? 本来「俺」は直接この世界(ヴァル・ステイル)に干渉できてなかったんだよ」


「わ か り ま せ ん わ」


 うん、言葉では伝わりにくいよな。

 俺もうまく説明できている自信なんてまるでない。


 こうなったら実演しかない。


(ヨル)、クレア、そこに立って、俺の目の前にそれぞれ二人を中心に、背中から映した「映像窓」出してくれるか。それぞれの「映像窓」は常に(ヨル)とクレアを中心に映すように設定してくれ。視点は固定で。それと同じ映像窓を全員にも送って」


 そういうと、俺の目の前に夜とクレアが中心に映された「映像窓」が二つ立ち上がる。

 そうそう、こんな感じこんな感じ。


 その上で「三位一体」(トリニティ)を強く発動させる。

 こうすれば俺が「こう動いてほしい」という意思と、夜とクレアが「こう動きたい」という意思が一致する。

 どちらが発信側で、どちらが受信側か判然とはしないが、少なくとも俺にとっては「思った通りに二人が動いてくれる」状態な訳だ。

 コントローラーがないだけで、自分のプレイヤーキャラクターを操作している状態と言っていい。


 いきなり(ヨル)がクレアのスカートを盛大にめくる。


 白か。


 あまりのことにクレアは固まっている。

 ただこの場合、俺がクレアにどうしてほしいかを考えていないから、固まっているともいえる。

 このあたりは運営が提供していた複垢サポートシステムによるところも大きいだろうから、本来半自動に近いものなのだろうけど。


「な、な、いきなりなにをしますの(ヨル)!」


「いえ、ぼーっと立っててもなんなので、取りあえず、あいかわらず白なのか確認しようかと」


「意味が解りませんのよ!」


 向き合っていつものようにぎゃいぎゃい始める。

 当然このあたりも俺の意志は介入していない。


「……ちょっとまってください。実験の意味から考えると、今シン君もクレアのスカートめくろうと思ったってことですよね」


「そういうこと」


「さらっと、「そういうこと」ではありませんわ!」


 夜とクレア、二人がこちらを向いて確認してくる。

 もちろんクレアは御立腹の様子。


 だが位置は移動していない。


 向いた方向に追従して「映像窓」が回り込むので、厳密に言えばゲームの時とは違うけれどこれで大分伝わりやすい状況になったんじゃないだろうか。


「「ゲームとして二人を操作する」って、今みたいな感じ。移動やそこで他に影響を与える具体的な行動はこっちが指示してるけど、それ以外の、たとえば台詞とか、仕草とかはこっちの指示じゃなくても発生する。今の場合だと、スカートめくったのは俺の意志でだけど、夜は自分でそうしようとしてやってる。その後の会話とか、こっち向いて話してるのは俺の意志に関係なくやってる。わかる?」


「……なんとなくは」


「スカートめくりの罪状はどこへいきましたの?」


「ごめん」


 これでなんとなくでも伝わっただろうか。

 十全に伝えるのは無理だと思うけど、なんとかうまく伝えられないものか。


「肝心なのは、本来「映像窓」の()()()()()()()()は完全に断絶してて、双方への移動は絶対に不可能だったって事。そもそも俺はこの世界(ヴァル・ステイル)が本物とは思ってなかった訳だし」


 そうだよな、思いっきりはまっていたし脳内設定や物語は生み出しまくってはいたけれど。


 あのサービス停止の日、運営の引き継ぎ勧誘かとさえ思っていた女神アストレイア様からの接触がなければ、俺は残念な想いは抱きながらも「人生で最もはまったゲーム」として思い出にするしかなかった。

 

「なんだと思ってたんですか」


「わかりやすく言えば本の世界。神話や夢物語のようなお話があって、その中に自分の好きな登場人物を登場させて、お話そのものに参加したり、展開に影響与えたりする感じ。それがゲームだと思ってもらえばいい」


 具体的な操作方法云々より、こうやって概念的な伝え方をしたほうがわかりやすいかもしれない。

 RPGって、言ってみれば大筋は決まっているけど、操作するプレイヤーキャラクターを介して介入可能な物語だもんな。

 MMOとなれば、それがつながっていて、相互に影響しあうというだけで。


「本の中の登場人物がこっちに現れたり、読んでいる私が直接本の世界に入る事なんで不可能ですもんね」


 (ヨル)、その通り。

 その辺の捉え方をしてもらえれば大体正解だと思う。


 俺達はよく、


「液晶邪魔、俺の嫁に直接会えない」


「どうやったら液晶の向こう側へ行けるんだよ、教えてくれ」


「日本の技術がんばれ。超がんばれ。俺が死ぬまでに二次元へ行く方法を生み出してくれ」


 とか馬鹿なこと言ってたが。


 考えてみれば俺は今、そういう人間が一度は夢見る状況に居るってことだよな。

 もっとありがたがるべきかもしれない。


 思えばVRシステムが行き着くのは、その理想形だったのかもしれないな。

 あの日、VRバージョンの「F.D.O」フィリウス・ディ・オンラインが出ることを確かに期待した。


「俺が読んでいたのは不思議な魔法の本で、読み始める前にその物語に干渉できる登場人物を創ることができた。それがシンと夜とクレア。読み始めると周りの情景や、街の状況が綴られ始め、シン、夜、クレアを自分の好きなように行動させれば物語が進んでいく。文体は三人称視点だから、細かい仕草や心情全てが書かれている訳じゃない。そんな感じかな」


 (ヨル)やクレアは今のところ深く触れてこないけど、シンさえも含み、(ヨル)、クレアを「俺」が自分の好みで「キャラクタークリエイトした」という部分が、何となく俺が二人に、俺にとってこの世界(ヴァル・ステイル)がゲームであったことを伝えるのを躊躇わせた原因だ。

 

 自分が誰かに創られた存在っていうのは、あまり気持ちのいいものじゃないだろう。


「その本に描かれていた物語が、千年前のいろいろってことですの?」


「そう。で、どう言ったらいいかな、ある意味魔法が切れて、もういくら頁をめくっても物語が綴られなくなるという時に、本の中から女神アストレイア様が現れて「本の中に来てくれませんか、あなたが生み出した分身である「シン」と合一すればこの本の世界は続きます」っていう話に乗ったのが俺」


 魔法切れ、か。

 人気がなくなって運営が立ち行かなくなることを「魔法切れ」と称するとは、我ながら欺瞞が過ぎるかな。

 だが他にうまい言い回しも思いつかない。


「神託による世界の終わりへの抵抗ですね」


「千年前の、あの時ですわね」


「そう、その神託に応えたのが僕。それが合一して今はまあ「俺」って言ってるけど、現状のシンな訳だ」


 地球世界でのゲーム「F.D.O」フィリウス・ディ・オンラインのサービス停止が、この世界(ヴァル・ステイル)の終わりにつながるというのはよくわかる話だ。

 ゲームがあってこそこの世界(ヴァル・ステイル)があったわけだし、それがサービス停止でサーバーも何もかも無くなるんであれば、この世界(ヴァル・ステイル)が消滅してしまうのは自明の理だ。


 自明の理か?


 なんかおかしいな。

 おかしくないか。


「漠然とですが理解できた気はします」


「夜がそういうなら私もですわ」


 クレア理解してないだろう、じつは。

 まあぼんやりとでもそういうものだと思ってくれればいい。

 ……なんか引っかかるけど、まあ深く考えなくていいだろう。


 この前提があれば、今俺に宿った権能――「聖餐」(エウカリスティア)も説明できる。

 

「シン様、一つよろしいですか」


 そういえばいつもはなんだかんだ話に加わってくるヨーコさんがずっと黙ったままだったな。

 珍しいこともあるものだ。


「なんですか」


「今のお話は少なくともまず夜様、クレア様とお話になってから、私とフィオナ元第一皇女に話すかどうかを決めるべきだったと思います。信頼してくださるのは嬉しいですが、あまりに不用意です。今のシン様のお話は、自身が神、いえそれさえも本の中の存在であることを鑑みれば、それ以上の存在であったということを明かすものです。もう少し慎重になってください」


「……ごめんなさい」


 いつもふざけてるのに、こういう時だけは真面目だ。

 正直びっくりしたけど、ありがたい助言でもある。

 同時にヨーコさんが信頼に足ることも、今の発言で分かるような気もするけど。


 でもこういう忠告は素直に受け入れたほうがいいだろう。


「で、それを説明した上で、俺の「種族転生」の結果手に入れた能力の事なんだけど」


「もう変わっておりますの?」


「私の時もクレアの時も、それなりに派手な演出が伴った気がします」


 ああ、「吸血鬼」覚醒と、「神子」降臨はすごかったね確かに。

 でも俺、自分が転生した種族がなんなのかまだ分かってないんだよな。

 

「第一段階って事だからかな? 別に見た目も含めて何も変わってないよな?」


「そうですね。角も生えてませんし」


 うん、それはほっとした。

 銀髪に金銀妖眼(ヘテロクロミア)とかになったらどうしようかと思った。

 ちょっと喜ぶかもしれないけど


「で、能力の説明をどうぞ、シン様」


 ……すいません。

 なんか今日は役割が逆な気がする。


「うん、「聖餐」(エウカリスティア)――スキルじゃなくて「神の目」(デウス・オクルス)には権能って表示される。俺の血肉を与えた対象を、疑似「宿者」(ハビトール)にすることができる。その上「群体化」みたいに支配することもできる能力らしい」


「どういうことですの?」


「それってつまり……」


 クレアはピンと来てないみたいだけど、夜は本の例えでなんとなく理解できているのかもしれない。

 この能力がゲーム、夜にとっては「本」としての在り方を根底から揺るがしかねないものだということを。 


「あくまでもさっきの魔法の本の例えに沿うならば、俺、夜、クレアは主人公であり、その行動が物語の展開に直接影響を与え得る存在だ。ヨーコさんやフィオナ、ガルさん達、逆に主要な敵なんかも物語の重要人物のポジションになる。主人公がある程度介入できるにしても、物語の大筋を破綻させないために、役割を定められている存在ってことだな。それを物語に影響を与え得る、主人公側に引きずり込むことができる能力、それが「聖餐」(エウカリスティア)って事。これは、「物語」そのものを破綻させ得る能力と認識して間違いないと思う」


 これはある意味むちゃくちゃだ。

 「F.D.O」フィリウス・ディ・オンラインはコンピューターゲームだったけれど、この能力は一プレイヤーを物語を作る側、いわゆる運営やゲームマスター側に置くに等しい。


「凄い能力ってことですよ、ね?」


「適用される範囲によっては、めちゃくちゃだな。たとえば千年前の魔王にも適用されるなら、彼女は世界(ヴァル・ステイル)の敵ではなくなる可能性もあるってことだ。彼女があの人類と戦う理由を放棄するかどうかはわからないけど、少なくとも物語に強制されて敵役を演じるような……」


「どうしたんですの、我が主(マイ・マスター)


「シン君?」


 不意に気付いた。


 そうかそういうことか。


 疑似「宿者」(ハビトール)化からの「群体化」というコンボによって自分の意のままに対象を操る事にまず目が行きがちになるが、その本質は違う。


 元がゲームである「F.D.O」フィリウス・ディ・オンラインが現実化したこの世界(ヴァル・ステイル)を、元がゲームであるがゆえに持つシナリオや運営の設定という楔から解き放つ能力ともいえるのだ。


 敵役でいなければならないから敵役である人物や魔物(モンスター)を、己の意志で世界(ヴァル・ステイル)に関われることを可能にする能力。


 そうとも取れるのだ。


 俺が自分の都合優先で「群体化」を使用さえしなければ、物語を破壊する能力ではなく、物語から解放する能力。

 

 本当の意味で、この世界(ヴァル・ステイル)を「現実」にするための力。


 だけど。


 この能力――権能だって、()()()()()ものだ。

 この世界(ヴァル・ステイル)を支配する、俺がよく知るゲームのようなシステム。

 

 それが今俺を構成する全てを与えてくれている。


 「三位一体」(トリニティ)も。

 「神の目」(デウス・オクルス)も。

 七罪人ira:コード「Satan」も。 


 ジョブも。

 アイテムも。

 レベルやステータス、スキルや術式も。

 スキル・カスタマイズやスキル・コネクトも。


 「天空城」(ユビエ・ウィスピール)も。


 (ヨル)やクレアでさえも。

 いや「俺」が宿っている「シン」自身ですら。


 俺がこの世界(ヴァル・ステイル)で強く在れるすべては、俺がゲームを知るがゆえにそういうものだと思っていた、システムめいた何かが与えてくれている。


 それが何故そのシステムが存在する意義、根本である「物語」を壊しうる能力を俺に与えるのか。

 今は解らない。


 だがまずはこの力を駆使して、最強であることだ。

 何かに負けては、真実にはけしてたどり着けない。


 そうあるためには、この力はこの上なく有効なものだ。


 それには……


「シン兄様」


「シン様」


 いつにない真面目な表情でフィオナとヨーコさんが俺の前に立つ。


「権能「聖餐」(エウカリスティア)の実験ですが」


「――妾達でやってみることを提案します」


 そう決意を込めた言葉を二人がかけてくれた瞬間。

 


 「天空城」(ユビエ・ウィスピール)の索敵哨戒システムが、けたたましくアラームを発し始めた。 

いつもお読みいただきありがとうございます!


やっと書きたかった所までたどり着いた感じです。

面白いと思っていただける展開であればいいのですが。


次話「堕神降臨」

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